必然ラヴァーズ

須藤慎弥

文字の大きさ
上 下
417 / 541
58♡

58♡2

しおりを挟む



 絶賛全国ツアー中の聖南ともしばらく会えない日々が続いた。

 社長直々の通達によって外出禁止を言い渡されてる身では、そうそう出歩けない。

 Tzホールでの二公演の後は遠く離れた地方へ行ってしまったから、いくら聖南に「会いてぇ!」って電話越しに言われても会えないもんは会えない。

 俺だって会いたいよ……。

 テレビでCROWNのライブの映像が流れる度にヤキモキしてるよ……。


「……葉璃? ……チョコリスタ飲む?」
「えっ、あるの?」
「帰りに、だよ」
「なーんだ……今あるのかと思った……」


 あんまり立ち寄る事のない大きな事務所ビルにドギマギしてたら、隣を歩く恭也に顔を覗き込まれた。

 今週金曜日にデビュー会見を控えた俺と恭也は、日曜の午前レッスン後にそのまま事務所へ寄るようにと言われてたから今二人で向かっている。

 あれから週一ペースで恭也は俺にチョコリスタを買ってくれてて、美味しくてドハマりしてるから期待して目を輝かせたけどクスクス笑われてしまった。


「今の今まで、葉璃と一緒に居たのに、あるわけないでしょ? 今日どうしたの、天然炸裂して」
「天然じゃないもん。 ……俺達外出禁止だから寄り道もダメなんじゃない?」
「そっか、そうだね。 ……残念」


 外出禁止っていうのがどの程度までなのか分からないけど、デビューを控えてる身だという事を今さらながらにしみじみ感じ始めてきてる。

 ついにその日が迫っていると思うと、今から手足が震えてくるからヤバイ。

 初めて春香の影武者をした時の生放送の出番前と、ちょっとだけ気持ちが似ている。

 逃げたくても逃げられない現状に、俺は押し潰されそう……でもやるしかない、ってそんな心境。

 結局、震えてはいるんだけどね。


「あ! 恭也君、葉璃君、こっちこっち!」


 事務所の一階ロビーで待っていた林さんに手招きされて合流すると、すぐに社長室へと連れて行かされてさらにまた緊張が増す。

 聖南との事がバレて逃げ出してしまったその夜に電話で話して以来だから、社長と面と向かうのはかなり久しぶりだ。


「来たか、座りなさい」
「はい」
「……失礼します」


 何で俺達を呼び出したんだろう。

 色んな思いが巡って不安な中、上等そうなソファに腰掛けるとふかふか過ぎてちょっと沈み込む。

 足がバタついたのを恭也に見られてしまってまた笑われた。

 林さんはと言うと、俺達の背後に立ったままで大塚の社員さんだからか、可哀想なくらい俺より緊張した顔してる。

 当然と言えば当然だけど、社長が居るってだけで物々しい雰囲気になるから緊張するなって方が無理だ。


「お茶を頼む」


 重厚な椅子に腰掛けた社長が、扉前で待機していた秘書の女性にそう声を掛けると一礼して女性は扉を出て行った。


「お疲れーっす」
「…………っっ!!」


 と、同時にサングラス姿の聖南が入室してきて、その姿を見た瞬間分かりやすく俺の心臓が飛び上がる。

 ───せ、聖南だ……!!!

 この二週間、聖南の声だけで日々を乗り切ってたからまさか今日会えるなんて思ってもみなくて、思わずその姿かたちを凝視して見惚れてしまった。


「間に合ったか、セナ。 すぐに出ないとならんのだろ?」
「お疲れ、葉璃、恭也。 そうなんだよ。 一時間も無ぇ」
「ならば手短に話す。 セナも掛けろ」
「おぅ」


 腕時計を確認した聖南が、俺達と対面する方のソファへと腰掛ける。

 俺は、社長室の緊張感なんかすっかり忘れて髪型と髪色の変わった聖南に釘付けだった。

 カッコいい……。 毎回会う度に思ってるけど……聖南、こんなにカッコ良かったっけ?

 前髪は残してサイドと後ろをまたちょっと短く切ってる……そして髪色はこれ何ていうんだろう?

 グレーなんだけど青が少し混じってて綺麗な色だ。

 ついジーッと見詰めてたら聖南がサングラス越しに俺を見てきて、フッと笑い掛けてくれた。


「…………っっ」


 セクシー過ぎる口元からヤンチャな八重歯が覗いて、俺は体をビクつかせて慌てて視線を逸らす。

 ちょっと会わないだけで、ちょっと髪型とかが違うだけで、聖南はすぐ俺の心臓持ってっちゃうんだもん……。


「今週末のETOILEのデビュー会見だが、CROWNの三人は会見場には一切立ち入らないように。 二人の質疑応答は五分間で、あとは事務所の広報が受け答えしてくれるだろう。 カメラが数十台目の前にある状況下だ。 緊張するかもしれないが、愛想良く頼むぞ」


 聖南の出発まで時間がないとの事で、社長がすぐにそう切り出してきた。


「……はい、がんばります」
「……分かりました」


 その声に、俺と恭也は恐る恐るだけど社長に頷いて見せた。

 もう逃げられないし、今日までほとんど休み無くレッスンをがんばってきたんだから、胸を張って会見に臨まないと。

 でもなぁ……そんなにたくさんカメラが入るのかぁ……。

 もう少しこじんまりした会見場を想像してたのに、思った以上に人が集まりそうだ。

 ……気絶したらどうしよう。


「会見の金曜日は俺ら仙台に居るから、どのみち会見場には居られねぇよ」
「そうだったか。 セナの事だから何がなんでも来そうだと思ったが」
「いや俺もそこまで無茶はしねぇって。 二人はしっかりETOILEの基盤作ってくれると思うよ。 それだけの練習量と実力あっから、大丈夫。 会見なんか瞬きしてたら終わるから心配すんな」


 なっ?と、聖南が俺達に向かって笑顔を向けてくれた。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話

あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ハンター ライト(17) ???? アル(20) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 後半のキャラ崩壊は許してください;;

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

【完結】嘘はBLの始まり

紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。 突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった! 衝撃のBLドラマと現実が同時進行! 俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡ ※番外編を追加しました!(1/3)  4話追加しますのでよろしくお願いします。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

処理中です...