331 / 541
49♡
49♡6
しおりを挟む聖南にとっての幸せ………?
そんなの、そんなの……。
「セナさんの幸せは、葉璃と一緒に居る事なんじゃないの」
佐々木さんはそう言うとお茶を一気に飲み干し、ペットボトルを投げてゴミ箱に放った。
俺はその佐々木さんの行動を呆然と眺めながら、聖南にとっての幸せが何なのかを考えていた。
聖南の幸せ、……。
「……で、でも……俺が一緒に居たら聖南さんは……」
俺たちの関係が万が一各方面に広まってしまったら、聖南が悪く言われてしまうかもしれない。
なんで “あの” 聖南の相手が倉田葉璃なんだって笑われちゃうかもしれない。
今まで関わってきた人達から後ろ指指されて、仕事が無くなっちゃうかもしれない……。
生まれた時から芸能界に居る聖南から、俺の存在一つでこれまでのすべてを取り上げてしまうかもしれない……。
聖南が俺のせいでこの先の未来が不幸になるかもしれないって分かってて、一緒にいられるわけがない。
社長だってそう言いたかったんだ、聖南の事を思うなら別れなさいって。
聖南が事務所にどれだけ貢献してるかこの目でしっかり見ちゃった後だから、俺は余計にそんな思いに囚われている。
それなのに佐々木さんは終始、聖南の肩を持つ。
俺の事好きって言ってたし、さっきも「据え膳?」って聞いてきたくらいだから、てっきり俺と聖南が別れる方に話を持っていかれると思ってた。
でも違った。
聖南の幸せは「俺と一緒に居ること」だって、分かってくれていた。
「……佐々木さん……俺、どうしたらいいんでしょう……」
一生に一度の誓いの言葉をくれた聖南に、二度と離れないよって約束して、俺達はしっかり分かり合ってた。
それが俺の本音で真意でもあるのに、一体どうしたら……。
「葉璃はセナさんと別れたい?」
「………………」
……別れたいはず、ない。
聖南のために最良な判断だと思うから別れた方がいいって思ってるのも、俺のほんとの気持ち。
俺のせいで聖南が傷付くなんて嫌だから、その原因である俺が離れれば聖南が傷付かなくて済むって、そう思ってるのもほんとだ。
どっちの気持ちも本当だから、俺は生意気にも八方塞がりだった。
「別れたいなら、別れればいいよ」
「違っ、わ、別れたいわけじゃ……っ」
「別れたくないのに離れたいってどういう事だよ。 セナさんの幸せを第一に考えての独断なら、それは相当危ない判断だと思う」
「…………っっ」
そ、そんなの分かってるもん……っ。
聖南を置いてけぼりにしたまま、自分勝手に突っ走ってまたみんなを巻き込んでしまってる事くらい。
でもしょうがないじゃん……聖南を守ってあげたいんだから……。
聖南を守れるのは俺しかいないんだから……。
「……厶ー……」
「厶ーじゃなくて。 ね、葉璃。 俺いまめちゃくちゃ微妙な立場から物言ってるの分かってるか? 俺、葉璃の事好きだったんだぞ? セナさんと別れたって聞いたらこの場で葉璃のこと押し倒したいくらい、まだ未練残ってる」
苦笑して立ち上がった佐々木さんはジャケットを羽織って、車の鍵を指で器用にくるくる回した。
一時間後に裏梨海岸で……って電話で言ってたから俺を送ってくれるつもりなんだって分かったけど、……なかなか動けない。
行ったらきっと、聖南が居る。 佐々木さんには甘過ぎると言われた決意が、……鈍る。
「…………未練、消してください」
「葉璃達がいつまでもそんなだと、俺もなかなか前に進めないでしょうが。 根暗だ根暗だと思ってたけど、ここまでとはな」
「ひどい……傷口に塩塗り込みましたね、佐々木さん……」
「たっぷりな。 葉璃にはこうやって叱咤しないと伝わんないって忘れてたよ」
「追い塩しないでください……」
「フッ……うまいこと言うね。 ……なぁ葉璃。 別れたいって意思が固いなら俺が沈めてやろうか、セナさん」
忘れた頃にやってくる総長に再度ニヤッと微笑まれ、穏やかじゃない台詞にビクッとした俺の体が自然と奮い立った。
恐ろしい言葉とその微笑みの裏には、ほんとにやるよって思いがしっかり込められている。
「は!? そんなのやめてくださいよ! 佐々木さんが言うとシャレにならないです!」
「あはは……! あのさぁ、こんな事言うまでもないんだろうけど、葉璃はセナさんと別れたくないんだよ。 だったらこれ以上セナさん怒らせない方が身の為だ」
超レアな佐々木さんの笑い声が聞けたと思ったら、またそんな事を言って俺の決意を鈍らせてくる。
佐々木さんは、「未練がある」とか言いながら間違いなく俺の背中を押してくれていた。
総長のオーラを纏わせて、俺の根暗な性分をしっかり理解した上で聖南の気持ちを代弁する、大人の余裕まで感じた。
3
お気に入りに追加
302
あなたにおすすめの小説
潜入した僕、専属メイドとしてラブラブセックスしまくる話
ずー子
BL
敵陣にスパイ潜入した美少年がそのままボスに気に入られて女装でラブラブセックスしまくる話です。冒頭とエピローグだけ載せました。
悪のイケオジ×スパイ美少年。魔王×勇者がお好きな方は多分好きだと思います。女装シーン書くのとっても楽しかったです。可愛い男の娘、最強。
本編気になる方はPixivのページをチェックしてみてくださいませ!
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=21381209
新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~
焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。
美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。
スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。
これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語…
※DLsite様でCG集販売の予定あり
【BL】SNSで人気の訳あり超絶イケメン大学生、前立腺を子宮化され、堕ちる?【R18】
NichePorn
BL
スーパーダーリンに犯される超絶イケメン男子大学生
SNSを開設すれば即10万人フォロワー。
町を歩けばスカウトの嵐。
超絶イケメンなルックスながらどこか抜けた可愛らしい性格で多くの人々を魅了してきた恋司(れんじ)。
そんな人生を謳歌していそうな彼にも、児童保護施設で育った暗い過去や両親の離婚、SNS依存などといった訳ありな点があった。
愛情に飢え、性に奔放になっていく彼は、就活先で出会った世界規模の名門製薬会社の御曹司に手を出してしまい・・・。
【R18】孕まぬΩは皆の玩具【完結】
海林檎
BL
子宮はあるのに卵巣が存在しない。
発情期はあるのに妊娠ができない。
番を作ることさえ叶わない。
そんなΩとして生まれた少年の生活は
荒んだものでした。
親には疎まれ味方なんて居ない。
「子供できないとか発散にはちょうどいいじゃん」
少年達はそう言って玩具にしました。
誰も救えない
誰も救ってくれない
いっそ消えてしまった方が楽だ。
旧校舎の屋上に行った時に出会ったのは
「噂の玩具君だろ?」
陽キャの三年生でした。
EDEN ―孕ませ―
豆たん
BL
目覚めた所は、地獄(エデン)だった―――。
平凡な大学生だった主人公が、拉致監禁され、不特定多数の男にひたすら孕ませられるお話です。
【ご注意】
※この物語の世界には、「男子」と呼ばれる妊娠可能な少数の男性が存在しますが、オメガバースのような発情期・フェロモンなどはありません。女性の妊娠・出産とは全く異なるサイクル・仕組みになっており、作者の都合のいいように作られた独自の世界観による、倫理観ゼロのフィクションです。その点ご了承の上お読み下さい。
※近親・出産シーンあり。女性蔑視のような発言が出る箇所があります。気になる方はお読みにならないことをお勧め致します。
※前半はほとんどがエロシーンです。
αなのに、αの親友とできてしまった話。
おはぎ
BL
何となく気持ち悪さが続いた大学生の市ヶ谷 春。
嫌な予感を感じながらも、恐る恐る妊娠検査薬の表示を覗き込んだら、できてました。
魔が差して、1度寝ただけ、それだけだったはずの親友のα、葛城 海斗との間にできてしまっていたらしい。
だけれど、春はαだった。
オメガバースです。苦手な人は注意。
α×α
誤字脱字多いかと思われますが、すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる