必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 父親である康平との電話の後、聖南はとにかく仕事に没頭した。

 二十時終了を目処にしていた作業が一時間巻きにて終わりを見ると、いつかのように青木から「早く上がれる!あざっす!」と感謝された。


「……ケイタ、葉璃家に居るだろ?」
『それが居ないんだよ! 春香ちゃんにも心当たり連絡してもらってるけど、恭也のとこにも居ないって!』


 車に乗り込む前からスマホを取り出し、発信ボタンを押した聖南の指先に力が入る。

 こちらも早く上がれたのか、履歴にはケイタからの着信がずらりと入っていて嫌な予感がしていた。


「………分かった、とりあえず俺は事務所周辺探してからそっち向かう。 また何か分かったら連絡して」


 ───どういう事なんだ。

 葉璃の行きそうなところと言えば自宅か、恭也の家だとばかり思っていた。 しかし恭也は聖南と繋がっていて、こういう状況の際はほぼ確実に聖南側についてくれる。

 逃げたからにはすぐに見付かりたくないはずで、自宅の自室で引き篭もっていればたとえ聖南が訪問しても両親に門前払いしてもらえる。

 そう安直に考えていた聖南の心が、途端に焦りに見舞われた。

 現在十九時を過ぎたところ、という事は社長室を飛び出して軽く七時間ほど経っているという事になる。

 ダメ元で呼び出し音の鳴らない葉璃のスマホに何度掛けても無駄で……。

 自宅にも帰らずどこで何をしているのだろうか。

 無事ならそれでいい。

 そう思う反面、早く見付けださなければ葉璃は本当に聖南の前から居なくなるような気がして、運転も手に付かなかった。

 事務所近辺を探してみようと向かっていたところにアキラから着信が入り、落ち着かない聖南が事情を説明するとすぐさま葉璃の家に向かうとの事だった。

 ほどなくしてケイタからも着信があり、葉璃の両親も心配しているので聖南もこっちに来た方がいいと言われ、慌ててUターンする。


『どこ行ったんだよ、マジで……!!』


 葉璃の行動パターンは読めていたつもりだが、これだけ周りに心配を掛けるのも厭わないほど、聖南と離れるという意思が本気だと示されているようだった。

 スマホは相変わらず繋がらない。

 葉璃の自宅へ向かう最中、何度も何度も掛けてみたがとうとう呼び出し音は鳴らなかった。

 自宅へ到着すると、葉璃の家の前に高級車が三台停められている異様な光景が目に入った。


『……あれ誰のだ?』


 アキラとケイタの車の後ろに、見覚えのない車が停まっていて、聖南はそのさらに後ろに路駐した。

 車のエンジン音に気付いて慌てて出て来た春香が、必死の形相で聖南を迎え入れた。


「セナさん!! ほんっっっと、ご迷惑かけてすみません!」
「いや、迷惑とは思ってないから。 それよりご両親いる?」
「はい、います! どうぞ中へ!」


 葉璃と付き合う前に入ったこの家に、早くも懐かしい思い出を呼び起こそうとしていたがそれどころではないと頭を切り替える。

 リビングに通されると、アキラとケイタがソファに並んで腰掛けていた。

 そして対面する位置にある一人掛けソファに何故か荻蔵が居て、聖南は「は?」と眉を顰めた。


「なんで荻蔵がいんの」
「あ、セナさんお疲れっす! 俺いまプチ謹慎中なんで、ハル探し手伝おうと思って」
「プチ謹慎中?」


 葉璃が居なくなった事を何故知っているのか、プチ謹慎中とは何なのか、顰めた眉がくっつきそうなほど不機嫌に荻蔵を見た。

 なんと言っても、一人掛けに座る荻蔵がコーヒーカップ片手に優雅そのものだったので、緊張感のないそれにもイラッとした次第だ。


「その話は後な! ……春香ちゃん、佐々木さんは?」


 オロオロしていて落ち着かない春香に、ケイタがそっと声を掛ける。


「佐々木さん……?」
「memoryと影武者の件で昔から親しいんだよね? ダメ元で掛けてみてよ。 もしハル君の居場所知らなくても、居なくなったの知ったら佐々木さんも動いてくれるかもしれないし」
「そうですね……! 掛けてみます!」


 佐々木に頼るなど非常に不本意だが、ケイタの言う事も一理あるので、その場で電話を掛け始めた春香を止める事はしなかった。

 聖南は黙って事態を見守り、不安と心配と焦りがごちゃまぜになった心をどうにか落ち着けようとしていた。


「荻蔵、お前は社長と連絡付けといてくれるか」
「社長と?」
「今日は重役会議のはずだから、終了が何時になるか分かんねぇ。 秘書でもいいからいつでも電話繋げるようにしといて」
「了解っす!」


 聖南が冷静に、一番暇そうな彼に頼み事をすると、元気よく返事が返ってきた。 コーヒーを飲みながら足を組み、スマホを取り出す様子のない荻蔵はどこまでもマイペースだ。

 そんな荻蔵は無視で、聖南はアキラとケイタに向き直って「悪いな」と苦笑した。


「何で謝るんだよ」
「ハルが居なくなったなんて一大事だろ。 しかも事情が事情だし、お前の事も心配だったんだからな、セナ」


 昨日から聖南と葉璃は心が大忙しに違いなく、葉璃の戸惑いも分かるが、聖南の心のバランスが崩れている今こんな状況になるのは、聖南がついに壊れてしまうのではとの懸念からアキラとケイタはここまで飛んで来たのだ。

 迷わず二人に連絡して良かった。

 ありがとな、とお礼を言おうとした時、佐々木と連絡がついたらしい春香が怒号を上げた。



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