必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 聖南の仕事用のスマホが鳴りっぱなしだ。

 運転しながら律儀に対応してるのはさすがと言うべきだけど、聖南は誰に何を聞かれても「恋人がいる」というラジオで話してた事実しか言わない。

 問い詰められてる風だけど、聞きたい事が何も聞けない相手からの追及をのらりくらりと交して「お疲れーっす」と締め括る。

 運転中から聖南の家に帰ってきてもずっと電話してるからか、俺に右手でゴメンのポーズをしながら聖南はコーヒーを淹れ始めた。

 俺はその申し訳無さげなゴメンがちょっと気に入ったから、気にしないでという思いを込めて微笑んでやり、まだまだ電話は終わらない聖南を横目に先にシャワーを浴びさせてもらった。

 バスルームには俺のパジャマ用の聖南のパーカーが五枚くらいタオルの横に畳んで直されていて、いつ俺がこの家に来てもいいように支度をしてくれてる事がちょっと嬉しい。


「でもこれスースーするんだよね……」


 暖房も床暖もあるから冷えはしないけど、まるで女の子のワンピースみたいだからあんまり着馴れない。

 聖南が俺のパーカー姿をいたく気に入ってるみたいで、ここに来る度に色違いが増えていって、今やクローゼットにも予備がある。

 ま、温かいからいいんだけど。

 今日は落ち着いた朱色のパーカーを着てリビングに戻ると、まだ聖南はキッチンでコーヒーを淹れながら電話中だった。

 ソファに落ち着いてスマホをイジっていると、聖南のコーヒーと同時進行で作ってくれてたのか、俺には紅茶を手渡してくれた。


「(ありがと)」


 口パクでお礼を言い、まだ新しい湯気の立つそれに息を吹きかけ、香りを楽しむ。
 
 いいにおい。

 この間はアプリコットティーだったけど、今日は何だかもう少し甘い香りだ。

 猫舌の俺は恐る恐る一口目を頂いた。


「……んー♡」


 鼻に抜ける甘い香りがりんごの風味だと分かって、思わず溜め息が漏れた。

 電話中の聖南が隣に座ってるから、すごく控え目にだ。

 俺の満足そうな顔に聖南も嬉しそうで、電話の相手におざなりに返事をしながら頭をヨシヨシと撫でてくれた。

 アップルティーを楽しみながらふと聖南を見ると、大人なブラックコーヒーを相変わらず飲んでいる。

 ハンズフリーのイヤホンだから両手が自由なのをいい事に、俺の肩を抱いてグッと引き寄せられた。

 手にしたアップルティーがカップの中で僅かに波打ってヒヤヒヤしていると、電話中にも関わらず触れるだけのキスを落としてきて、俺の驚いた顔を見て笑顔を見せている。

 何やってんですかって言いたくても、まだ会話は続いてるから俺は押し黙るしかない。


「そっすね。  ……はい、……はい、まぁ。  ……それは来年じゃないと厳しいっす。  ……はい……」


 視線だけで抗議すると、聖南はふっと笑って電話の相手に逃げた。

 アップルティーに口を付けながら、間近の聖南を盗み見る。

 俺の成長痛を心配してわざわざアキラさん達と病院に来た時に思わず見惚れてしまったんだけど、聖南は新曲の発売と同時にまた少し髪型と髪色が変わった。

 出会った頃の金髪ロン毛が嘘のように、現在は短めのウルフカットで毛先を遊ばせていて、今回は前回よりも明るめの赤系を入れている。

 聖南はどんな髪型でも似合うけど、俺は今のが一番似合っていると思う。

 あ、でも、海賊コスの長髪もなかなかカッコよかった。

 どれが一番か、なんて、やっぱり決められないかも。

 なんて独りで惚気て照れ臭くなり、身の置き場がなくて聖南にジリジリっと体を押し付けた。



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