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しおりを挟む襖越しにソーッと耳を澄ますと、聖南とケイタさんは下ネタ話から遠ざかり、どうやらツアーの話をしているように聞こえた。
アキラさんに視線を送ると、大丈夫そうだって意味で小さく頷く。
「おー、遅かったな……って、何でまだ手つないでんの!? てかそのマフラーなんだよ、葉璃!」
「寒かったから俺が貸したんだよ」
「ありがとうございました。 あったかかったです」
個室に入ってアキラさんにお礼を言いながらマフラーを返すと笑顔で見下ろされて、へへへと笑い合う。
俺の中でアキラさんは、優しくて頼りになるお兄ちゃんというイメージだったけど今日でさらにその思いが強くなった。
ただそれだけなのに、嫉妬深い聖南のヤキモチが突如として始まった。
「ちょっ!? おいおいおい、お前ら! 俺の前でイチャつくな! 葉璃、こっちに来い!」
聖南は胡座をかいた自身の足をバシバシ叩いて、「早く!」と急かし気味で俺を呼んでいる。
ここで恥ずかしがって拒否でもした日には、後から宥めるのが大変だと知っている俺は素直に近寄っていく。 そばまで来ると、グイッと腕を引かれて聖南の胡座の中にちまっと収まった。
「セナ、騒ぐな。 何でもねぇから。 ってかそんな事より、やべぇかも」
「何が」
呆れたように笑うアキラさんと会話する聖南が、背後からいつものように俺の首筋をクンクンと嗅いだ。
何かを確認したいのか、甘えたいだけなのか、……たぶん両方の意味で。
「撮られた。 俺とハル」
「はぁ!? 撮られたって……」
「もしかしたら載るかもしんねぇ。 承知しといて」
「載るかもってなぁ……」
いやいや……と聖南は絶句して、俺のお腹に両腕を回してすっぽり包み込んできた。
聖南にもすぐにその意味が分かったらしく、ため息が止まらない。
とりあえずヤキモチは脇に逸れたみたいだ。
「フラッシュきたのか?」
「あぁ、バッチリ。 遠かったけどな。 ハルが俺のマフラーしてたから女と間違えたのかも。 俺のスキャンダル撮ったぜって今頃喜んで帰ってんだろ」
「……俺より先に葉璃と撮られるなよ」
「アキラとハル君が週刊誌に載るかもしれないのかぁ。 いっそセナとハル君の交際の目眩しに、アキラと付き合ってる事にしたらいいんじゃない? 女の子だって思われてるならいいアイデアだと思うけどなー」
「………………」
密着した体から聖南の戸惑いが伝わってきたけど、ケイタさんの呑気な呟きでそれがちょっと怒りに変わったみたいだった。
俺は冷めてしまった鍋物を取ろうと身を捩って聖南から抜け出そうとしたのに、ぎゅっと抱かれてそれは無理そうだ。
ケイタさんがアキラさんに事の顛末を根掘り葉掘り聞いてるのを横目に、聖南は後ろから俺の顔を覗き込んでくる。
「俺じゃねぇ匂いがする」
きっとそれはアキラさんの香水の事を言ってるんだろう。
小声でそう耳元で囁かれて、脇に逸れたと思ってたヤキモチがまだ続行中だったことを知って苦笑した。
「…………マフラー借りてたから、ですかね……?」
「かもな。 ……そろそろ帰るか」
ありがとな、と聖南は神妙な面持ちでアキラさんとケイタさんに告げると、濃厚でとても贅沢だった食事会はお開きとなった。
アキラさんとケイタさんの高級車が駐車場を出て行くまで、俺はお見送りしたいと聖南に我儘を言う。 すると聖南じゃなく二人に「そんなのいいから早く車に乗れ」って気遣われてしまった。
さっき散歩してた時も思ったけど、夜中はほんとに冷える。
体を縮こませて両手を擦り合わせ、いかにも寒そうに見送られても確かにいい気分じゃないよね。
「葉璃、……かわいーの垂れ流しやめろ」
「何ですか、それ」
「アキラめ……俺より先に葉璃と撮られやがって」
……まだそれ言ってるの。 聖南ってばいつまでヤキモチ引き摺るつもりなんだろ。
ヤキモチ焼かれるのは嫌いじゃないしくすぐったいんだけど、今日は特にしつこい気がする。 ……当然といえば当然なのかもしれないけど。
「ちょっと走るから寝てていいよ。 魔の一時だろ」
「…………?」
「葉璃は一時過ぎたら目をゴシゴシしだすんだよな。 起きてられなーい、眠いよーって」
「え、あっ……」
「な?」
聖南の車の助手席に乗り込むと、しっかりとした上質なシートが一気に眠気を誘って無意識に目を擦っていた。
時間を確認してみると、……もうすぐ深夜一時。
フッと笑った聖南はヤキモチを引き摺ってるように見えない。
眼鏡を掛けてキリッと前を見据える横顔は、眠気がピークな俺でも惚れ惚れするほどカッコいい。
「じゃあ、……ちょっとだけ……」
頷いた聖南から頭を撫でられると、まったくの無意識で目を擦ってしまう。
帰ったら、聖南をいっぱい抱き締めてあげたい。 ううん、絶対に抱き締めてあげるんだ。
俺には重た過ぎる色々な感情を抱えた聖南に、果たして俺のハグが聖南を元気にする効果があるのかは分からないけど……。
今日は朝からレッスンで、夕方以降は本当に怒涛のように色々あった。
とにかく俺も疲れた。 ほんとに。
……眠たくてたまらない。
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