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第十話
☆☆
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一つ忘れていた事があった。
まさにその一言で俺が身を引こうと決意した真琴の台詞を、ふいに思い出したのだ。
それぞれ学部の違う俺と真琴と由宇は、夏休みの期間が微妙にズレる。 俺はすでに休みに入っているが、真琴は今週末から、由宇に至ってはお盆休みからそれに入る。
外は蝉の鳴き声もうるさいし、何より暑くてやる気も削がれるけれど、一日家で閉じこもっていては太陽光からのビタミンD摂取が期待できない。
インスタントコーヒーばかり飲んで日々胃を荒らし続けるよりも、一石二鳥である塾講師のアルバイトを決断し、これから面接に向かうためおろしたてのサマースーツのジャケットに袖を通したところで、はたと動きが止まる。
「……キャンプっていつ行くんだろう。 もう行ったのかな」
月水金は友達活動と称し俺と過ごしているものの、他の曜日に真琴が何をしているのかさっぱり分からない。
あれだけ毎日来ていた連絡が一日おきになっているので俺も確認のしようがなかった。 あげく、何ゆえ友達活動が週に三日、しかも月水金の固定曜日なのか聞く事も出来ていない。
それ以前に、そうまでして俺から離れないでいようとする真琴の気持ちはありがたいのだけれど、これでは俺が突き放した意味が無い気がして自問の毎日。
俺は、真琴を解放してあげたかった。
盲目で居ては周りが見えなくなる……すでに真琴はそうなっていたから、俺以外に目を向ける機会があるのなら離れるべきだと。
何せ俺は真琴に想いを返さない、優柔不断な意気地なし男だから。
学部の先輩や新たな友人……真琴の交友関係が広がっていく中で、俺の存在が霞んでいくのが耐えられなかったから。
「……え?」
いや、……え?
履歴書の入った封筒を手に、しばし固まる。
なんで耐えられないの。 別にいいじゃん、キャンプくらい好きに行きなよって、俺思ってたし現に真琴にもそう言ったよね。
なんで今さらそんな事を思うの。 確かに離れてみてから、俺が何故 真琴の気持ちを受け入れられなかったか、本当の理由に気付けた。
自身の女々しさを受け止めて、それでも真琴には自由で居てほしいと思ったのも紛れもない本心だ。
それじゃあどうして、俺に目を向けられなくなるかもしれない事が耐えられないの?
真琴の視野を広げてあげる事が、お互いにとって最善の策だったから関係解消を突き付けたんじゃないの?
「…………」
真琴の見解は否定しない。 そもそも俺にはその権利が無い。
……権利を放棄し続けたのは俺自身なんだけれど。
冷風の届かない蒸し暑い玄関先で、革靴を履きながら呟く。
「おかしいでしょ……。 理に適ってないよ、俺」
考えれば考えるほど、実際の行動と考えている事が矛盾している。 あげく突き放して以降の方が、俺は真琴をそういう目で見ているかもしれない。
指先が触れただけで緊張するし、屈託のない笑顔を向けられるとずっと見ていたいと思うし、他人行儀な割り勘が毎度不満だし、何より……。
これだけは受け入れたくないが、真琴の元気いっぱいの〝大好き〟が聞けなくなって、寂しいと感じている。
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