386 / 541
55❥
55❥
しおりを挟む
─聖南─
葉璃の影武者で何度か一緒になった事のあるmemoryだったが、ここまで飛躍的に成長するとは思ってもみなかった。
七人のメンバーと、バックダンサー十一人による素晴らしいパフォーマンスは、収録のようなあのこじんまりとしたスタジオでは物足りなかったわけだ。
こういう大きな会場でこそ、memoryは実力を発揮する。
葉璃が通っていたダンススクールは、所属事務所とは経営陣は異なるらしいが運営元は一緒なのだろう。 発掘すべき人材をよく分かっている。
聖南は観覧客としてというよりも、どうしても同業者……ひいてはプロデュースする側としても見てしまう。
アキラとケイタも真剣にそのステージを見詰めている事から、目を奪われているに違いなかった。
束の間の休憩も兼ねたフリートーク中、なかなかトイレから戻らない葉璃を聖南は心配していた。
「なぁ、遅くね? 俺やっぱ見て来る……」
「……セナさん、トイレくらいゆっくり、させてあげて下さい」
「え? いや、それは分かってんだけどな。 ちょっと遅せぇよ。 もう何分経ってると……」
「セナさん、大丈夫ですから。 あと一分待って、戻らなかったら、俺見てきます。 セナさんが動くと、騒ぎになります」
「あ、あ? ……あぁ、うん。 分かった」
葉璃を探しに行こうとする聖南をやたらと引き取めてくる恭也に違和感を感じながらも、真っ当な事を言われては強引にもなれない。
そうこうしているとフリートークも終わり、メンバー達が次の曲のポジションに付き始めた。
「おい、もう次始まんぞ。 なんでこんな戻って来ねぇの?」
一分待って戻らなかったら探しに行ってくれると言っていた恭也は、少しも焦る事なく聖南の一つ向こうの椅子に腰掛けたままだ。
何かあったのではと焦れた聖南が立ち上がろうとしたその時、アキラの信じられない台詞が遠くで聞こえた。
「あ……おい、……セナ。 あれ……ハルじゃね?」
「……はぁ??」
すでにライブも中盤だというのに、今さら葉璃と春香を間違えているのかと、聖南は半笑いでステージ上を指すアキラの指の先を追った。
「──────ッッ!?!?」
その姿を確認した聖南は椅子が壊れる勢いで立ち上がり、瞳を見開いてステージ上の人物を凝視する。
『葉璃!? え!? ……なんでそっちに居るんだ!?』
「あ! ほんとだ! ハル君じゃん!!」
驚いて言葉が出ない聖南をよそに、葉璃に気付いたケイタも驚きの声を上げた。
たちまち曲が始まってしまい、大混乱中の聖南は静かに着席するも前のめりになって着飾った葉璃の姿を見詰める。
『待て待て待て待て……! どういう事だ!? 春香はあっちに居るし……影武者ってわけじゃねぇよなっ?』
バックダンサーと同じ衣装に身を包んだ葉璃が、聖南の右斜め前でmemoryのメンバーと共に振付けを完璧に踊っていた。
上はセーラー服をモチーフにしたような長袖で、下はかなり短めのホットパンツにお尻からくるぶしまでを覆うように薄手のヒラヒラが付いている。
足元は少し踵のあるロングブーツなのだが、葉璃は難なく振りをこなしていて目が離せない。 頭には小さなベレー帽帳のヘッドアクセサリーを付けていて、葉璃は髪型こそいつも通りなようだが少しだけメイクをしているように見えた。
全身が薄いピンク色で、メンバーには悪いがあの衣装は葉璃が一番似合っている。
誰よりも可愛い。
宇宙一可愛いと思った聖南の欲目は間違っていない。
「い、いや、待て、どういう事だ、これは」
聖南はボソッと動揺を呟き、意味不明な事態を前に現実逃避していた己を叱咤する。
「え、セナ知らなかったんだ?」
驚いてはいるが、ケイタに問われてもなお視線は葉璃を追う。
いくら考えても、葉璃がステージ上で舞っている姿の説明が思い付かない。
こんな事、誰が予想しただろうか。
「知らねぇよ! 俺に隠し事すんなって言っといたのに!」
「とびっきりの隠し事ですよね」
「っっ!?! 眼鏡マネ……!!」
唖然としていてまったく気が付かなかったが、突然の声に振り返ると、葉璃が座っていた椅子にいつの間にか佐々木が居て、オペラグラスでステージを眺めていた。
佐々木がそこに居た事よりも、彼の持つ素敵な物の方が今の聖南には重要だった。
「ちょっ! いいもん持ってんじゃん!」
「セナさんのもあります。 はい、どうぞ」
寄越せ、と言うより早く、佐々木は聖南にも同じ色のオペラグラスを貸してくれた。
「サンキュー! ……っしゃぁぁ! なんか全然状況分かんねぇけどガン見してやんぞ!!」
聖南は借りたオペラグラスで葉璃を探し当てると、必死にその動きを追う。
今までの影武者では見た事のない、元気で快活なダンスに心が踊った。
『俺に隠し事してたのは嫌だけど……これなら許す!!』
どんな事情があったのかは知らないが、ステージ上で華やぐ葉璃の姿が拝めるのならすべてチャラだ。
可愛い。 そして動きはいつもながら素晴らし過ぎる。
曲と、照明と、衣装とで葉璃の華は何十倍にもなっていて、バックダンサーであるはずの葉璃に向かって聖南は右手を振り続けた。
「かわいー!! やべぇ、やべぇよ! ケイタ、俺鼻血出てねぇ!?」
曲の最中、オペラグラスを手放さない聖南は隣に居たケイタに鼻血の確認を急かした。
同じく贔屓目で葉璃の姿をガン見していたケイタは、マスク姿の聖南にくだらない事を頼まれて非常に面倒くさい。
「出てないよ。 出てたらそのマスク真っ赤になるでしょ」
「セナ黙って観ろよ、うるせぇ」
ケイタの向こうからアキラの声がしたが、聖南はもはや何をどう言われても笑顔で返せる自信があった。
興奮し過ぎて苦しくなるまで騒ぎ、マスクを顎元までずらしてからも目一杯騒いだ。
会場に居るmemoryのどのファンにも負けないほどの聖南の大きな声援は、きっと葉璃にも届いているに違いない。
オペラグラスでポジション移動を追っていると、聖南達の座る関係者席へ葉璃が最接近した。
「こんなもん興奮すんなって方がおかしいだろ!! あ!! きたきたきたきた! 葉璃ーー!! こっち向いてー!!」
周囲の目も気にせず、まるでアイドルを追う熱狂的な追っ掛けのように恥ずかしげもなく、聖南は愛する恋人の名を大絶叫した。
葉璃の影武者で何度か一緒になった事のあるmemoryだったが、ここまで飛躍的に成長するとは思ってもみなかった。
七人のメンバーと、バックダンサー十一人による素晴らしいパフォーマンスは、収録のようなあのこじんまりとしたスタジオでは物足りなかったわけだ。
こういう大きな会場でこそ、memoryは実力を発揮する。
葉璃が通っていたダンススクールは、所属事務所とは経営陣は異なるらしいが運営元は一緒なのだろう。 発掘すべき人材をよく分かっている。
聖南は観覧客としてというよりも、どうしても同業者……ひいてはプロデュースする側としても見てしまう。
アキラとケイタも真剣にそのステージを見詰めている事から、目を奪われているに違いなかった。
束の間の休憩も兼ねたフリートーク中、なかなかトイレから戻らない葉璃を聖南は心配していた。
「なぁ、遅くね? 俺やっぱ見て来る……」
「……セナさん、トイレくらいゆっくり、させてあげて下さい」
「え? いや、それは分かってんだけどな。 ちょっと遅せぇよ。 もう何分経ってると……」
「セナさん、大丈夫ですから。 あと一分待って、戻らなかったら、俺見てきます。 セナさんが動くと、騒ぎになります」
「あ、あ? ……あぁ、うん。 分かった」
葉璃を探しに行こうとする聖南をやたらと引き取めてくる恭也に違和感を感じながらも、真っ当な事を言われては強引にもなれない。
そうこうしているとフリートークも終わり、メンバー達が次の曲のポジションに付き始めた。
「おい、もう次始まんぞ。 なんでこんな戻って来ねぇの?」
一分待って戻らなかったら探しに行ってくれると言っていた恭也は、少しも焦る事なく聖南の一つ向こうの椅子に腰掛けたままだ。
何かあったのではと焦れた聖南が立ち上がろうとしたその時、アキラの信じられない台詞が遠くで聞こえた。
「あ……おい、……セナ。 あれ……ハルじゃね?」
「……はぁ??」
すでにライブも中盤だというのに、今さら葉璃と春香を間違えているのかと、聖南は半笑いでステージ上を指すアキラの指の先を追った。
「──────ッッ!?!?」
その姿を確認した聖南は椅子が壊れる勢いで立ち上がり、瞳を見開いてステージ上の人物を凝視する。
『葉璃!? え!? ……なんでそっちに居るんだ!?』
「あ! ほんとだ! ハル君じゃん!!」
驚いて言葉が出ない聖南をよそに、葉璃に気付いたケイタも驚きの声を上げた。
たちまち曲が始まってしまい、大混乱中の聖南は静かに着席するも前のめりになって着飾った葉璃の姿を見詰める。
『待て待て待て待て……! どういう事だ!? 春香はあっちに居るし……影武者ってわけじゃねぇよなっ?』
バックダンサーと同じ衣装に身を包んだ葉璃が、聖南の右斜め前でmemoryのメンバーと共に振付けを完璧に踊っていた。
上はセーラー服をモチーフにしたような長袖で、下はかなり短めのホットパンツにお尻からくるぶしまでを覆うように薄手のヒラヒラが付いている。
足元は少し踵のあるロングブーツなのだが、葉璃は難なく振りをこなしていて目が離せない。 頭には小さなベレー帽帳のヘッドアクセサリーを付けていて、葉璃は髪型こそいつも通りなようだが少しだけメイクをしているように見えた。
全身が薄いピンク色で、メンバーには悪いがあの衣装は葉璃が一番似合っている。
誰よりも可愛い。
宇宙一可愛いと思った聖南の欲目は間違っていない。
「い、いや、待て、どういう事だ、これは」
聖南はボソッと動揺を呟き、意味不明な事態を前に現実逃避していた己を叱咤する。
「え、セナ知らなかったんだ?」
驚いてはいるが、ケイタに問われてもなお視線は葉璃を追う。
いくら考えても、葉璃がステージ上で舞っている姿の説明が思い付かない。
こんな事、誰が予想しただろうか。
「知らねぇよ! 俺に隠し事すんなって言っといたのに!」
「とびっきりの隠し事ですよね」
「っっ!?! 眼鏡マネ……!!」
唖然としていてまったく気が付かなかったが、突然の声に振り返ると、葉璃が座っていた椅子にいつの間にか佐々木が居て、オペラグラスでステージを眺めていた。
佐々木がそこに居た事よりも、彼の持つ素敵な物の方が今の聖南には重要だった。
「ちょっ! いいもん持ってんじゃん!」
「セナさんのもあります。 はい、どうぞ」
寄越せ、と言うより早く、佐々木は聖南にも同じ色のオペラグラスを貸してくれた。
「サンキュー! ……っしゃぁぁ! なんか全然状況分かんねぇけどガン見してやんぞ!!」
聖南は借りたオペラグラスで葉璃を探し当てると、必死にその動きを追う。
今までの影武者では見た事のない、元気で快活なダンスに心が踊った。
『俺に隠し事してたのは嫌だけど……これなら許す!!』
どんな事情があったのかは知らないが、ステージ上で華やぐ葉璃の姿が拝めるのならすべてチャラだ。
可愛い。 そして動きはいつもながら素晴らし過ぎる。
曲と、照明と、衣装とで葉璃の華は何十倍にもなっていて、バックダンサーであるはずの葉璃に向かって聖南は右手を振り続けた。
「かわいー!! やべぇ、やべぇよ! ケイタ、俺鼻血出てねぇ!?」
曲の最中、オペラグラスを手放さない聖南は隣に居たケイタに鼻血の確認を急かした。
同じく贔屓目で葉璃の姿をガン見していたケイタは、マスク姿の聖南にくだらない事を頼まれて非常に面倒くさい。
「出てないよ。 出てたらそのマスク真っ赤になるでしょ」
「セナ黙って観ろよ、うるせぇ」
ケイタの向こうからアキラの声がしたが、聖南はもはや何をどう言われても笑顔で返せる自信があった。
興奮し過ぎて苦しくなるまで騒ぎ、マスクを顎元までずらしてからも目一杯騒いだ。
会場に居るmemoryのどのファンにも負けないほどの聖南の大きな声援は、きっと葉璃にも届いているに違いない。
オペラグラスでポジション移動を追っていると、聖南達の座る関係者席へ葉璃が最接近した。
「こんなもん興奮すんなって方がおかしいだろ!! あ!! きたきたきたきた! 葉璃ーー!! こっち向いてー!!」
周囲の目も気にせず、まるでアイドルを追う熱狂的な追っ掛けのように恥ずかしげもなく、聖南は愛する恋人の名を大絶叫した。
17
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
すべてはあなたを守るため
高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる