27 / 35
第十一話
☆☆
しおりを挟む何分もかかって意を決した俺の着信を、真琴は取ってくれなかった。
時刻は二十二時四十分。 まだ寝ている時間ではないはず。
これは想定内だと、笑みでも浮かべてコーヒーを……などという余裕は粉々に砕け散った。
完全に避けられていると知った俺は、ピストルの弾が頭蓋骨を貫通したかのような衝撃と打撃を味わった。 経験がないので例えが適当かどうかは分からないが、それほどの痛手だった。
電話に出てもらえなかったら直接行けと由宇に叱られた事もあり、財布だけを手に悩む間もなく家を飛び出す。
俺が血相を変えていたからか、起きていた母には何も咎められなかった。
「はぁっ……はぁっ……」
俺の家から真琴が大学入学を機に独り暮らしを始めたアパートまで、電車で五駅。
その駅から徒歩十五分の道のりを、俺はノンストップで走った。 しばらく運動らしい運動をしていないせいで、坂道でもないのに息が上がる。
熱帯夜の蒸し暑さにより体力も奪われた。 額から汗がこめかみへと垂れ落ちる。 首元や背中もびっしょりだ。
顔を見るだけ。
「心配してたよ」と言うだけ。
友達活動に反してたらごめん、と謝るだけ。
俺が家庭教師の件を根掘り葉掘り聞き出すのはおかしい事らしいから、それは真琴が話してくれるまで待つ。 でも俺の方は、話さなきゃいけない。
身勝手かもしれないけれど、真琴が〝がんばる〟と宣言した友達活動で俺のそばに居る事を選んだのなら、唐突に避けるのはやめてほしい。
「……はぁ、……居るじゃん」
真琴の部屋のアパートから漏れる明かりで、彼の在宅を確認した。
手すりに捕まりながら階段を上がる。
ここは三階建ての学生専用アパートだが、入居者がそれほど居らず空室が目立つのは事故物件の噂があるからだ。
何度となく寝泊まりした俺も真琴も、その辺があまり気にならない。
由宇から〝変わり者カップルだ〟とよく揶揄された。
──トントン。
階段を上がりきってすぐの扉を、少々力を込めてノックする。 かつてこれほど緊張感のあるノックをした事があっただろうか。
応答は無い。
覗き穴越しに俺だとバレたら開けてくれないかもしれないので、人差し指でそれを塞いだ。 昔観たドラマのストーカー役の男が、これをやっていた。
──トントン、トントン。
俺は断じてストーカーじゃない、と自分に言い聞かせながら、何度かノックをし続けて数分。 扉の向こうで物音がした。
直後、真琴の「誰ですかー?」という声で直ちに胸が踊る。
「真琴、俺……っ、俺だよ。 開けて」
「……怜様!?」
それほど荷物はないはずなのにガタガタと物音がする。
真琴は、来訪者が俺だと知っても玄関を開けてくれた。
「怜様っ? どうしたんだ、そんなに汗だくで! とりあえず上がって!」
「あの、……連絡が無かったから、心配で……」
「あ、あぁ……! それで来てくれたの?」
「そう、心配で……」
お邪魔します、と靴を揃えて上がる。
質素で和風な畳張りのワンルームの部屋には似合わない、カラフルなカーテンやいくつかの大きなぬいぐるみ、何度も体を重ねたセミダブルのベッドを目にすると、何だかいたたまれない気持ちになった。
ここへ来るのは一ヶ月ぶりだ。
連絡を取る事よりも、直接訪ねる方が難易度が高かった。 由宇のお叱りに背中を押されなければ、選択肢にも入らなかった。
何しろ俺は、今腰掛けたソファ代わりのベッドの上で、あろう事かセックスの直後に真琴の心を傷だらけにしたからだ。
「……怜様が来てくれるとは思わなかったよ」
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
迅雷上等♡
須藤慎弥
BL
両耳に二つずつのピアス、中一の時から染めてるサラサラ金髪がトレードマークの俺、水上 雷 は、
引っ越した先でダチになった 藤堂 迅 と
やらしい事をする間柄。
ヤリチンで、意地悪で、すぐ揶揄ってくる迅だけど、二人で一緒に過ごす時間は結構好きだった。
いつものように抜きっこしようとしたその日。
キスしてみる?
と、迅が言った。
※fujossy様にて行われました「新生活コンテスト」用に出品した短編作です。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
有馬先輩
須藤慎弥
BL
『──動物界において同性愛行為ってのは珍しいことじゃないんだぜ』
《あらすじ》
ツヤサラな黒髪だけが取り柄の俺、田中琉兎(たなかると)は平凡地味な新卒サラリーマン。
医療機器メーカーに就職が決まり、やっと研修が終わって気ままな外回りが始まると喜んでいたら、なんと二年先輩の有馬結弦(ありまゆづる)とペアで行動する事に!
有馬先輩は爽やかで優しげなイメージとはかけ離れたお喋りな性格のせいで、社内で若干浮いている。
何を語るのかと言えば、大好きな生き物の知識。
一年以上、ほぼ毎日同じ時を過ごして鬱陶しいはずなのに、彼を憎めない。
そんな得な才能を持つ有馬先輩に、俺はとうとうとんでもない提案をしてしまう。
※2022年fujossy様にて行われました
「5分で感じる『初恋』BL」コンテスト出品作
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした
月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。
人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。
高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。
一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。
はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。
次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。
――僕は、敦貴が好きなんだ。
自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。
エブリスタ様にも掲載しています(完結済)
エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位
◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。
応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。
ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。
『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる