必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 社長が意図して、ETOILEについてはデビュー会見の日程しか世間に漏らしていないので、CROWNのファンもそれが真実なのか疑問を持っているようだ。

 言える事が限られていそうなので、聖南は舞台袖に居たスタッフに視線を投げ掛ける。


『これ言っていいのか? ……あ、OK? って、どこまでOKなんだよ』
『えー、来月俺達の後輩ユニット、ちなみに二人組……なんですがデビューするのは間違いありません。 デビュー曲の作詞作曲はセナです。 言える情報はここまでだね』


 社長自らが、ETOILEの情報を得たすべての各記者らを口止めしているともあって、どこからどこまで話していいのかと苦笑しているとケイタがパソコンの画面を見ながらマイクに向かった。

 画面を覗くと、スタッフからETOILEの最低限情報が箇条書きにて送られてきているようで、それを読み上げている。


『あれは? ツアーの事は言っていいんだろ?』
『いいんじゃねぇかな? 来月のデビュー会見後から、俺達のツアーにその二人も参加する日があるから楽しみにしてて』
『毎回ではないんだよね、事情があって』
『そうなんだよ。 そこがまた言えねぇとこでな。 ま、デビューすんのは間違いねぇから何卒応援よろしくお願いします』
『セナ、何卒なんて言えるんだ』
『初めて聞いたな』
『俺だって大事な後輩のためには頭も下げるし難しい単語も言いますよ。 賢く見えてくんだろ?』
『見えねぇよ』
『どう見たって遅刻魔』
『こらケイタ! それもう悪口じゃん! 俺遅刻しねぇって何回言ったら……』
『はい、締め締め! 今日も一時間お付き合い下さりありがとうございました~! 次は十三日の公開生放送でお会いしましょー!』
『ありがとうございました、またね~。 ケイタの自己紹介発表は13日だな』
『ゲッ! それもう忘れてよ!』
『リスナーのみんなも、会場のみんなも、ありがとうございました。 また次回~。 ……はぁ、今日のテーマは遅刻魔だったな……』


 エンディングの曲が流れる中で聖南の最後のぼやきに会場が湧き、公開生放送が終了したとなるや割れんばかりの拍手が轟いた。


「みんなありがとうー!」
「めちゃくちゃいい放送だった、ありがとうございました」
「みんないい子にしてたな! マジでありがとうなー!」


 会場に来てくれたファン達の礼儀正しい協力により、未知の試みであったラジオの公開生放送は大成功に終わった。

 半裸の聖南達は悲鳴にも似た大歓声と拍手に見送られながら、舞台から捌けて控え室へと戻る。

 それから各々シャワーを浴びて、スタッフらが反省会を行っている打ち上げ会場も兼ねた場所へと移動した。

 ツアー初日ともあって、主催の筆頭である康平の会社の面々や事務所幹部、終いには社長まで現れて労ってくれた。


「なんだよ、来てんならもっと早くに言っとけよ」


 立食での簡単なものとはいえ、スタッフや演者が数十人ごった返しているので社長の元へと歩むのも大変であった。

 「お疲れ」と声を掛けると、社長は嬉しそうに聖南にシャンパングラスを手渡してくる。


「おぉ、お疲れ、セナ。 私はつい先程到着したのだよ。 素晴らしかったらしいな、ツアーの初日に相応しい幕開けだ」
「だな。 俺の予想よりかなり上をいってる。 興奮したよ」
「このタイミングでの全国ツアーやらラジオの件やら、私は無謀だと思ったんだがなぁ。 セナの方が上手だったか」
「これで幹部も黙んだろ。 俺は俺にしか出来ない事やって見返す。 事務所と社長に恩返すにはまだ何十年も掛かるけどな」


 受け取ったシャンパンは飲まずテーブルに置き、傍にあった一口大のチーズを頬張ろうとしてやめる。

 あれだけ動いた後なのに、高揚し過ぎているせいか不思議と腹が空かない。


「志は高い方がいいからな、セナ。 現状に甘んじていない姿勢にホッとした。 来月にはETOILEもついにデビューだ。 ……頼むぞ」
「任せとけ。 かなり私情挟むけど許せよ」
「……事情を知っているとはいえ……ほどほどにしておけよ。 まぁセナならそれが仕事に結び付くだろうから心配はしておらん。 とにかくこの調子でツアーを突っ走ってくれ。 体にだけは気を付けろよ、長丁場だからな」
「おぅ、それも任せとけ」


 聖南は社長との話の後、マイクを手に取り皆を見据えた。


「ツアー初日お疲れ様でした。 マジで最高のパフォーマンスが出来ました。 ここに居る誰一人欠けてもここまでの成功は無かったはずです。 それぞれが全力で職務を全うしてくれたおかげです。 ありがとうございました。 明日以降も「何卒」よろしくお願いします」


 ラジオの尾を引いた台詞にその場が笑い声と拍手に包まれた。

 聖南も笑顔でマイクをスタッフに返すと、そそくさと打ち上げ会場を後にする。

 控え室へと戻り、私服に着替えてスマホを手に瞳を瞑ると、ライブ直後の抑えきれない興奮が今にも爆発しそうだった。

 こんなにも興奮し、神経が昂ぶったライブは今まで無かった。

 心があるとこうまで違うのかと、人としての意識を取り戻させてくれた葉璃を思い浮かべてじんわりと微笑む。


『……生きてんな……俺……』


 葉璃の声が聞きたくてずっとスマホを握ってはいるが、何とも言い難い悦楽的な心境下により聖南は一人無音の控え室内でしばらくジッと佇んでいた。




 CROWNのHPは翌日になってもアクセス出来ない状況が続き、ニュースでは早くもライブと公開生放送の模様が少しばかり切り取られてすべての局で報道された。

 人気が不動のものだと世間に印象付けられた事も何よりだったが、聖南自身が企画したこのツアーを行う上での大きな意味合いを、スタッフや関係者全員にも伝わる事を切に願う。

 誰にも邪魔はさせない。

 CROWN、いや、聖南に付いてきてほしい。

 聖南はそう高らかに、アンビションを持った。




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