必然ラヴァーズ

須藤慎弥

文字の大きさ
上 下
374 / 541
53♡

53♡9

しおりを挟む



 ETOILEとしての活動は、あとはデビュー会見を待つのみだ。

 販促活動や雑誌の取材、イベント関係の日程は会見の後、俺達の夏休みを待ってから調整する事になってるみたいだから、明日からはCROWNのツアーリハとサプライズライブに集中しないといけない。

 逆に考えれば、その二つに集中できるって事だ。

 CROWNのツアーはちょうどサプライズライブの翌週から始まるけど、俺と恭也は期末テストの後からの参加になる。

 今日のMV撮影も中間テスト直後にスケジュールを組んでくれたから、まだ学生の俺達のために調整してくれてる林さんには、高校卒業まで気苦労を掛けてしまうのが心苦しい。


「───あの、恭也。 あの日の事なんだけど」


 聖南が車を回してくれてる間に、俺は恭也に例の件を話そうとしていた。

 恭也は自分のお迎えを待ちがてら、スタジオ前の出入り口で聖南を待つ俺に付き合ってくれている。


「うん、例のアレね。 どうしたの?」
「今から聖南さんに、memoryのライブが来月あるから一緒にどうかって話をしようと思ってるんだ。 俺、絶対にボロが出そうになるから、恭也のお母さん来るまで一緒に居てくれない?」
「いいよ、もちろん。 話が終わるまで、いてあげるよ」
「ありがと! 心強い!」
「葉璃、嘘が下手そう、だもんね。 その素直なとこが、可愛いんだけど。 フォローは任せて」
「下手そうっていうか実際下手なんだよ。 何回も危機的状況に陥ってるし……」


 最近の恭也は、俺の根暗時代を知ってるのにやたらとズバズバ言うようになった。

 ちょっと俺をからかってるって分かるのに、クスクス笑っている楽しげな恭也を見ると怒りもそんな湧かない。

 完全に巻き込む形の恭也には、サプライズライブで俺個人のために色々協力してもらわないといけないから、申し訳なく思いながら打ち明けてみたんだけど。

 やっぱり恭也は二つ返事でOKしてくれて、ニコッと笑顔まで見せてくれたかと思ったら……。


『これから、お互い忙しくなると思うけど、セナさんより俺を、優先する日も作って。 空いた日に、一緒に映画に行ってくれるなら、喜んで』


 と、俺にとっては嬉しい交換条件を出してきた。

 だって俺には得しかないから、そんな事でいいの?って戸惑ってたらまた笑顔で頷いてたから、いいみたいだ。

 これまでも何度も誘われる事から、恭也はどうやら映画鑑賞が趣味なようで、俺も二つ返事だった。


「あ、セナさん来たよ」
「……う、うん」


 いよいよライブの事を話す日が来たから、ただ一緒に行こって誘うだけじゃない内心は心臓バクバクだった。

 カメラの前に立ってた時くらい緊張する。


「葉璃、そんなに怖い顔してたら、勘付かれる。 笑って、笑って」
「なっ、やめっ……あはははっ……もうっ……!!」


 笑って、ってそんな簡単には…と眉間にシワを寄せていると、恭也はガチガチになった俺の脇腹を突然くすぐり始めた。

 くすぐったくて逃げようとしても、恭也に後ろからお腹を抱かれてて逃げられなくて、悶えて笑う事しか出来ない。


「葉璃、細いなぁ」


 笑いながらそう恭也が呟いても、息が出来ないくらい笑わされて抵抗さえ許されなかった。

 聖南の車が目の前にやって来るとようやくやめてくれて、急に支えが無くなったから倒れるように恭也の胸に飛び込んだ。


「はぁ……はぁ……疲れた……」


 笑い過ぎて変な筋肉使っちゃったよ。

 あ……でも、緊張、ほぐれたかも……。


「……楽しそうじゃん。 恭也、迎えは?」


 スタジオ前に車を横付けした聖南は、無表情のまま運転席から降りてきて恭也にもたれ掛かった俺の腕を掴んで引き剥がした。


「母が来ますから、お気になさらず」
「そ? 来るまで待つ」


 恭也を気に入ってる聖南も密着するのはダメみたいで、さり気ないその動作に俺と恭也は苦笑した。

 まーたヤキモチかと呆れても、恭也もまだ未成年だから迎えが来るまで待ってくれるなんて、そんな大人びたところもある。

 マイペースな人だと改めて思いながら、俺は聖南の顔を見上げた。


「あの、……聖南さん。 ……来月の二十二日に、memoryのライブがあるんです。 単独です」
「おぉ、マジで? あ、もしかしてTzホール? 先に押さえられてたんだよなぁ、memoryだったのか」
「そうです! 聖南さんお仕事無ければ一緒に……行きませんか? 関係者席取ってくれるみたいなんで」


 わざとその日が聖南の誕生日だって事を知らないフリで、しかもすでに佐々木さんが関係者席を五席用意してくれてるという事まで話して様子を窺った。

 それを悟らせないように嘘を吐くのがめちゃくちゃドキドキしたけど、恭也が視線で「大丈夫、うまいよ」って言ってくれてるから何とか最後まで躓かずに言えた。


「ちょっと待って、スケジュール貰うから」


 そう言うと、聖南はスマホを取り出した。


「───あ、成田さん? 至急来月のスケジュールをメールして。 ……あぁ、うん。 大まかで構わねぇけど、二十二日は今日以降仕事入れないでくれ。 ……いや関係ねぇと思う、……うん、……おぉ、それじゃ」
「もしお仕事入っていても、少し遅れてもいいので、ぜひ一緒に行きましょう。 葉璃が、影武者としてがんばった、これまでダンススクールで汗を流した仲間がいる、memoryの単独ライブですから」


 聖南の電話が終わるや、恭也がそう畳み掛けてくれた。

 でも仕事が入ってたらしょうがないっていう場合も事前に考えてあって、その時は恭也に動画を撮ってもらうよう頼んでる。

 一応カメラは持ち込み禁止だけど、関係者席での携帯操作は佐々木さんがOKしてくれた。 つくづく俺は特別待遇で、これもまた申し訳無いと思いつつも、動画はなんとノリノリな佐々木さんの提案だから素直にその提案を呑んだ。


「あぁ。 仕事入っててもキャンセルしてでも行くよ。 ほんとの春香のダンスを生で見た事ねーから見てやりてぇし」


 スマホをポケットにしまいながら、聖南が恭也に笑顔を向けた。

 春香の勇姿を見てあげたいって、そんな事を思ってくれるなんて……聖南の優しさの根源はどこからくるんだろう。

 他事務所の後輩からも、もちろん大塚事務所の後輩達からも、聖南が慕われている理由がよく分かる。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】嘘はBLの始まり

紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。 突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった! 衝撃のBLドラマと現実が同時進行! 俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡ ※番外編を追加しました!(1/3)  4話追加しますのでよろしくお願いします。

Sweet☆Sweet~蜂蜜よりも甘い彼氏ができました

葉月めいこ
BL
紳士系ヤクザ×ツンデレ大学生の年の差ラブストーリー 最悪な展開からの運命的な出会い 年の瀬――あとひと月もすれば今年も終わる。 そんな時、新庄天希(しんじょうあまき)はなぜかヤクザの車に乗せられていた。 人生最悪の展開、と思ったけれど。 思いがけずに運命的な出会いをしました。

幸せの温度

本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。 まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。 俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。 陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。 俺にあんまり触らないで。 俺の気持ちに気付かないで。 ……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。 俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。 家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。 そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

無自覚両片想いの鈍感アイドルが、ラブラブになるまでの話

タタミ
BL
アイドルグループ・ORCAに属する一原優成はある日、リーダーの藤守高嶺から衝撃的な指摘を受ける。 「優成、お前明樹のこと好きだろ」 高嶺曰く、優成は同じグループの中城明樹に恋をしているらしい。 メンバー全員に指摘されても到底受け入れられない優成だったが、ひょんなことから明樹とキスしたことでドキドキが止まらなくなり──!?

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

処理中です...