必然ラヴァーズ

須藤慎弥

文字の大きさ
上 下
315 / 541
47♡

47♡10

しおりを挟む



 襖越しにソーッと耳を澄ますと、聖南とケイタさんは下ネタ話から遠ざかり、どうやらツアーの話をしているように聞こえた。

 アキラさんに視線を送ると、大丈夫そうだって意味で小さく頷く。


「おー、遅かったな……って、何でまだ手つないでんの!? てかそのマフラーなんだよ、葉璃!」
「寒かったから俺が貸したんだよ」
「ありがとうございました。 あったかかったです」


 個室に入ってアキラさんにお礼を言いながらマフラーを返すと笑顔で見下ろされて、へへへと笑い合う。

 俺の中でアキラさんは、優しくて頼りになるお兄ちゃんというイメージだったけど今日でさらにその思いが強くなった。

 ただそれだけなのに、嫉妬深い聖南のヤキモチが突如として始まった。


「ちょっ!? おいおいおい、お前ら! 俺の前でイチャつくな! 葉璃、こっちに来い!」


 聖南は胡座をかいた自身の足をバシバシ叩いて、「早く!」と急かし気味で俺を呼んでいる。

 ここで恥ずかしがって拒否でもした日には、後から宥めるのが大変だと知っている俺は素直に近寄っていく。 そばまで来ると、グイッと腕を引かれて聖南の胡座の中にちまっと収まった。


「セナ、騒ぐな。 何でもねぇから。 ってかそんな事より、やべぇかも」
「何が」


 呆れたように笑うアキラさんと会話する聖南が、背後からいつものように俺の首筋をクンクンと嗅いだ。

 何かを確認したいのか、甘えたいだけなのか、……たぶん両方の意味で。


「撮られた。 俺とハル」
「はぁ!? 撮られたって……」
「もしかしたら載るかもしんねぇ。 承知しといて」
「載るかもってなぁ……」


 いやいや……と聖南は絶句して、俺のお腹に両腕を回してすっぽり包み込んできた。

 聖南にもすぐにその意味が分かったらしく、ため息が止まらない。

 とりあえずヤキモチは脇に逸れたみたいだ。


「フラッシュきたのか?」
「あぁ、バッチリ。 遠かったけどな。 ハルが俺のマフラーしてたから女と間違えたのかも。 俺のスキャンダル撮ったぜって今頃喜んで帰ってんだろ」
「……俺より先に葉璃と撮られるなよ」
「アキラとハル君が週刊誌に載るかもしれないのかぁ。 いっそセナとハル君の交際の目眩しに、アキラと付き合ってる事にしたらいいんじゃない? 女の子だって思われてるならいいアイデアだと思うけどなー」
「………………」


 密着した体から聖南の戸惑いが伝わってきたけど、ケイタさんの呑気な呟きでそれがちょっと怒りに変わったみたいだった。

 俺は冷めてしまった鍋物を取ろうと身を捩って聖南から抜け出そうとしたのに、ぎゅっと抱かれてそれは無理そうだ。

 ケイタさんがアキラさんに事の顛末を根掘り葉掘り聞いてるのを横目に、聖南は後ろから俺の顔を覗き込んでくる。


「俺じゃねぇ匂いがする」


 きっとそれはアキラさんの香水の事を言ってるんだろう。

 小声でそう耳元で囁かれて、脇に逸れたと思ってたヤキモチがまだ続行中だったことを知って苦笑した。


「…………マフラー借りてたから、ですかね……?」
「かもな。 ……そろそろ帰るか」


 ありがとな、と聖南は神妙な面持ちでアキラさんとケイタさんに告げると、濃厚でとても贅沢だった食事会はお開きとなった。

 アキラさんとケイタさんの高級車が駐車場を出て行くまで、俺はお見送りしたいと聖南に我儘を言う。 すると聖南じゃなく二人に「そんなのいいから早く車に乗れ」って気遣われてしまった。

 さっき散歩してた時も思ったけど、夜中はほんとに冷える。

 体を縮こませて両手を擦り合わせ、いかにも寒そうに見送られても確かにいい気分じゃないよね。


「葉璃、……かわいーの垂れ流しやめろ」
「何ですか、それ」
「アキラめ……俺より先に葉璃と撮られやがって」


 ……まだそれ言ってるの。 聖南ってばいつまでヤキモチ引き摺るつもりなんだろ。

 ヤキモチ焼かれるのは嫌いじゃないしくすぐったいんだけど、今日は特にしつこい気がする。 ……当然といえば当然なのかもしれないけど。


「ちょっと走るから寝てていいよ。 魔の一時だろ」
「…………?」
「葉璃は一時過ぎたら目をゴシゴシしだすんだよな。 起きてられなーい、眠いよーって」
「え、あっ……」
「な?」


 聖南の車の助手席に乗り込むと、しっかりとした上質なシートが一気に眠気を誘って無意識に目を擦っていた。

 時間を確認してみると、……もうすぐ深夜一時。

 フッと笑った聖南はヤキモチを引き摺ってるように見えない。

 眼鏡を掛けてキリッと前を見据える横顔は、眠気がピークな俺でも惚れ惚れするほどカッコいい。


「じゃあ、……ちょっとだけ……」


 頷いた聖南から頭を撫でられると、まったくの無意識で目を擦ってしまう。

 帰ったら、聖南をいっぱい抱き締めてあげたい。 ううん、絶対に抱き締めてあげるんだ。

 俺には重た過ぎる色々な感情を抱えた聖南に、果たして俺のハグが聖南を元気にする効果があるのかは分からないけど……。

 今日は朝からレッスンで、夕方以降は本当に怒涛のように色々あった。

 とにかく俺も疲れた。 ほんとに。

 ……眠たくてたまらない。





しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。

不夜島の少年~兵士と高級男娼の七日間~

四葉 翠花
BL
外界から隔離された巨大な高級娼館、不夜島。 ごく平凡な一介の兵士に与えられた褒賞はその島への通行手形だった。そこで毒花のような美しい少年と出会う。 高級男娼である少年に何故か拉致されてしまい、次第に惹かれていくが……。 ※以前ムーンライトノベルズにて掲載していた作品を手直ししたものです(ムーンライトノベルズ削除済み) ■ミゼアスの過去編『きみを待つ』が別にあります(下にリンクがあります)

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

処理中です...