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しおりを挟む見詰めあっていると、さっきまであんなにキレてた聖南の視線がどんどん優しくなっていった。
俺が必死で心の中で謝ってた気持ちを察してくれたみたいに、「もう怒ってねぇよ」なんて言葉まで聞こえてきそうなくらい、いつもの聖南の甘過ぎる視線だった。
でも、こんな騒動を起こしておいてちゃんと謝らないのはダメだ。
みんなに迷惑かけちゃった事も、なんでこんな騒動を起こしてしまったのかも面と向かって言わないと、聖南も納得しないだろうと思った。
「あの、……聖南さん、でも、……でも、俺が聖南さんの隣に居たら……。 聖南さんが苦しむの分かってて一緒には……」
「おい、それ以上言うなよ」
「……一緒には……居られないです……」
「あ、言いやがったな」
俯いた俺がボソボソとそう告げると、聖南の瞳が怒りと悲しみに揺れた。
それでも、俺が逃げた理由は話しておかなきゃならない。
俺と付き合ってる事で、聖南によくないイメージがついたら嫌だ。 聖南の立場上、それだけでは済まないことくらい俺にだって分かる。
離れちゃってごめんねって謝るだけじゃ、何も解決しない。 聖南のために離れようと思ったんだという、俺の気持ちも分かってほしかった。
ジッと見詰め合う俺と聖南は、お互いの気持ちをまったく譲らなくて、視線はしばらくぶつかり合った。
それを黙って見守るアイドルと俳優、そしてマネージャー姿の総長はなんとも言えない表情で俺達を見ている。
「───お。 セナさん、社長から折り返しきたっす」
「ん、貸して」
静かな視線の攻防を崩した荻蔵さんからスマホを受け取った聖南が、迷い無くそれに応じた。
え、待って待って待って待って……!
荻蔵さん、「社長から」って言った……?
じゃあ今聖南が電話で話してる相手は、……社長……っ?
「もしもし? 聖南だけど。 ……あぁ、見付かった」
どうしよう、どうしよう、社長から電話だなんて……。
いや、どうしようなんて狼狽えてる場合じゃない。
不安と動揺丸出しで聖南を見詰めていると、ふとスマホを耳から離して俺を見てきた。
「いいか、社長に、俺と別れる気はないってちゃんと言えよ」
「い、いや、無理だよっ……」
「怒ってねぇから、社長は。 とりあえず黙って話聞け。 ……あ、悪いな、葉璃にかわるから」
「…………っっ」
えぇっ!? どうしたらいいんだよ!
話聞けって、まだ全然心の準備出来てないよ……!!
まさか早速こんな展開になるとは思わなかった俺は、オロオロしたまま聖南から無理矢理スマホを握らされた。
何の言葉の用意も出来てないけど、とにかくまずは謝ろうと恐る恐る口を開く。
「……か、かわりました、倉田です……あ、あの社長……すみま……」
『ハルか!? 無事で良かった! 突然出て行くから驚いたじゃないか!』
「うっ……! 本当にすみません、でした……」
『うむ。 ともかく無事で何よりだ。 ……あの後な、セナにこっぴどく叱られてしまったよ。 私はハルにあんな事を言わせたくて呼んだわけじゃないんだ』
電話口の社長の剣幕に圧された。
それは怒ってるというより、家出して帰ってきた息子を心配のあまり叱るお父さんみたいな、そんな感じだった。
スマホ片手に聖南を見上げると、すかさず頭を撫でてくれる。
『セナから君達の関係は全て聞いた。 安心しなさい。 私も、あの場に居たセナの父親も、恐らく君達の関係に勘付いたはずだ。 戸惑っているのは事実だが、君達の気持ちが第一だと思っている。 私に出来る事は協力するし、セナの父親も同じ思いだ』
「……社長……」
まさかとは思ってたけど、やっぱり昨日の俺のブチ切れがすべての発端だったんだ。
俺が怒りのまま、勢いに任せて思いをぶつけてしまった事で自分で自分の首を絞めて、こんな事態を招いた。
それなのに、大きな芸能事務所の社長ともあろう人物が、こんなペーペーの俺にもすごく気を遣って話してくれてると思うと申し訳なかった。
『セナは世間に公表してもいいと言っていたが、それはハルも同じ気持ちなのか?』
「いえ! それは違います!!」
『そうか。 今の世は寛大なようでまだまだそうとは限らない部分も大いにある。 公表するのはタイミングを見なければならないと思っている』
「しなくていいです! それは分かってますし、聖南さんにもそこは自重してもらいたいです!」
公表するとまで言ってたの、聖南……!?
俺が出て行った後キレちゃったらしい聖南が、何をどんな風に社長に伝えたのかは分からないけど、俺はこの関係が公になるのが一番怖かったのにそんな事望むわけない。
『いやでも……そうか、本当にハルがそこのじゃじゃ馬セナを変えてくれたのか。 素晴らしい事だ。 セナが金輪際スキャンダルは起こさないと豪語していた訳も、相手を特定される心配は無いと自信満々だった訳も分かった。 あまりセナを怒らせると、私達や仕事にまで影響がくるからな。 ハルがしっかり手綱を引いていてくれ』
社長が穏やかに語る度に、俺の視線は聖南から地面へと落ちていった。
俺たちの関係を知っても温かなみんなに見守られて、恐れていた社長からも公認してもらえるなんて信じられない気持ちでいっぱいだった。
てっきり俺は、「今後の事を考えなさい」、「聖南のことを思うなら別れなさい」ってキツく言い渡されると思ってた。
だって聖南は……それだけの男だもん……。
俺には到底手の届かない、トップアイドル様なんだもん……。
「…………分かり、ました……。 社長、……いいんですか、本当に……?」
『いいも悪いも、好きになるのに年齢性別国境は関係ないだろう。 君達がそうなるのはきっと必然なのだろうから、私を含めた周りがとやかく言う事ではない。 ただハルも分かっていると思うが、それを良しとしない人物も大勢いるのもまた確かだ。 秘密裏にはなってしまうが、これからもセナと乗り越えてやってくれ。 あいつは強く見えてとても弱い人間だからな』
「……はい……っ。 社長、ありがとうございます……ありがとう、ございます……っ」
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