必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 恭也のひと押しの前から行く事を決めてたっぽい聖南が、俺を送ってくれてる車中でアキラさんとケイタさんとグループ通話を繋いで話し始めた。

 当然イヤホンしてるから電話の向こうの二人の声は聞こえないけど、佐々木さんの読み通りもしかしたらほんとに来てくれそうな気配だ。


「……そうなんだよ、あぁ、……うん。 ……マジで? ……うん。 あ、葉璃いるけど話す?」


 今日一日を振り返って感慨深くぼんやりと外を眺めてたら、聖南からスピーカーに切り替わったスマホを渡される。

 えっ?と戸惑う間もなく、スマホからケイタさんとアキラさんの声がした。


『あ、ハル君いるの?』
『ハルー? MV撮影お疲れー』


 便利なアプリがあるんだなぁ。

 俺達はみんなバラバラの場所にいるのに、こうしてこの場に集まってるみたいに会話出来るなんて。

 俺はスマホを両手で持って、癖でペコッと頭を下げた。


「アキラさん、ケイタさん、お疲れさまです」
『お疲れー! ハル君めちゃくちゃ緊張してたんだってー? またあれやったの? 手のひらに人って書いて飲むやつ』
『ハルならやるだろ。 あ、memoryのライブの事聞いたんだけどさ、俺もケイタもドラマの撮りがあるかもしんなくて、まだ何とも言えねぇんだ』
『そうなんだよ~! 俺もmemoryのライブ行きたいから都合つけるつもりではいるんだけど』
「い、いえそんな! 仕事ならそっちを優先してください、絶対!」
「……だってよ。 関係者席取るらしいから早めに分かった方がいんじゃね?」


 ちょうど信号待ちで、運転中の聖南も会話に入る。


『関係者席取るのかぁ。 何時開演?』
「十八時開場の十九時開演です。 ドラマの撮影だと抜けるのも難しいだろうから、ほんとに……」
『ちょうどそのくらいだよな? ケイタはどうか知らねぇけど、俺んとこは抜けられるかも』
『俺も。 シーン次第だけど、裏から入れるんならギリ間に合うと思う。 終わったら戻るようにすれば』
『じゃあ決まりだな。  俺らの席もおさえてもらってくれる?』
「は、はい、分かりました。 でもいいんですか? 春香達はめっっっちゃくちゃ喜ぶと思いますけど」
『いいのいいの。 ハル君が影武者した時にスゴイ子達だなーって思ってたから、楽しみ』
『あぁ、今回ハルは影武者しないんだろ? て事は本物のハルカのダンスが見れるって事だな』
「春香もうまいけど、ぶっちゃけ葉璃の方がセンスいいと思う。 葉璃は宇宙一かわいーし、かわいーし、かわいーから、怖いもんナシだな」
『はいはい、分かった』
『その惚気をほぼ毎日聞いてるこっちの身にもなってみろ! ハル、またセナを甘やかしてんじゃねぇ?』
「えぇっ!? 俺のせいですか!」
「葉璃のせいだな。 俺こんな事言うような奴じゃなかったのに。 葉璃のせい」


 また聖南が二人に呆れられそうな事言ってる…と乾いた笑いを漏らしてたら、俺の方に急に特大の火の粉が飛んできた。

 アキラさんとケイタさんも、とりあえず聖南の言う事だからってちゃんと聞いてあげてるから、聖南も喜んであんな事言っちゃってるだけだと思うのに。


『ハル君のせいにばっかすんなよ! ……そういえばセナ、ツアー終わりのミュージカルの話OKしたんだって? 稽古いつから?』
「え!? 聖南さん、OKしたんだ!」
「それこそ楽屋で話しゃいいだろ。 稽古は追加公演後。 九月末か十月頭からだ」
『来年にかけて超忙しくなるじゃん。 セナがまた生死の危機に陥らないように、ハルがしっかり見張っとけよ?』
『ミュージカルだと評判良くてキャストの意思さえあれば年単位だもんね~。 セナの芝居見るの久々で楽しみ過ぎるんだけど』
「おいケイタ、笑ってんの聞こえてるぞ」
『だってセナの演技ウケるから!』
『ケイタ、それは言ってやるな。 セナも気にしてるから芝居関係断ってんだし』
「大根ってやつですか?」
『……ッッ! あはは……! ハル君が言っちゃってるじゃん!』
『おいおーい。 ハル、その単語は俺らも控えてたのに』
「グサッときた、グサッと。 葉璃……また俺の胸に穴が空いたかも……」
『穴は空いてねぇよ、大根なのは事実だろ』
『ハル君に観てもらっても恥ずかしくないように、稽古頑張れよ、セナ!』
「まだキャストの顔合わせもやってねぇっつーの」


 memoryのライブの話から聖南の大根の話に変わってしまって、珍しくアキラさんとケイタさんにイジられまくってタジタジな聖南だ。

 通話が終わってもしばらくムッとしてたから、肘置きに乗った聖南の左手を握って慰めようと笑い掛けてあげる。


「聖南さん、気にしないでください。 俺は聖南さんが立派な大根でも、世界中の誰よりも大好きですからね」


 いつもならここで、俺の名前を優しく呼んで笑顔を向けてくれるのに、今日の聖南は違った。

 手は強く握り返してくれたけど、明らかな苦笑いで俺を見てくる。


「…………フォローが下手過ぎる……。 葉璃……かわいくナイフを突き刺してくるなよ……」
「ナイフなんか突き刺してないですよ! 立派な大根でも大好きって……」
「それ! 立派な大根って何だ! 自覚はあるけど葉璃に言われるとこれ以上ねぇくらい傷付く!」
「えぇぇっ!? ごめんなさいっ。 言葉間違えた、……うーん……素敵な大根? あ、聖南さんカッコイイからカッコイイ大根だ!」
「……天然って怖ぇ……」
「何ですか天然って~」


 俺の家の前でそんな一悶着で二人で脱力し合い、持ち直した聖南は笑いながらも去り際にキスしてくれた。


「葉璃と居ると癒やされる。 そんで元気貰える」


 こんな言葉を掛けてくれたから、「天然」って言われた事は水に流してあげた。

 ていうか、……そもそも俺が大根って連呼しちゃったから、それを随分前から気にしてる聖南を傷付けてしまったんだって、俺はベッドに入って寝ようって時にやっとその事に気が付く。

 無神経で体たらくな俺は反省の意味を込めて、「おやすみ」のメッセージと共に「ごめんね」って書き足しておいた。

 少しあざとい、可愛い顔文字付きで。




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