必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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… … …


 CROWNのダンスは、いかにも三人が簡単そうに踊るから勘違いされやすいけど、実はかなり複雑に練られている。

 デビュー時からすべての曲でケイタさんが振り付けを考えてるらしいけど、これは短期間でサラッとなんてとても覚えられない。

 memoryみたいな女の子グループのダンスはメリハリがあって同じ動きも多いから、俺が春香の影武者をした時は何とか短時間で覚えられたけど、CROWNのダンスはまたちょっと違う。

 リリカルヒップホップだって聖南が言ってたっけ……正直、それを初めて耳にした俺には何のこっちゃ分からない。

 ただただ一つ一つの動きを正確に体に叩き込んでいくしかなくて、体が覚えてしまった後でもスムーズに踊れるようにまでめちゃくちゃ時間がかかりそうだ。


「葉璃が苦戦してるのに、俺がすんなり踊れるわけないよね……」


 レッスン終わりに制服へ着替えをしていた恭也が、しょんぼりと肩を落とした。

 このダンスレッスンが始まってもう一週間が経つけど、センスがいいって褒められてた俺ですらまだ四苦八苦中だ。

 恭也が受けていたレッスンでは、ボイストレーニングと芝居が主だったらしいから当然だし、何よりCROWNのダンスはほんとに難しい。


「だって難しいもん。 しょうがないよ。 恭也は背が高いからこのダンスの見栄えいいよね、いいなぁ」
「また、そんなこと言ってる。 ……葉璃、成長痛は、もうないの?」


 しつこいまでに俺が恭也との身長差を気にしてるから、恭也はちょっとだけ笑顔に戻って鞄を肩に掛けた。


「ないよ、ない。 たった三センチのための成長痛だったんだって思ったらムカつくよぉ~」


 俺も鞄を手に恭也の隣に並んで、レッスン講師に「お疲れ様でした」と挨拶をした。

 スクールと併設された事務所へは、一度外に出なくても中から行き来出来る。


「いいじゃない。 伸びた事に、変わりはないんだから。 葉璃が、セナさんくらい伸びちゃったら、俺も困るよ」
「何で困るんだよー」


 せっかくあんなに痛くて大変だったんだから、もっとガッツリ伸びても良さそうなもんなのに……何なの、三センチって。

 恭也が言うように伸びてる事に違いないけど、全然喜べない。


「葉璃を、見上げる事になるなんて、嫌だよ。 この感じが、いいのに」
「俺は見下ろしてみたいんだ! 俺の周りの大人達みんな大きいから、囲まれたら俺の姿見えなくなるんだよ? あれすごく変な感じなんだもんっ」
「それがいい。 囲まれて、ドキドキしてる葉璃、好き」


 男として長身が良いって思うのは当然なのに、恭也が真っ直ぐな瞳でそんな事を言うから俺が単に駄々こねてるだけみたいだ。

 俺はせめて、恭也くらいは背が欲しかったよ。

 聖南とキスしてたあのHottiのモデルさんは、スラッとしてて背も高そうだったから余計にお似合いに見えた気がした。

 それだけで、勝手な敗北感を味わったんだ。

 俺を抱き締めてくれる時、聖南は背中を丸めるようにすっぽり包んでくるから、やりにくそうだなっていつも思ってる。

 俺があと少し……十センチは高ければ、聖南といい感じで並べそうなのに。

 いや、……ていうか聖南が高過ぎるんだよね。 百八十六センチなんて、俺と何センチ差なんだって話だ。


「うーー……」
「何唸ってんの?」




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