必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 深く沈み込むタイプのソファは、座り心地はいいけど一度座ると立ち上がるのが億劫だ。

 一度だけ飲み物を買いに会議室を出て、俺は無意識に唇を尖らせてまた沈んだ。

 こっそり欠かさず聴いてるCROWNの冠ラジオ。

 CROWNの曲も、他のアーティストの曲も流しながら、リスナーさんからのメッセージを三人で読んで会話を広げていく。

 アキラさんとケイタさんは気持ち抑えめなのに対し、聖南はほんとに普段と変わらない口調で、まるで聴いてる俺に話し掛けてきてるみたいな錯覚をいつも覚える。

 きっと聴いてる人達も、似たような感覚に陥っているはず。


『セナー触れずにはいられないくらいめちゃくちゃメッセージ貰ってる話題あんだけど、これ読んでいい?』


 番組も中盤に差し掛かった頃だった。

 話題のアーティストの曲終わりに、ケイタさんが、なぁなぁと聖南に話を振る。


『何、どれ?  …………構わねぇよ』
『ラジオで沈黙しないで下さーい』
『アキラうるせぇ』
『ちょっと二人とも黙っててよ。  えーっと、ラジオネーム、セナも好きだけどアキラ推し、さん……他多数の方からメッセージ頂いてまーす。  ありがとうございまーす』
『え、待って。  それ俺推しなの?  アキラ推しなの?』
『俺推しって書いてあんじゃん』
『なんだよ、紛らわしいな。  次送ってくる時は「やっぱセナ推しで」に変更な』
『やめろよ。  んな事言うと余計に推してもらえなくなるぞ』


 いつもの掛け合いが面白くて、俺は飲んでいた烏龍茶を吹き出しそうになって危なかった。

 聖南は相変わらずだ。

 ちゃんと、仕事してる。


『二人ともシーッ!  読むよ?  ……今月のHotti色っぽくて最高でした。  何度もツーショットでの撮影のようですが、お二人は付き合ってるんですか?  だそうです、セナ』
『これ今日一番多いよな、メッセージ』
『Hotti発売日だからね。  セナー答えてあげてくださーい』


 ケイタさんが読み上げて、それにアキラさんが返答しているのを聴くと、知らず肩に力が入ってしまう。

 今度は違う意味で烏龍茶を吹き出しそうだった。

 でもそっか……俺だけじゃなく、やっぱり世間の反響も凄い事になってるみたいだ。

 聖南がなんと答えるのか、俺もリスナーさんもドキドキで待つその間、数秒。

 返答を求められた聖南はなんの迷いも無く、驚くべき一言を放った。



『付き合ってねぇよ。  俺恋人いるし』



 ────え、っっ!? 聖南さんっ!?

 俺は思わず、ソファに沈み込んだ体を起こして絶句した。

 その場に居た一同、聴いているファンの子達、そして間違いなく俺も、みんな一斉に言葉を失ったに違いない。


『……なっ!? ちょっ、セナ!』
『……お前……っ!』
『言っといた方がいいだろ?  誤解されるくらいならさ』


 いや、いや、いやいやいやいや、ちょっと待ってよ、待って。

 聖南、何言ってるの……!?

 こんな公の場で、ラジオとは言えファンの子達が喜び勇んで聴いてるっていうのに、聖南の一言に俺は目を見開いた。

 アキラさんとケイタさんの唖然とした顔が目に浮かぶ。

 たちまちブース内が慌ただしくなった。


「聖南さんヤバイよ、そんな事言ったら……」


 まさかここで恋人居ます宣言をするとは思わなかったのか、アキラさんとケイタさんも息を呑んでいて、数秒沈黙が流れた。

 遠くに聴こえるBGMだけがその場を繕っている。

 ───こんな事、誰も予想していなかった。




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