296 / 541
46❥
46❥
しおりを挟む「おろせっ、このやろバカヤロどアホ……ぐへっ! いきなり下ろすなあっ」
いきなりぽすんと放り出されたのは、リョウマのベッドの上だった。魔王が片手をひょいと振るだけで、側付きの者たちは潮が引くように外へ出ていく。
「下ろせと申したり、下ろすなと申したり。そなた一体、私にどうして欲しいのだ」
「べっ、べつにどうもして欲しくねえっ」
叫びながらがばっと上体を起こした時にはもう、すぐ隣に座りこまれてひょいと顎に手を掛けられていた。
「そう言えば、もうそろそろ致さねばならぬ頃合いだな」
「ほえっ? な、なにをだよ……」
「とぼけるでない。体液の交換よ。そろそろしておかねば、そなたが困ることになるやもしれぬ」
「うっ……」
軽く顎を上げられてみれば、すぐ目の前に魔王の端正な顔があった。リョウマは思わずごくりと喉を鳴らし、口を一文字に噛みしめる。ぎゅっと睨みつけたら、魔王は意外にもやや落胆の色を見せた。
「心配せずともよい。『無理強いはせぬ』と申したではないか」
そう言っていながら、一向にリョウマのそばを離れる様子も、顎を放す様子もない。リョウマはさらにむうっとふくれっ面を作った。
「……だったら放せよ。あっちいけ」
「断る」
「っんだよ、それ!」
「なんなのだろうな? それは私も訊きたいよ。そなたにこそな」
「は……?」
魔王はふっとかすかに微笑むと、リョウマの頬をほんのわずかに触れる程度に撫でた。
「そなたがまことに『イヤだ』と申しておるのならば否やはない。そなたの思う通りにしよう。私が約束を違えることなどあり得ぬ。そこは信じてもらいたい。……しかし、本当にイヤなのか?」
「な、なに?」
「気づいておらぬと思ったか」
「え──」
ぐっと魔王の顔が近づいてきて、リョウマは目を見開いた。一瞬、思わず呼吸が止まる。
「普通、人は嫌悪する相手に非常に強く、攻撃的な凄まじい《気》を放つものだ。だが、今のそなたからは、そういう《気》をほとんど感じぬ。このところは特にな」
「な……なにを言って──」
「拒絶する気があるのなら、もっと抵抗するものではないか? いや抵抗どころではないな。これほど近くに不倶戴天の敵がおるのだぞ。大暴れをし、あるいは悪だくみをして、私の隙をつき命を取ろうとしたとて、なんの不思議もない。そなたは外ならぬ私の仇敵、あの《戦隊レッド》なのだから」
「う……」
そこは返す言葉もない。誰よりもリョウマ自身が、自分の大きな変化に戸惑っているのだから。
だが、今の自分はもうこの男を心底から憎めなくなっている。
本当は認めたくなかった。そうしていられるものなら、このままずっと目を逸らしつづけていたかった。けれど、真正面からこの男に真面目な顔で問い詰めてこられては、もう自分自身にもごまかしは効かなかった。
事実を突きつけられる。
誰よりも、自分自身の心がそう突きつけてくる。
(俺、は……)
そんなことでいいのか。いや、いいはずがない。
自分は《BLレッド》だ。《BLレンジャー》のリーダーだ。そんなことは許されない。あってはならないことなのだ──。
リョウマはぎゅっと目をつぶってうつむいた。意識していたわけではないが、その頭がすぐ目の前の魔王の胸元にとん、と当たる。
「俺……サイテーだ」
「そんなことはない」
大きな手が自分の背中を優しくさすっているのに気づいたら、あっという間に涙腺が危なくなった。それを堪えようとしたら、今度はひどく声が掠れた。
「こんなバカなことあるか? アホだろ俺。なにやってんだ、だって俺は」
「そなたがなんでも、同じことだ。そなたは何も悪くない。ただ心が広いだけだ」
「なわけねえっつうんだようっ」
片手で目元を覆ってうなだれ、黙り込む。うっかりすると嗚咽が漏れ出てしまいそうで、必死で歯を食いしばった。
「……リョウマ」
「…………」
「もう一度、訊ねてもよいか」
リョウマは答えない。いや、答えることができなかった。嗚咽をせき止めた喉は詰まって、もう声なんて出せなかったから。
魔王の両腕が、リョウマの背中をそっと抱き寄せるのを感じた。ひどく優しくて、温かい腕だった。
「そなたと口づけがしたい。……ダメだろうか」
12
お気に入りに追加
323
あなたにおすすめの小説

推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです
一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお)
同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。
時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。
僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。
本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。
だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。
なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。
「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」
ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。
僕の推しは俳優の、葛城 結斗(Iかつらぎ ゆうと)くんだ。
その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。
悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。
え?葛城くんが目の前に!?
どうしよう、人生最大のピンチだ!!
✤✤
「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。
全年齢向けの作品となっています。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結】嘘はBLの始まり
紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。
突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった!
衝撃のBLドラマと現実が同時進行!
俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡
※番外編を追加しました!(1/3)
4話追加しますのでよろしくお願いします。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる