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しおりを挟む絶賛全国ツアー中の聖南ともしばらく会えない日々が続いた。
社長直々の通達によって外出禁止を言い渡されてる身では、そうそう出歩けない。
Tzホールでの二公演の後は遠く離れた地方へ行ってしまったから、いくら聖南に「会いてぇ!」って電話越しに言われても会えないもんは会えない。
俺だって会いたいよ……。
テレビでCROWNのライブの映像が流れる度にヤキモキしてるよ……。
「……葉璃? ……チョコリスタ飲む?」
「えっ、あるの?」
「帰りに、だよ」
「なーんだ……今あるのかと思った……」
あんまり立ち寄る事のない大きな事務所ビルにドギマギしてたら、隣を歩く恭也に顔を覗き込まれた。
今週金曜日にデビュー会見を控えた俺と恭也は、日曜の午前レッスン後にそのまま事務所へ寄るようにと言われてたから今二人で向かっている。
あれから週一ペースで恭也は俺にチョコリスタを買ってくれてて、美味しくてドハマりしてるから期待して目を輝かせたけどクスクス笑われてしまった。
「今の今まで、葉璃と一緒に居たのに、あるわけないでしょ? 今日どうしたの、天然炸裂して」
「天然じゃないもん。 ……俺達外出禁止だから寄り道もダメなんじゃない?」
「そっか、そうだね。 ……残念」
外出禁止っていうのがどの程度までなのか分からないけど、デビューを控えてる身だという事を今さらながらにしみじみ感じ始めてきてる。
ついにその日が迫っていると思うと、今から手足が震えてくるからヤバイ。
初めて春香の影武者をした時の生放送の出番前と、ちょっとだけ気持ちが似ている。
逃げたくても逃げられない現状に、俺は押し潰されそう……でもやるしかない、ってそんな心境。
結局、震えてはいるんだけどね。
「あ! 恭也君、葉璃君、こっちこっち!」
事務所の一階ロビーで待っていた林さんに手招きされて合流すると、すぐに社長室へと連れて行かされてさらにまた緊張が増す。
聖南との事がバレて逃げ出してしまったその夜に電話で話して以来だから、社長と面と向かうのはかなり久しぶりだ。
「来たか、座りなさい」
「はい」
「……失礼します」
何で俺達を呼び出したんだろう。
色んな思いが巡って不安な中、上等そうなソファに腰掛けるとふかふか過ぎてちょっと沈み込む。
足がバタついたのを恭也に見られてしまってまた笑われた。
林さんはと言うと、俺達の背後に立ったままで大塚の社員さんだからか、可哀想なくらい俺より緊張した顔してる。
当然と言えば当然だけど、社長が居るってだけで物々しい雰囲気になるから緊張するなって方が無理だ。
「お茶を頼む」
重厚な椅子に腰掛けた社長が、扉前で待機していた秘書の女性にそう声を掛けると一礼して女性は扉を出て行った。
「お疲れーっす」
「…………っっ!!」
と、同時にサングラス姿の聖南が入室してきて、その姿を見た瞬間分かりやすく俺の心臓が飛び上がる。
───せ、聖南だ……!!!
この二週間、聖南の声だけで日々を乗り切ってたからまさか今日会えるなんて思ってもみなくて、思わずその姿かたちを凝視して見惚れてしまった。
「間に合ったか、セナ。 すぐに出ないとならんのだろ?」
「お疲れ、葉璃、恭也。 そうなんだよ。 一時間も無ぇ」
「ならば手短に話す。 セナも掛けろ」
「おぅ」
腕時計を確認した聖南が、俺達と対面する方のソファへと腰掛ける。
俺は、社長室の緊張感なんかすっかり忘れて髪型と髪色の変わった聖南に釘付けだった。
カッコいい……。 毎回会う度に思ってるけど……聖南、こんなにカッコ良かったっけ?
前髪は残してサイドと後ろをまたちょっと短く切ってる……そして髪色はこれ何ていうんだろう?
グレーなんだけど青が少し混じってて綺麗な色だ。
ついジーッと見詰めてたら聖南がサングラス越しに俺を見てきて、フッと笑い掛けてくれた。
「…………っっ」
セクシー過ぎる口元からヤンチャな八重歯が覗いて、俺は体をビクつかせて慌てて視線を逸らす。
ちょっと会わないだけで、ちょっと髪型とかが違うだけで、聖南はすぐ俺の心臓持ってっちゃうんだもん……。
「今週末のETOILEのデビュー会見だが、CROWNの三人は会見場には一切立ち入らないように。 二人の質疑応答は五分間で、あとは事務所の広報が受け答えしてくれるだろう。 カメラが数十台目の前にある状況下だ。 緊張するかもしれないが、愛想良く頼むぞ」
聖南の出発まで時間がないとの事で、社長がすぐにそう切り出してきた。
「……はい、がんばります」
「……分かりました」
その声に、俺と恭也は恐る恐るだけど社長に頷いて見せた。
もう逃げられないし、今日までほとんど休み無くレッスンをがんばってきたんだから、胸を張って会見に臨まないと。
でもなぁ……そんなにたくさんカメラが入るのかぁ……。
もう少しこじんまりした会見場を想像してたのに、思った以上に人が集まりそうだ。
……気絶したらどうしよう。
「会見の金曜日は俺ら仙台に居るから、どのみち会見場には居られねぇよ」
「そうだったか。 セナの事だから何がなんでも来そうだと思ったが」
「いや俺もそこまで無茶はしねぇって。 二人はしっかりETOILEの基盤作ってくれると思うよ。 それだけの練習量と実力あっから、大丈夫。 会見なんか瞬きしてたら終わるから心配すんな」
なっ?と、聖南が俺達に向かって笑顔を向けてくれた。
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