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しおりを挟む「あなたに聖南さんの気持ちなんか一生分からない! 大きくなったからって、今までの事を水に流せると思ってたんですか!? そんな事あるはずないでしょう! 聖南さんは毎日毎日泣いています! 涙は見せなくても、心の中でずっと、ずっと、泣いています! あなたから見放されたって気付く前から、聖南さんは孤独に涙していたんです! どれだけ聖南さんを悲しませたら気が済むんですか! 俺はあなたを許しません! たとえ聖南さんがあなたを許す日が来ても、いや、そんな日は来ないと思うけど、俺は生きてる限り絶対にあなたを許さない! 失礼します! お、お、お邪魔しました!!」
捲し立てるだけ捲し立てた葉璃は勢い良く襖を開き、しゃがむ聖南には気付かずに興奮醒めやらぬまま真っ直ぐ出口の方へ向かって行ってしまった。
「……フッ……」
高校生に好き勝手怒鳴られ、今まさに呆然としているであろう社長と父親の姿を想像すると、思わず笑みが溢れてしまう。
あれだけ他人を嫌う葉璃が、聖南のために感情を露わにして息巻いたのだ。
悲しかった事も、寂しかった事も、泣きたくなるほどの喪失感も、この瞬間に立ち消えた。
「嬉しいねー」
葉璃を追い掛けようと立ち上がった聖南の胸中は、見事に爽快だった。
聖南を思うあまり、聖南が居なくなった途端あちらへ乗り込んだ葉璃の勇気と愛に感激して、それこそ涙が出そうになった。
大事な人が傷付いている。 心で泣いている。
葉璃はきっといても立ってもいられなくなったのだ。
全て聞いていたからには、聖南の寂しげな告白を受けてしまったからには、一言言ってやらねば気が済まない。 そう思って動いてくれたのだ。
嬉しくないはずがなかった。
「死ぬまで、とことん愛してやるからな、葉璃……」
目頭が熱くなりかけたが、やはりここは涙は流すまいと我慢した。
感動に浸っている暇はない。
早く追い掛けなくては、怒りのままに料亭を飛び出した方向音痴な愛しいあの子が、また迷子になってしまう。
「……幸せだ……」
聖南の心の冷たい場所から、温かい泉が次々と湧き出している。
時間が経って冷水になる間もないほど、それは絶え間ない。
「葉璃」
料亭の門を潜る直前だった葉璃の後ろ姿を見付けた聖南は、その背中めがけて走り寄ると素早く腕を引き、物陰に彼を連れ込んだ。
「わっ、ビックリしたー……! 聖南さん……っ?」
「ありがとな」
背後から小さな葉璃を包み込むと、耳元に口付けながらさらに腕に力を込めた。
まだ興奮気味だった葉璃が、聖南のその一言にじわじわと振り返る。
「もしかして……さっきの聞いてました……?」
「バッチリ聞いてた。 全部」
「うわぁぁ……」
聖南が聞いていたと知るなり、葉璃は呻いて脱力し、するすると腕から逃れてしゃがみ込んでしまう。
どうしたんだと聖南もしゃがむと、可愛い瞳でチラと聖南を窺ってきてドキッとした。 こんな状況にも関わらず、やはり聖南は葉璃のこの瞳が好きだと思った。
「ごめんなさいっ! 俺、あんな……あんなことを……! 聖南さんのお父さんに、……!」
「あぁ、それでそんななってんの?」
「はい、……だって、いくら腹が立ったからって、今考えると俺なんて事言っちゃったんだろって……」
ごめんなさい……と、もう一度しょんぼりして謝ってきたが、聖南は謝罪など受けたくなかった。
葉璃のあの怒りの言葉達に、聖南はこれまでの人生すべてが報われたのだ。
聖南を思い、自分の事のように苦しみを分かってくれたのが、聖南が生まれて初めて恋した葉璃だ。
大好きな人が自分を分かってくれているのなら、それで充分だと思えたのだ。
「……おいで。 キスしてぇから車行こ」
「えっ、ちょっ……!」
誰が見聞きしているか分からないこんな場所でのストレートな言葉に、葉璃は別のドキドキを抱えて聖南の掌を握り返した。
きゅっと握ってきた掌の温かさに、聖南は知らず微笑む。
確かに自分は不遇な子ども時代を過ごしたかもしれない。 だが未来にはこんなにも愛する人を見付ける事が出来る。 しかもその愛すべき者から、離れないと断言してもらえて、何より……愛してもらえる。
寂しく泣いていた過去の自分に教えてやりたいと思った。
愛情を知らないからと言って、自らの心に愛が無いわけではない。
信じられないかもしれないけれど、きちんと与えられる愛を持っている。
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