必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 ラジオの収録現場にパンケーキを持って現れた葉璃を、アキラとケイタは笑いを交えながら快く迎えた。


「ハル、似合い過ぎ」
「それあそこのカフェのパンケーキでしょ?  美味いよねー!」


 前室も兼ねた小さな会議室で、打ち合わせを終えたCROWNの面々は本番までの時間をそこで過ごしていた。

 パンケーキを前に、大人しく「待て」状態で我慢していたらしい葉璃にワクワクした顔で見上げられたので、「食っていいよ」と笑いながら言ってやると、いそいそと広げ始める。

 ケイタもそれに食い付いているからか、葉璃は一口目をお裾分けしようとフォークを向けた。


「ケイタさん、食べますか?」
「……いや、やめとく。  隣で獣が見張ってる」
「獣?」


 遠慮されて一口頬張った葉璃が聖南を見たが、聖南はサングラスをしているのでどこを見ているのか分からないようだった。

 ただ、聖南の殺気立つ気配から葉璃も察したようで、何も言わずに黙々とパンケーキに夢中になっている。


「ん~♡  美味しー!」


 葉璃が喜ぶかなと思い、フルーツを全部乗せしてやった。 アイスは溶けてしまうので、生クリームを増し増しで。

 辛党の聖南はそれを美味そうだとはとても思えないけれど、葉璃の幸せそうな顔を見るともう一つ買って来ようかとさえ思う。


「美味そうに食うね~ハル君」
「ほんとだな。  もっと与えたくなる」


 モグモグ葉璃は見ている者を幸せにするようで、本番前のアキラとケイタもその様子を飽きる事なく凝視していた。

 いつの間にやら二人も葉璃を大層気に入っているので、この間も葉璃を心配して病院にまで付いて来たくらいだ。

 心を開くと途端に葉璃の可愛さがダダ漏れするのは、聖南にとってはなかなかの不安要素であるが。


「美味しかったー!  聖南さん、ごちそうさまでした!  俺トイレ行ってきます。  手がベタベタ」


 あっという間に食べ終わった葉璃は、きちんと分別までしてゴミ箱に放り、聖南達の視線にも気が付かずニコニコで会議室を出て行った。

 なぜフォークを使っていたのに手がベタベタになるんだと、小さな子どものように葉璃がパンケーキにがっついていた事を思い返し聖南達は笑ってしまった。


「ハルすご。  あの大きさのパンケーキを数分で食べきるなんて」
「葉璃ああ見えてめちゃくちゃ食うんだよ。さっき定食屋連れてってくれたんだけど、そこのご飯の盛りが尋常じゃなかった。  俺今もまだ苦しいってのに、葉璃はあれも完食だろ?  マジですげぇ」
「へぇ~よく食べるなんて可愛いじゃん。  ハル君の見た目だと意外性抜群だ」


 葉璃の食べっぷりに感心していたアキラとケイタは、あの小さな体のどこに入るんだろう、と話していて、やはり意外な事には変わりないらしい。

 聖南の反応は正しかった。


「…あ、おい、ちょい待て。  あれもしかしてHottiじゃねぇっ?」


 ラジオで読むメールやハガキに目を通していた聖南は、一つ向こうのデスクに良からぬものを発見して焦りまくり、慌ててサングラスを取った。


「ん?  あぁ、あれだろ、さっきセナ達来る前ケイタと話してたんだよ」
「そうだ、あれセナがモデルと……」
「いやいやいやいや、あれどっか見えないとこ置いといて!  葉璃の目に触れさせたくねぇ!」


 聖南の慌てっぷりを見たアキラが、確かにそうだなと呟いて立ち上がる。 けれど雑誌を手にしようとしたところで、葉璃がもう戻ってきてしまった。

 ガチャっという扉の開閉音が、聖南の心の「ギクッ」と重なって聞こえた。




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