必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 年始に改めて言い伝えられていた会食の話からもうそんなに経っていたなど、日々が過ぎ去るのがとても早く感じる。

 嫌な事だからかすっかり忘れ去っていたが、その間にも聖南の頭を悩ます事柄が多かったせいで、今の今まで父親との会食の件を思い出しもしなかった。

 毎日の仕事に加え、新曲発売、ツアー段取りの指揮、作曲活動、葉璃とのあれこれ。

 生きる活力を見出した聖南にとって、人生で初めて、時間が足りないという感覚に陥っていた。

 そんな中での父親との対面。

 あえて避けて通ってきたのに、じわじわと痛みと切なさを伴う過去を振り返らなければならないその日は、聖南の心がどうなってしまうか想像もつかない。

 葉璃に一緒に来てもらえたらどれだけいいかと思いはするけれど、これは聖南個人の問題だ。

 その後を一緒に過ごしてほしいと言えはしても、同席が無理な事くらい分かっている。

 それでも葉璃に救いを求めてしまうのは、聖南の脆弱な部分を受け止めてくれているからこそだ。

 この事ばかりは、聖南は強気でいられない。

 父親と思わなければいい───そう分かってはいても、どんな顔をして会えばいいのか本当に分からない。

 たとえ仕事の上で会うのだとしても、冷静でいられる自信などこれっぽっちもなかった。


「あ、聖南さん」


 鬱々とした気持ちのまま事務所を出たところに、聖南の大好きな声がして振り返ると、レッスン終わりの葉璃と恭也が揃って立っていた。

 不思議と、葉璃の姿を見ると気分は浮上する。


「レッスン終わったか?  お疲れ、葉璃、恭也」
「お疲れ様です」
「お疲れ様です、聖南さん。  事務所に用事だったんですか?  ……あ、それHotti?」


『あ、ヤバ。  うっかりしてた』


 成田のデスクに置いて帰ろうとしていたのに、会食の話題で頭がいっぱいで手に持ったまま出て来てしまった。


「あぁ、そうそう。  恭也、送るから。  二人ともついて来い」


 なるべく葉璃にこれは見せないでおこうと、Hottiの話は深堀せずにすぐさま二人を聖南の車に乗り込ませた。

 遠慮がちな恭也を後部座席に促すと、葉璃も恭也の隣に乗ろうとしていたので、前に乗れと誘導した。


「悪い恭也、これここ置いとくから、葉璃に見付かんねぇようにしといて」


 助手席に移動中の葉璃に隠れて、小声の聖南は恭也に断ってHottiを彼に託す。


「………………?」


 どういう事ですか?と言いたげに首を傾げながら恭也がそれをパラパラっと捲り、聖南のキスシーンを発見すると、慌てて閉じてシートのポケットにしまった。


「意味が分かりました」
「よろしく」


 恭也の理解が早くて助かった。

 ファッション雑誌など葉璃は絶対に見ないだろうから、コンビニや書店に行って万が一開きでもしない限り、目に入る事はないだろう。

 葉璃も承知の件だが、なるべくその物は見せたくない。

 ナビに登録してある恭也の自宅住所を押して、聖南はサングラスを眼鏡に変えて車を発進させた。


「聖南さん、新曲聴きましたよ。  今回のめっちゃかっこいいですね」


 横から葉璃が可愛らしい笑顔を向けてくるので、それをルームミラーではなく直で拝みたくて、早く赤信号になれと念じてしまう。


「あ、俺も、聴きました。  いいですね。  でもダンス、難しそう……」
「そ?  ケイタが振り付け考えてんだけど、二人でも踊れるよ、リリカルヒップホップだから」
「……リリカル……?」
「あーっと、歌詞とかメロディーに沿ってるっつーのかな。  複雑な動き入れてても、歌詞とリンクしてるから覚えやすいんだよ」


 今月頭に出した新曲を二人が聴いてくれていて、しかも良かったと嬉しい感想を言ってくれるので、聖南は上機嫌だ。



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