必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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54★

54★ 葉璃のサプライズ計画〜準備中〜②

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 葉璃はプラプラとご機嫌に揺らしていた足を止めた。


「…………春香から聞いたの?」
「うん。 俺、何も出来なかった。 ごめんね。 葉璃、ツラかったね……」
「ううん。 あの時、誰かに助けてもらおうとか思いもしなかったから、恭也が謝る事ないよ。 俺も何も考えられないくらい必死だったし。 とにかく、聖南さんが俺のせいでよくない方向に向かうかもっていうのが嫌で、ほんとに離れたいって思ってた」
「そう……」


 この件で葉璃の気持ちを聞いたのは初めてだったから、今こうして本音を聞くと改めて胸が締め付けられる。

 可哀想に、誰にも頼らず悩んで悩んで……一人でどこか知らないところに居たなんて。


「……佐々木さんのお家が、近くだったんでしょ?」
「あ、うん。 事務所飛び出して走りまくって、疲れて休んでたら夜になって。 そしたら佐々木さんが居た。 超偶然だよね」
「葉璃……方向音痴なのに。 知らない街を、走り回るなんて、無謀過ぎだよ」


 一人ですべてを抱え込んでぐるぐる悩んじゃうのは、以前から感じてた葉璃の悪いクセ。

 自分だけが傷付く事でみんなが傷付かないなら、それでいいって思ってる。

 それを葉璃に言っても「俺自身も傷付きたくないから」って認めないし。

 しかもそのまま佐々木さんに発見されずに夜の街に葉璃一人で居たら、もっと取り返しのつかない事態になってたかもしれない。

 最悪の事態を想像して、思わず身震いした。


「でも安心した。 あれから、セナさんとの関係、順調なんでしょ?」
「うん。 俺ぐるぐるしててもいいんだって。 聖南さんも一人で突っ走るとこあるけど、俺の方がそこは上をいっちゃうみたいだから、単純に解決方法はないよね。 お互いぐるぐるしてるんだもん」


 ……なんて可愛いカップルなんだろう。

 二人は確かに愛し合ってるのに、小さな歪みから重大な問題へと発展し、互いにぐるぐる悩んで周りを盛大に巻き込む。

 何もかも未経験な葉璃はともかく、セナさんまでそんなに恋愛が下手だとは知らなかった。

 数え切れないほどの浮き名を流し、女性関係は事務所も手に負えないほど好き勝手してきたあのセナさんが、見事に葉璃に振り回されてる。

 まぁ何にせよ、二人が幸せならそれでいいんだけどね。


「……オレンジでいい?」
「え、あ、自分で行くよ?」
「いいから。 オレンジとアップル、持ってくるね」
「そんなに飲んだらお腹ちゃぷちゃぷなるよ…」
「その時は、トイレ行こうね」


 えーと膨れた葉璃が可愛くて、笑いながら俺はコーヒーを飲み干した。

 葉璃が飲んでたコップを持ってドリンクバーに向かい、新しいコップにアップルジュースを注いでいると、知らない女性に声を掛けられた。


「あのぉ。 私達も二人なんだけど、一緒のテーブル座ってもいい?」
「…………え?」


 ………近頃、こういう逆ナンとやらが多くて困る。 しかも大体、メイクが濃い目で私服が派手。

 逆ナンは男としては嬉しい事、なのかな?

 よく分からないけど、面倒だからあんまりしつこかったら葉璃とお店を出てしまおう。


「いや…………」


 さすがに突発的に話し掛けられると、どうしても一瞬たじろいでしまう。

 どう言えばいいかと考えて、もうストレートに「無理」って言ってしまおうとすると、もう一人女性が席からやって来た。


「いいでしょ? 座ってるあの子も弟系でカッコ可愛いよね」
「ほんとだー! 二人はどこ高? うちらは……」
「あ、あの、ごめん。 今大事な話してて、もう帰るとこだから」
「えー? だってジュース注いでるじゃん」
「これは最後の一杯。 俺の」


 どうやら簡単には引き下がらなそうだから、俺は葉璃のために注いでいたアップルジュースを一気飲みして、呆気に取られた様子の二人には目もくれずに葉璃の元へ戻る。


「出よ」
「えっ? 俺のオレンジは?」


 おとなしく待っていた葉璃が驚いて俺を見上げてくるけど、あの二人が追い掛けてきたらたまらないから早々と鞄を持って葉璃の腕を取った。


「店出たらいくらでも、買ってあげる。 とにかくおいで」
「えぇ?? どういう事なんだよー」


 俺に腕を取られた葉璃は両腕で鞄を抱えていて、戸惑う最中に横目で俺を見ると、背後を気にし始めた。

 手早くレジで会計を済ませると、少しでもファミレスから遠ざかりたいと早足で駅まで向かう。


「ねぇねぇ、恭也、もしかしてあの二人にナンパされてた?」


 葉璃が振り返った先には、こちらをジーッと見ていた女性がまだ同じ場所に立ち尽くしてたから、俺が「出よ」って意味が分かったみたいだ。


「うん。 席一緒いいかって」
「えっヤダ! 絶対あの二人は恭也目当てなのに、俺どんな顔してればいいの」
「違う。 俺だけじゃない。 葉璃も、ナンパ対象だったよ」
「いやいや、それはないよ。 俺は男からしかナンパされた事ないもん」
「俺も初めて聞いたんだけど、葉璃の事、弟系?って言ってた。 カッコ可愛いって」
「何それ??」
「ね、なんだろうね。 ……葉璃、気を付けて。 弟系って言われてた、って事は、この先、女性からも声掛けられる可能性、あるよ」
「ど、どういう事?? 弟系って何?」


 俺はその意味を匂わせながら「気を付けて」って言ってるのに、まったく分かってない葉璃はその場で小さく足踏みをした。

 無邪気な動作も可愛いんだけど、……確かに葉璃は、幼かったほっぺが最近シュッとしてきた気がする。

 毎日会ってるから気が付かなかったのかな……。

 目下、訳が分かってない葉璃は首を傾げて唸ってて、その横顔を見詰めてみた。

 よくよく見ると、少しだけ顔が大人びたかなと思いはしても、変わらずぷにぷにほっぺなような気もするしで、よく分からない。


「さぁ? ……とりあえず葉璃は、変顔しながら歩いたら?」
「それ聖南さんも言ってた!! ヤダよ、捕まるって! 恭也までそんな事……!」
「セナさんも言ってたんだ……」


 面白い。

 セナさんと考える事が一緒なら、葉璃のこの可愛さも分かち合えて当然だ。



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