必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 葉璃を想ってラブソング仕様にしたものを、作曲担当に大幅な改善を求められて仕上げた甲斐があった。

 作業が深夜にまで及んだ、聖南が刺されたあの事件の日の作品だ。


「そうなんですね。  今回の聴いて改めて思ったんですけど、セナさん、本当に歌うまいです。  羨ましいです」
「そんな事ねぇって。  歌なら恭也に負ける。  あ、ってか恭也、マネージャーからミュージカルの話聞いてねぇ?」
「え!  恭也、ミュージカル出るの!?」


 そういえば、恭也に薦めておいたミュージカルの話はどうなったのだろうかと、聖南はルームミラー越しに恭也を見る。

 驚いた葉璃が、肘置きに置いていた聖南の腕に手を乗せて、後部座席の恭也を振り返った。


『お、かわい……♡   葉璃の手あったけぇ』


 不意打ちで葉璃に触れられた事で、ハンドルを握る手に力が入る。


「お話、聞きましたよ。  仮の台本も、読ませてもらいました」
「おぉ、マジで?  じゃあやる気はある?」
「あれはセナさんがやるべきです」
「えぇ?  俺が無理だから恭也にと思ったんだけど」


 思わぬ返答に、葉璃はジーッと恭也を見詰めていて、聖南も前を気にしながらルームミラーをチラと覗う。

 自信が無くて……などと言おうもんなら怒る気満々だったのだが、恭也の表情はそれとは違うようだった。


「俺も少し、やってみようかな、と思いましたけど、あの台本は、セナさんのために書いてあるようなものです。  セナさん、台本読まれました?」
「いや、読んでねぇ……」
「お断りするの、台本読んでからでも、遅くないかと。  あ、俺ここでいいです。  彼女と落ち合うんで」


 恭也の自宅の最寄り駅まで来るとそう言われたので、ロータリーの停車スペースに停めると、恭也はお礼を言って車を降りた。


「ありがとうございました。  セナさん、明日俺達、レッスンお休みだからって、葉璃をゲッソリさせないでくださいね」


 じゃあな、と言うつもりで窓を開けると、恭也が嬉しい情報をくれた。


「明日レッスン休みなのか?」


 ついニヤけ顔で葉璃を振り返ると、「ははは…」と渇いた笑顔を向けられたので、ぷにっとほっぺたを摘んでおく。


「分かった。  ゲッソリさせない程度に可愛がるわ」
「よろしくお願いします。  それじゃ……」


 ペコ、と頭を下げて駅の方へ向かった恭也の視線の先に女性を見付けて、「彼女かな、あれ…」と葉璃も気になっている。

 いかにも恭也が選びそうな、清楚な美人だ。


「………………」
「恭也を取られたみたいで寂しい?  そんなムスッとしちゃって」


 あまり長居すると、彼女見たさだと思われてもいけないので、聖南は膨れた葉璃を笑いながらロータリーを進んだ。


「…………実際に取られましたもん。うーーっ、見たくなかったぁぁ」
「恭也は恭也で楽しくやってんだからいいじゃん。  友達なら温かく見守りましょうね、葉璃クン」
「無理ーー!  見守れないですよ……っ。 俺だけの恭也だったのに……」
「どんだけ恭也の事好きなんだよ。  マジで妬くぞ」


 ムスッとしたままの葉璃は、Hottiの存在を忘れてくれていそうで良かったものの、聖南にとっては穏やかではいられないほどの恭也愛に盛大なヤキモチを焼いた。

 わざとあのキスシーンを見せてやろうかと、意地悪な考えが浮かんでしまうほどだ。

 実際そんな事はしないけれど、葉璃のほっぺたの膨らみが恭也への愛故だと知ると、何とも複雑だった。



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