必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 分かってた事だけど、三人の見えない絆は俺には計り知れないほど強く結び付いていて、具体的な昔話なんてしていないのに三人はしばらく沈黙していた。

 まるで今までの時間がみんなの頭の中で走馬灯のように駆けめぐってるみたいに、長い長い沈黙だった。

 その静寂を切ったのは、この場にはあんまり似つかわしくない聖南の含み笑いだ。


「……葉璃と出会えた事も、アキラとケイタとこうしてられんのも、父親と母親が俺を作ったからなんだよな」
「…………聖南さん……」
「今はまだ、父親を許すも許さねぇもない次元にいるけど、いつかは感謝する日が来んのかも。 俺生きてて良かったって今すでに思えてるし」


 再び箸を持って料理を食べ始めた聖南を、アキラさんとケイタさんは複雑な表情で見詰めている。

 聖南の葛藤が手に取るように分かるから、二人もどんな言葉を言うのが正解なのか、分かりかねてるみたいだった。

 だけどアキラさんとケイタさんは、少しだけ間を置いて同時に箸を取り、何気なく食事を始めた。


「セナは今まで通りでいいんじゃないの。 親父さんとの事で悩むなんて、昔から変わんないじゃん」
「感謝するもしないも、その前にセナと親父さんの間にそこまでの思い出がねぇんだから、悩んだって一緒だと思う」
「そーなんだよ。 葉璃が全部俺の気持ち言ってくれて超ーースッキリしてるし、今はそれで十分っつーか。 これきっかけで父親と俺の何かが変わるとかもねぇじゃん? ゼロにゼロ掛けたって一緒だよな」
「それをハルが気付かせてくれたって事だな」


 え、……俺そこまで深く考えてなかったよ。

 ただ、あまりに淡々と聖南に取り繕おうとしてたお父さんに腹が立って、怒りに任せただけだ。

 小さかった頃の聖南の気持ちなんて、とても俺には分かってあげられない。

 俺の大事な人を何度も何度も傷付けた事だけが本当に許せなくて……まさに後先考えずに動いてしまったから、今少しだけ後悔してるんだ。


「あ~~ハル君の激怒見たかったなぁ~」
「すげかったよ。 キレてる時の顔は俺も見れなかったけどな。 かわいく怒鳴ってた。 なっ?」
「えっ……?」


 あ、あれ、……何でまた俺が怒鳴った話に戻ってるの……?

 三人の絆を見てホロッとして、いい感じで話は終わりそうだったっていうのに。 ヤンチャな笑顔を浮かべた聖南が俺に同意を求めてきた。


「な、何度も言いますけど、怒鳴ってないですってば!」
「怒鳴ってはないけどブチ切れたんだよなー、ハル君?」


 ケイタさんにもヤンチャに微笑まれた俺は、「だーかーらー、違いますって!」と言い返したい気持ちをググっと堪えて、口には出さなかった。


 むぅ、とほっぺたを膨らませてると、ケイタさんにまで「可愛い」と言われてギョッとなった。 ここのお兄さん達は、俺が何をやっても微笑んでくる。

 何だかいつも以上に甲斐甲斐しい聖南に箸を持たされて困惑していると、アキラさんからふいに見詰められた。


「……ハル。 セナを頼むな。 でも、ちょっとでも嫌な事されたらすぐ言ってこいよ。 ぶん殴ってやるから」
「俺が葉璃に嫌な事なんかしねぇよ」
「分かんねぇじゃん。 セナすぐに盛るし」
「はぁ? それは嫌がってねぇだろ。 ……え、葉璃、嫌がってんの?」
「…………っっ」


 自信満々だった聖南が箸を止めて俺を凝視してきた。

 いやいや、そんな……二人の前でなんて答えたらいいの。

 さっきアキラさんと俺が一緒に居たのを知ってるからか、聖南は何やら疑いの目で見てきて怖い。 俺がアキラさんに何かそれらしい事を打ち明けたとでも思ってるのかな。

 こんなプライベートな事、誰にも話すわけないよ。


「嫌がってないですって。 ……長いのは勘弁してほしいけど……」


 俺は、きのこの炊き込みご飯を茶碗によそいながら苦笑した。

 美味しそうな香りとほかほかな湯気が宙に舞い、小さなしゃもじ片手に「美味しそー」と呟く。

 喉を通るか心配だったけど、空腹には勝てなかった俺は意外にもみんなより食が進んでいる。


「長い? 何が?」
「え!? あ、い、いや……何でも……」


 ほんとにちっちゃく漏らした本音を聞き逃さなかったケイタさんが、身を乗り出してくる。 ケイタさんの耳は地獄耳だったらしい。

 ご飯を口に運ぼうとした瞬間に興味津々な瞳を向けられた俺は、気まずさのあまりそのままフリーズした。


「あー、葉璃いつも文句言ってるよな。 んな長いか?」
「ふふふふ……っ、だから長いって何が?」



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