必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 思い出すとまたうるうるしてきた。

 泣いてるのがバレないようにマフラーに顔を埋めると、アキラさんはそれを見透かしたように背中を優しく撫でてくれる。


「ハルは良い子だな。 ……マジで、セナの事頼んだぞ。 あの猛獣の相手は色んな意味で大変だろうけど。 疲れたら、たまに俺とケイタに託していいから」
「はい。 ……でも疲れる前に、何とかします。 聖南さんは俺にとっても大切な人ですもん。 もう、……傷付けたくないです」
「よしよし」


 アキラさんは初めて会った時から、この特殊と言っていい俺と聖南の関係を認めてくれて、応援してくれている。

 俺が男だって知っても、偏見もしないで優しく見守ってくれている。

 随所に見られる聖南の俺への愛情の掛け方で疑いようもないからなのか、こうして俺たちの仲を後押しするような事をたくさん言ってくれた。

 それがどれだけ勇気付けてくれてるか、きっとアキラさんは分かっててやってるんだと思うから、すごく頭が良くて優しい人だと思う。

 聖南の周りの人たちは、本当にいい人ばかり。

 あんまりテレビを見ずに青春時代を終えようとしていた俺にとっては、世の常というものもよく分かっていない。

 だから世間は怖い事だらけだと思い込んでた。 小さな揉め事とか悪事がいっぱいあって、見聞きしたくない事がありふれてる、って。

 俺のこんな思いも、いつの間にかポロポロとアキラさんに話してしまっていた。

 こんなにも雰囲気のある静かな場所に居ると、二度とこの林の中から抜け出せないような恐怖を感じてもおかしくなかったのに、アキラさんはずっと俺が不安を覚えないように体のどこかに触れてくれていた。

 腕時計をチラッと見たアキラさんが「そろそろいいかな」と立ち上がるまで、俺はまたしても人生相談に乗ってもらい晴れ晴れとした気持ちだ。

「あ、ハル待て」

 俺が立ち上がったと同時に、アキラさんが何かを察知してマフラーを目元まで上げてきた。

 ……な、何も見えない。


「ど、どうしたんですか?」


 急に視界が真っ暗になってオロオロしていると、───。


「撮られたかも」


 アキラさんに手のひらを取られて、さっきみたいに握られる。

 さすがの俺も、「撮られた」の意味くらい分かった。


「えっ!? ほ、ほんとですか!?」
「フラッシュきたから、……多分そうだろ」
「と、と撮られたって……何を撮るんですか……っ?」
「俺とハル」
「……………っっ!?」


 俺達が撮られてしまった事もだけど、まさかこんな所にマスコミが居るとは想像もしてなかった。

 まぁでも、CROWN三人揃って出掛けてたらそりゃ目立つよね……。

 マスコミが追ってきてたなんて全然気付かなかったけど、ラジオ終わりに三人で出掛ける様子さえ記事になるCROWNの人気はやっぱりすごいって事だ。


「ハル、そのままマフラー目元ギリギリで押さえとける? 後ろ結んでやる」
「はい。 大丈夫です。 このまま手引っ張ってくれたらありがたいです」
「当たり前だろ。 離さねぇし、ゆっくり歩くから。 ま、記事が出たらその時はその時だ」


 どうやらかなり遠くからのフラッシュだったらしく、辺りには俺達以外に人気は無かった。 アキラさんもこんな事は日常茶飯事みたいであんまり気にしてないし、何より……。


「ていうか、俺男だしCROWNの後輩にあたるし、撮られても平気じゃないですか?」


 足元がおぼつかないから、来た時同様俺の手を引いてくれてるアキラさんにそう言うと、何故か苦笑が返ってきた。


「男に見えてたらいいけどね」
「……アキラさんまで俺をからかってます?」
「そうだと良かったよ。 ……ハルもセナの扱い大変だろうけど、セナもハル相手じゃ大変だな~」
「え? 何ですか?」
「いやなんでもない。 独り言。 あ、見えてきたぞ。 足元気を付けてな。 もうさすがにエッチな話は終わってるだろ」
「……だといいですけどね……」


 俺を抱き上げんばかりに力強く腕を引いてくれたアキラさんと、少しだけ急ぎ足で庭園を抜けた。

 俺には場違いだと改めて思い直すほど立派な料亭に戻ってくると、今まで薄暗い場所に居たからか目の前がパァッと明るかった。



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