必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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54★ 葉璃のサプライズ計画〜準備完了〜②

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 曲が終わり、鏡越しに見える葉璃がふぅ、と息を吐いた。

 練習の成果を最大限に発揮した俺と葉璃は、九人の度肝を抜いたらしい。

 ───特に葉璃は。


「……すげぇ……」
「曲かかると別人になるのな」
「めちゃくちゃ踊れんじゃん! すげぇよ!」
「恭也もハルも、リハはポジション移動の練習だけでいいんじゃない?」
「え、いや、……あの……」


 俺は、ガチガチに戻ってしまった葉璃の元へすぐに駆け寄って、寄り添ってあげる。

 感心しきりで近寄る彼らを前に、葉璃は目が回りそうになっていた。 本当に、さっき見事なダンスを披露してくれた子かってくらい、別人のように縮こまってしまっている。

 慌てて傍に来て正解だった。

 興奮気味な九人の男達に取り囲まれたら最後、葉璃は気絶してしまいかねないからだ。


「おーっす」
「お疲れ様~」
「お疲れ~」


 そこへなんと、いつもはバラバラにやって来ると聞いていたセナさん達が揃って現れた。

 三人ともがジャージ姿なところを見ると、同現場での仕事を終えて今日はこのリハが最後の仕事らしい。

 俺はともかく、葉璃にとっては心強い味方が現れた事でホッとしてるかと思ったら、表情は何も変わってなかった。

 そっか……たとえセナさんが来ても、ここには初対面の知らない人がたくさん居るから、そう簡単にホッとなんか出来ないんだ。


「セナさんだ! お疲れ様っす!」
「アキラさん、ケイタさん、お疲れーっす!」
「今恭也とハルの振り見たんすけど、マジ凄かったっす!」
「振付バッチリでした!」


 みんなはCROWNの登場に浮足立っていて、前髪をピンで留めているセナさんに走り寄って行く。


「あ? そりゃそうだろ。 恭也は大塚のレッスン受けてきたし、葉璃はダンススクール行ってたし。 ド素人なわけじゃねぇ。 何ヶ月もかけて体に叩き込んでっから」
「さすがっすね!」
「恭也とハル君、流したの? 見たかったなぁ!」
「じゃ俺らも合わせてみよ。 恭也、ハル、いけるか?」
「はい」
「……はい」


 三人がここへ来たという事はそういう流れになるのは当然だけど、セナさんが来てもガチガチ中の葉璃はまだ俯きっぱなしだ。

 セナさんが来た事すら気付いてるのか怪しい。

 その場から一歩も動かない葉璃を見て、ケイタさんが近寄ってきた。


「大丈夫? ハル君、顔色悪くない?」


 ケイタさんに続いてアキラさんも葉璃の傍へやって来る。 すでに顔馴染みで、心を開いてるはずの二人にも視線を合わせようとしない。

 今葉璃の心は、俺でも簡単には立ち入れないくらい固く閉ざされている。


「ほんとだ。 おいハル、無理はすんなって」
「は!? 葉璃、体調悪いのか!?」
「い、いえ! 悪くないです、だ、大丈夫、大丈夫です」


 ケイタさんとアキラさんがあまりにも心配の声を上げるから、セナさんまでも慌てた様子で駆け寄ってきた。

 ハッとした葉璃は三人の顔を順に見上げて、「なんでみんないるの?」という顔をしている。

 ……やっぱり気付いてなかったんだね……。


「……ハルっていつもそんな感じなんすか?」
「今時めずらしーっすよね~」
「俺らどう接したらいいか分かんねー」


 最初はそんな印象を持たれても仕方がないけど、九人揃って苦笑された葉璃は一歩下がってまた俯いてしまった。

 いくらなんでも初対面でそこまでズバズバ言わないでって、俺はカチンときた。

 知らず眉間にシワが寄ってしまってて、思い切って言い返そうとすると……。


「葉璃の何を知ってんだよ。 たった今こいつのダンス見たんだろ? 下手したらお前らより踊れるんだからゴチャゴチャ言うな」
「ハルは超がつく人見知りだから、無理に話し掛けなくてもいい。 聞きたい事あったらハルの方から話し掛けてくるから、それまでソッとしといてやって」
「今日初対面でしょ? たった一日でハル君がみんなに慣れるとは思えないから、しばらくはダンスで意思疎通してよ。 ハル君は人見知りで上がり症だから、みんなみたいにグイグイこられるとどうしていいか分かんなくなるんだ」
「俺にもアキラにもケイタにも、慣れるまで一ヶ月以上かかってる。 ここまで人見知りだとお前らには面倒かけちまうかもしんねぇけど、知ればマジで超いい子だから。 目合わせてくれるようになったら、慣れた証拠だって覚えといて。 それまでは必要以上に近寄るな」


 ───ここには、俺と同じように葉璃を理解してくれてる人が三人も居たから、俺の出る幕は無かった。

 セナさん達三人で葉璃を庇うもんだから、みんなは苦笑を消して真剣な表情だ。


「……そんなに人見知りなんすか?」
「それでデビューって、大丈夫……」
「うるせぇって。 ツアー中盤にはお前らも葉璃の良さと才能に気付いて納得するはずだから。 ……デビューが決まって、これでも落ち着いた方だしな」
「えぇ? それで!?」


 うんうん。

 葉璃の人見知りは俺でも驚くくらい度を越したものだから、簡単に考えてほしくない。

 セナさんだけじゃなく、アキラさんとケイタさんもとてもよく葉璃を理解してくれてて感動した。

 ───葉璃、良かったね。 こんなにも分かってくれる人が傍に居てくれるなら、俺も安心して葉璃の隣にいられるよ。

 葉璃はどんなに小さな事でも傷付いてほしくないから……理解してくれる人が傍に居てくれてる幸せ、ちゃんと感じられてるかな?



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