327 / 541
49♡
49♡2
しおりを挟む車内では、動揺しまくりな俺に聖南が色々と話し掛けてくれてたけど、全然余裕の無い俺は愛想笑いと相槌だけしか返せなかった。
会話の内容なんかもほとんど何も覚えてない。
考えてたのは、聖南が被害を被らないためにはどうしたらいいか。
その答えはもうとっくに出ていて、「俺と聖南は何にも関係ありません」って社長に断言する。 それだけだ。
聖南は俺と会う度に「離れるな」としつこいくらい言ってくれるけど、それはこんなヤバイ事態が起こらなかった時の話。 聖南のこれまでとこれからの芸能生活を考えたら、絶対に俺は隣にいちゃ駄目だ。
聖南に甘え過ぎてた。
俺と聖南の立場も考えられなくなるくらい、夢中になり過ぎてた。
アキラさんとちょっと仲良くしただけであんなにヤキモチを焼く聖南の愛が、意地悪かもしれないけどたまらなく嬉しかった。
可愛い可愛いと頭を撫でてくれる温かさ、「言いたくなったから」という理由だけで俺に誓いの言葉を言ってくれる真っ直ぐさ、一生そばにいてほしいと囁いた甘く優しい声。
俺の何が聖南をそうさせているのか未だに分からないけど、瞳を閉じると目蓋の裏に浮かぶのはことごとく優しくてヤンチャな笑顔。
大好きって想いをこんなにストレートにぶつけてくれる人は、今後二度と現れない。
でもこれが、……聖南のためなんだ。
聖南のため。 聖南のため。
俺はどうなってもいい。 これが明るみに出た時、聖南が潔白であれば非難される事も追及される事もない。
聖南にはこれからも、キラキラした世界に居続けてもらわなきゃならないんだから。
「……葉璃、そんな難しい顔してんなよ。 マジで大丈夫だから」
「うん、大丈夫。 聖南さんは何も心配しないで」
「は? 俺?」
俺じゃなくて葉璃を心配してんだけど、って微笑む聖南の横顔は、いつもながらこれ以上ないほどカッコよくて綺麗だ。
聖南のためだと思うと気持ちを強く持つ事が出来始めて、案外落ち着いてきた俺も聖南に微笑み返した。
……ツラくなんかない。 俺は、聖南が幸せならそれだけで嬉しいもん。
大好きな人のためだったら、身を引く覚悟なんかすぐ出来ちゃうもんなんだって自分でも驚いた。
それでも、一歩進むごとに心拍数が上がってくる。
事務所の最上階にある社長室の前にいよいよ到着すると、聖南のノックの後に二人並んで入室した。
秘書さんの部屋を通り抜けて、もう一つ奥の扉を開ける。 そこには、高そうな革張りソファに腰掛けてのんびりとお茶を啜る社長が居た。
「おぉ、来たか。 座りなさい」
聖南は俺を一度振り返って小さく頷き、二人掛けのソファにドカッと腰掛けると「おいで」と手招きしてきた。
この部屋に慣れている聖南はリラックスした様子で、お茶を手にして啜る様を俺は突っ立ったまま見詰める。
「ハル、どうした? 座りなさい」
入り口から動かなくなった俺に、社長はすごく優しい表情でソファへ促してくれた。 でもきっとこれは、後からめちゃくちゃ怒る気だから今は穏やかにしてるってだけだ。
なんて切り出すか、すごく考えた。
大塚社長を見て、聖南を見て、を何度か繰り返しても何にもいい言葉が思い付かなくて、喉がギュッと締まってくる。
カチカチに固まって動かない俺を心配した聖南が、「葉璃?」と立ち上がりかけたところで俺はついに意を決した。
「あ、あの!!」
裏返る寸前だった俺の声に、社長と聖南の動きが同時に止まる。
俺は服をぎゅっと握って、一回瞳を瞑って大きく深呼吸した後、聖南を見ると決意が鈍りそうだから、とにかく社長だけを見据えて言葉を紡いだ。
「お、俺と聖南さんは何の関係もないです! 万が一社長がこれまでの事を知ってたとしたら、ごめんなさいです! これからは一切関係ない、先輩後輩になりますから、許してください! 聖南さんは何も悪くありません! 俺が一方的に、……なので、聖南さんは本当に……っ!」
「………………」
「……葉璃……? ちょっ、お前何言って……」
頭を下げて数秒後に上げてみると、二人の視線が痛くてじわじわと後ずさる。 後ろ手に扉のノブに触れてそれを握った。
「お、俺いますごく動揺してるから、デビューの事とかお怒りの言葉とか聞けないので、後日また来ます。 あの、本当にごめんなさい。 色々、ごめんなさい……!」
「葉璃? ……ちょっ!? 葉璃ッッ!!」
突然何を言い出したんだと眉を寄せた聖南が近付こうと立ち上がったのが見えて、俺はゆっくりと、後ろ手に掴んだノブを回し社長室を飛び出した。
ごめんなさいと叫んだ俺は、聖南の必死な声を遠くで聞きながらひたすら走る。
昨日もたくさんやらしい事をして、あげくに寝かせてくれなかったから体がギシギシと悲鳴を上げてたけど、そんな事には構えない。
俺は聖南より足が速い。
小さいから小回りが効くし、廊下を歩く事務所の人達にぶつからずに走る事なんか容易い。
追い掛けてくる聖南を撒いて、俺は非常階段へと出た。
社長室に来る前にこの場所は確認してたから、迷わず階段を駆け下りる。
「はぁ、っ……はぁ、っ……」
涙なんか出てこない。
俺は、聖南と想い合えた事はすべて夢だと思う事にした。
卑屈でネガティブなただの男子高校生が、トップアイドルに熱烈求愛される、とんでもない夢───。
13
お気に入りに追加
321
あなたにおすすめの小説

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話
あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハンター ライト(17)
???? アル(20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後半のキャラ崩壊は許してください;;
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

男の娘を好きに成っても良いですか?
小春かぜね
BL
とある投稿サイトで、自分を応援してくれる人を、女性だと信じ好意を持ってしまった主人公。
相手のプロフィールから、思い思いに女性の姿を想像し、日増しにその想いは強く成っていく。
相手プロフィールからの情報で、自分との年齢差が有る事から、過度の交流を悩んでいた主人公だが、意外にも相手側が積極的の感じだ!?
これを機会と捉えた主人公は、女性だと思われる人とやりとりを始めるが……衝撃事実に発展する!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる