必然ラヴァーズ

須藤慎弥

文字の大きさ
上 下
334 / 541
49♡

49♡9

しおりを挟む



 スマホを手にした荻蔵さんが中心となって三人が話し込んでるから、俺達は少しだけ離れた場所に移動した。

 壁を崩したアキラさんとケイタさんが俺に向き直って、優しかった二人ともが真剣な顔で同時に腕を組む。

 まったくタイプの違うカッコいい二人に凝視された俺は、あぁやっぱり二人も怒ってるんだって思うと悲しくなって、深く俯いた。

 ずっと優しく接してくれていた二人にも、こんなに心配と迷惑をかけたんだ。

 ぶん殴りたいくらいムカついてる、よね……。


「ハル、そんな泣きそうな顔するな。 怒ってねぇから。 でもな、ハルの気持ちも分かるけど突飛な事し過ぎ。 俺らも相当心配したんだからな」
「ほんとだよ。 ハル君もセナと同じで、思い詰めたら周りが見えなくなるタイプだって知ってたけどさぁ……昨日のセナの親父さんの事もあるし? もうこんな事ないだろうなって思ってたら今日これでしょ、焦ったのなんの」
「ごめ、……ごめんなさい……」


 二人は、怒ってなかった。

 我慢して怒ってないフリしてるのかもしれないって、俺が卑屈に思わないくらい優しかった。

 心配したんだぞって俯いた俺の顔を覗き込んでくれる二人のお兄さんを前に、俺はとうとう堪えきれずに涙を流した。

 怒られても当然な騒ぎを引き起こしたんだから、こんなにも優しくされたらどうしていいか分からない。

 こんなくだらない事で迷惑かけるな!って怒号が飛んできてもおかしくないのに、なんで……? なんで二人はそんなに優しいの……。


「ハル、セナを頼むなって言っただろ? なんで逃げたりしたんだよ」
「そ、……それ、は……」


 そうだ……。 俺、アキラさんから何度も「セナを頼む」って言われてたんだった。

 過去の聖南を知る一人として、そう何度も。

 二人が見詰めてくる前で、俺は蚊の鳴くような小さな声を絞り出す。


「……俺が聖南さんと一緒にいたら、不幸になると、思ったから……」
「なんで俺が葉璃と一緒に居て不幸になんだよ。 アホか」
「…………っっ! 聖南さん……っ」
「セナ、アホは言い過ぎ」


 向こうでの話が終わったのか、聖南がいつの間にか後ろに居て、背後からキツく抱き締めてきた。

 聞かれてたとは思わなくてハッとしたけど、数時間ぶりの聖南の温かさに思わず目の奥がもっと熱くなる。

 苦しい。

 聖南の事が大好きで、ほんとは離れたくなんかないのに、聖南を悲しませてしまうかもしれない原因が俺だと思うと、苦しくてたまらない……。


「よっ、ハル! 心配したんだぞー? 心配のお詫びはハグでいいよ」
「……荻蔵さん……」


 呑気な荻蔵さんは、そんな冗談を言いながら俺の前にやって来て両腕を広げてきた。

 空気が読めない人ではあるけど、今この場では荻蔵さんの脳天気さがちょっとだけありがたい。

 でも、背後からはそんな荻蔵さんを睨み付ける強烈な視線を感じる。


「……葉璃さぁ、社長がなんて言うと思ったわけ?」


 後ろから俺にしがみついた聖南が、首筋を嗅いでくる。

 さっきのキレた聖南じゃなく、耳元で問うてくるそれはいつもの聖南に戻ってて心の底から安心した。

 目前の荻蔵さんの両腕はまだ広がっててどうしようかと思ったけど、それに気付いた佐々木さんがそれとなくその腕を下ろさせている。


「……聖南さんの事を思うなら別れなさいって……」
「んな事言うわけないじゃん。 っつーか言わせねぇし」
「社長はセナの父親代わりみたいなもんだからね。 それに、ハル君が思ってるほど分からずやじゃないよ」
「ハルのネガティブが最大限に発揮されたって事だな。 こんな思い詰めさせて……セナがハルに甘え過ぎなんじゃないの?」
「自覚はある」


 あんのかよ、とアキラさんが笑って突っ込むと、ケイタさんまでクスクス笑い始めた。

 みんなが俺を取り囲んで、「大丈夫」って言ってくれてるような気がした。

 俺の行動を誰も咎めない。 もっといっぱい叱られて当然の事をしたんだよ、俺……。

 聖南だけじゃなく、ここにいるみんなが俺に甘過ぎる。

 みんな、……優し過ぎる。


「セナさんは葉璃のすべてを理解してくれていると思ってましたけど。 違ったようですね」
「眼鏡うるせぇよ。 逃げる前はいつも通りの葉璃だったんだから気付くはずねぇじゃん」


 俺が引き起こした事なのに、何故か聖南が責められている。

 親しみのこもった遠慮無しの口撃にいたたまれなくなった俺は、身を捻って聖南を見上げた。

 視線に気付いた聖南も、ふと俺を見下ろしてきて目が合う。


 …………聖南さん、……ごめんなさい。 逃げてごめんなさい。 心配かけてごめんなさい。 子どもでごめんなさい。 ひとりでぐるぐるしてごめんなさい。
 もう離れないよって誓ったのに、離れてしまって、……ごめんなさい。


 俺は、涙で滲む瞳で訴えた。

 気持ちが伝わるように、いっぱい想いを込めて謝った。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

潜入した僕、専属メイドとしてラブラブセックスしまくる話

ずー子
BL
敵陣にスパイ潜入した美少年がそのままボスに気に入られて女装でラブラブセックスしまくる話です。冒頭とエピローグだけ載せました。 悪のイケオジ×スパイ美少年。魔王×勇者がお好きな方は多分好きだと思います。女装シーン書くのとっても楽しかったです。可愛い男の娘、最強。 本編気になる方はPixivのページをチェックしてみてくださいませ! https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=21381209

新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~

焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。 美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。 スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。 これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語… ※DLsite様でCG集販売の予定あり

【BL】SNSで人気の訳あり超絶イケメン大学生、前立腺を子宮化され、堕ちる?【R18】

NichePorn
BL
スーパーダーリンに犯される超絶イケメン男子大学生 SNSを開設すれば即10万人フォロワー。 町を歩けばスカウトの嵐。 超絶イケメンなルックスながらどこか抜けた可愛らしい性格で多くの人々を魅了してきた恋司(れんじ)。 そんな人生を謳歌していそうな彼にも、児童保護施設で育った暗い過去や両親の離婚、SNS依存などといった訳ありな点があった。 愛情に飢え、性に奔放になっていく彼は、就活先で出会った世界規模の名門製薬会社の御曹司に手を出してしまい・・・。

【R18】孕まぬΩは皆の玩具【完結】

海林檎
BL
子宮はあるのに卵巣が存在しない。 発情期はあるのに妊娠ができない。 番を作ることさえ叶わない。 そんなΩとして生まれた少年の生活は 荒んだものでした。 親には疎まれ味方なんて居ない。 「子供できないとか発散にはちょうどいいじゃん」 少年達はそう言って玩具にしました。 誰も救えない 誰も救ってくれない いっそ消えてしまった方が楽だ。 旧校舎の屋上に行った時に出会ったのは 「噂の玩具君だろ?」 陽キャの三年生でした。

EDEN ―孕ませ―

豆たん
BL
目覚めた所は、地獄(エデン)だった―――。 平凡な大学生だった主人公が、拉致監禁され、不特定多数の男にひたすら孕ませられるお話です。 【ご注意】 ※この物語の世界には、「男子」と呼ばれる妊娠可能な少数の男性が存在しますが、オメガバースのような発情期・フェロモンなどはありません。女性の妊娠・出産とは全く異なるサイクル・仕組みになっており、作者の都合のいいように作られた独自の世界観による、倫理観ゼロのフィクションです。その点ご了承の上お読み下さい。 ※近親・出産シーンあり。女性蔑視のような発言が出る箇所があります。気になる方はお読みにならないことをお勧め致します。 ※前半はほとんどがエロシーンです。

αなのに、αの親友とできてしまった話。

おはぎ
BL
何となく気持ち悪さが続いた大学生の市ヶ谷 春。 嫌な予感を感じながらも、恐る恐る妊娠検査薬の表示を覗き込んだら、できてました。 魔が差して、1度寝ただけ、それだけだったはずの親友のα、葛城 海斗との間にできてしまっていたらしい。 だけれど、春はαだった。 オメガバースです。苦手な人は注意。 α×α 誤字脱字多いかと思われますが、すみません。

イケメン仏様上司の夜はすごいんです 〜甘い同棲生活〜

ななこ
恋愛
須藤敦美27歳。彼氏にフラれたその日、帰って目撃したのは自分のアパートが火事になっている現場だった。なんて最悪な日なんだ、と呆然と燃えるアパートを見つめていた。幸い今日は金曜日で明日は休み。しかし今日泊まれるホテルを探す気力がなかなか起きず、近くの公園のブランコでぼんやりと星を眺めていた。その時、裸にコートというヤバすぎる変態と遭遇。逃げなければ、と敦美は走り出したが、変態に追いかけられトイレに連れ込まれそうになるが、たまたま通りがかった会社の上司に助けられる。恐怖からの解放感と安心感で号泣した敦美に、上司の中村智紀は困り果て、「とりあえずうちに来るか」と誘う。中村の家に上がった敦美はなおも泣き続け、不満や愚痴をぶちまける。そしてやっと落ち着いた敦美は、ずっと黙って話を聞いてくれた中村にお礼を言って宿泊先を探しに行こうとするが、中村に「ずっとお前の事が好きだった」と突如告白される。仕事の出来るイケメン上司に恋心は抱いていなかったが、憧れてはいた敦美は中村と付き合うことに。そして宿に困っている敦美に中村は「しばらくうちいれば?」と提案され、あれよあれよという間に同棲することになってしまった。すると「本当に俺の事を好きにさせるから、覚悟して」と言われ、もうすでにドキドキし始める。こんなんじゃ心臓持たないよ、というドキドキの同棲生活が今始まる!

処理中です...