必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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─聖南─



 聖南の可愛い恋人が、助手席で完全に寝入ってしまっている。

 乗った瞬間から目を擦り始めたので、眠いのだろうと思ってはいたが、発進して数秒後には首を変な方向に向けて夢の世界へと旅立ってしまった。

 聖南は一度ハザードを付けて路肩へ停め、キョロキョロと辺りを見回してマスコミが居ない事を確認すると、一旦降車し葉璃を後部座席へと運んだ。


『……アキラの匂いすんのだけは許せねぇけど』


 運ぶ際に、葉璃からは学生の頃からアキラが愛用しているキャロライナヘレラの香水の香りがして、それがやけに鼻をついた。

 やたらとアキラに懐いている葉璃は、先程も率先して散歩に連れ出していた。

 葉璃にとってはとても聞いていられないような話をケイタとしていたのは悪かったが、それがたとえアキラ相手でも、他の男とのイチャイチャを目の前で見せられればムカつくのはしょうがなかった。

 解せない。 非常に、解せない。


『……父親との事とかどうでもよくなっちまったよ……』


 たった数時間前まで、過去の事をほじくり返してとどめを刺してきた父親に愕然とし、心の中ですべて終わったと嘆いていたはずなのに。

 今は葉璃の事で頭がいっぱいだった。

 葉璃の挙動一つ一つが、良くも悪くも聖南の心を乱す。

 それもこれも、この先もこの人しか居ないと思える葉璃だからだ。


「よく寝てんな」


 自宅駐車場に到着しても起きる気配のない葉璃を見ると、赤ん坊の寝顔で安らぐ親のような温かな心境になった。

 しかしながら匂いが鼻に付く。

 聖南の香りではない葉璃を抱えて、周囲に気を配りながら自宅へと入った。

 その足でバスルームに行き、他の男の匂いにまみれた葉璃を全裸に剥いていると、ようやく愛しの恋人が目を覚ます。


「ん……さむっ……」


 小さく呟いて葉璃は、全裸になったと同時に聖南に抱き付いた。

 躊躇なく縋ってもらえて嬉しい反面、嫉妬心は抑えきれない。


「立てる? 俺も脱ぐから先にシャワー浴びてて」
「……あれ、いつの間に着いて……」


 寝ぼけ眼で聖南をチラと見た葉璃が、「ん?」と首を傾げながらシャワーを浴び始めた事で聖南も急いで衣服を脱ぎ去った。

 ───早くその匂いを落とせ。

 そう言ってしまわなかった自分を褒めてやりながら、寝起きであまり頭が働いていない葉璃の洗髪を見守る。

 力なくワシャワシャと髪を洗っているが、先程からまったく意味のない行動を取っている。

 出しっぱなしのシャワーの下、シャンプーが泡立ったそばからそれは温水で流れていき、はっきり言って何の意味もない。


『あー……かわいー』


 毎回葉璃と会う度に思うが、葉璃は可愛いフェロモンでも体内に常備しているのだろうか。

 行動一つ取っても可愛い。

 小さくて華奢で、真っ白な素肌は未だに触れる事を躊躇うほどに危うげだ。

 ゆっくり背後からその大好きな体を抱き締めた聖南は、少しだけシャワーからずれて葉璃を振り向かせ、唇を奪う。


「……んっ……」
「葉璃、舌」
「……ぁ……ん……ふっ……ん……っ」


 もはや何の抵抗もなく舌を舐めさせてくれる。 聖南の舌を喜んで受け入れて、自身と絡ませて快感を共有しようとしてくれる。

 甘い吐息を溢しながら聖南の舌で遊ぶ葉璃の表情は、とても高校生には見えないくらいに悩ましくていやらしい。


『かわいーの垂れ流しすんなっつの』


 寝ぼけている葉璃は積極的に聖南の首元に腕を回し、もっと深い口付けを求めてきた。

 色付いた頬が可愛い。

 短い舌で頑張るいじらしさが可愛い。

 キスの合間に漏らす甘過ぎる声が可愛い。

 ピンと背伸びした姿を客観的に見たいと思いながら、聖南はしっかりと任務をこなした。

 華奢な腰を抱いて悟られぬようにし、シャワーのお湯を葉璃の首と背中にかけ続ける。

 聖南ではない匂いは消えてくれた事でようやく気持ちが落ち着いてきた聖南は、葉璃の口腔内を目一杯蹂躙する。

 聖南のキスを受け入れる葉璃の唇の端から、どちらのものとも分からない唾液がとろりと溢れた。

 それを舐め取って至近距離でニッと笑ってやると、たちまち色付いた頬の色味が増す事を知る聖南はこれ以上ないほど幸せだった。



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