304 / 541
46❥
46❥9
しおりを挟む「あなたに聖南さんの気持ちなんか一生分からない! 大きくなったからって、今までの事を水に流せると思ってたんですか!? そんな事あるはずないでしょう! 聖南さんは毎日毎日泣いています! 涙は見せなくても、心の中でずっと、ずっと、泣いています! あなたから見放されたって気付く前から、聖南さんは孤独に涙していたんです! どれだけ聖南さんを悲しませたら気が済むんですか! 俺はあなたを許しません! たとえ聖南さんがあなたを許す日が来ても、いや、そんな日は来ないと思うけど、俺は生きてる限り絶対にあなたを許さない! 失礼します! お、お、お邪魔しました!!」
捲し立てるだけ捲し立てた葉璃は勢い良く襖を開き、しゃがむ聖南には気付かずに興奮醒めやらぬまま真っ直ぐ出口の方へ向かって行ってしまった。
「……フッ……」
高校生に好き勝手怒鳴られ、今まさに呆然としているであろう社長と父親の姿を想像すると、思わず笑みが溢れてしまう。
あれだけ他人を嫌う葉璃が、聖南のために感情を露わにして息巻いたのだ。
悲しかった事も、寂しかった事も、泣きたくなるほどの喪失感も、この瞬間に立ち消えた。
「嬉しいねー」
葉璃を追い掛けようと立ち上がった聖南の胸中は、見事に爽快だった。
聖南を思うあまり、聖南が居なくなった途端あちらへ乗り込んだ葉璃の勇気と愛に感激して、それこそ涙が出そうになった。
大事な人が傷付いている。 心で泣いている。
葉璃はきっといても立ってもいられなくなったのだ。
全て聞いていたからには、聖南の寂しげな告白を受けてしまったからには、一言言ってやらねば気が済まない。 そう思って動いてくれたのだ。
嬉しくないはずがなかった。
「死ぬまで、とことん愛してやるからな、葉璃……」
目頭が熱くなりかけたが、やはりここは涙は流すまいと我慢した。
感動に浸っている暇はない。
早く追い掛けなくては、怒りのままに料亭を飛び出した方向音痴な愛しいあの子が、また迷子になってしまう。
「……幸せだ……」
聖南の心の冷たい場所から、温かい泉が次々と湧き出している。
時間が経って冷水になる間もないほど、それは絶え間ない。
「葉璃」
料亭の門を潜る直前だった葉璃の後ろ姿を見付けた聖南は、その背中めがけて走り寄ると素早く腕を引き、物陰に彼を連れ込んだ。
「わっ、ビックリしたー……! 聖南さん……っ?」
「ありがとな」
背後から小さな葉璃を包み込むと、耳元に口付けながらさらに腕に力を込めた。
まだ興奮気味だった葉璃が、聖南のその一言にじわじわと振り返る。
「もしかして……さっきの聞いてました……?」
「バッチリ聞いてた。 全部」
「うわぁぁ……」
聖南が聞いていたと知るなり、葉璃は呻いて脱力し、するすると腕から逃れてしゃがみ込んでしまう。
どうしたんだと聖南もしゃがむと、可愛い瞳でチラと聖南を窺ってきてドキッとした。 こんな状況にも関わらず、やはり聖南は葉璃のこの瞳が好きだと思った。
「ごめんなさいっ! 俺、あんな……あんなことを……! 聖南さんのお父さんに、……!」
「あぁ、それでそんななってんの?」
「はい、……だって、いくら腹が立ったからって、今考えると俺なんて事言っちゃったんだろって……」
ごめんなさい……と、もう一度しょんぼりして謝ってきたが、聖南は謝罪など受けたくなかった。
葉璃のあの怒りの言葉達に、聖南はこれまでの人生すべてが報われたのだ。
聖南を思い、自分の事のように苦しみを分かってくれたのが、聖南が生まれて初めて恋した葉璃だ。
大好きな人が自分を分かってくれているのなら、それで充分だと思えたのだ。
「……おいで。 キスしてぇから車行こ」
「えっ、ちょっ……!」
誰が見聞きしているか分からないこんな場所でのストレートな言葉に、葉璃は別のドキドキを抱えて聖南の掌を握り返した。
きゅっと握ってきた掌の温かさに、聖南は知らず微笑む。
確かに自分は不遇な子ども時代を過ごしたかもしれない。 だが未来にはこんなにも愛する人を見付ける事が出来る。 しかもその愛すべき者から、離れないと断言してもらえて、何より……愛してもらえる。
寂しく泣いていた過去の自分に教えてやりたいと思った。
愛情を知らないからと言って、自らの心に愛が無いわけではない。
信じられないかもしれないけれど、きちんと与えられる愛を持っている。
13
お気に入りに追加
323
あなたにおすすめの小説

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。


不夜島の少年~兵士と高級男娼の七日間~
四葉 翠花
BL
外界から隔離された巨大な高級娼館、不夜島。
ごく平凡な一介の兵士に与えられた褒賞はその島への通行手形だった。そこで毒花のような美しい少年と出会う。
高級男娼である少年に何故か拉致されてしまい、次第に惹かれていくが……。
※以前ムーンライトノベルズにて掲載していた作品を手直ししたものです(ムーンライトノベルズ削除済み)
■ミゼアスの過去編『きみを待つ』が別にあります(下にリンクがあります)

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。

エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。
かとらり。
BL
セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。
オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。
それは……重度の被虐趣味だ。
虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。
だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?
そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。
ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる