怜様は不調法でして

須藤慎弥

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第七話

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 深夜、明かりもつけず静まり返った自室で項垂れて数時間。

 真琴が俺を呼ぶ声が鮮明に鼓膜と脳裏に残っていて、引き返さなかった俺は自己嫌悪に押しつぶされていた。


「真琴……」


 後処理をしてあげなかった。

 セックスの直後に関係解消を言い渡す、極めて非情な行いをした。

 真琴の言葉に耳を貸さなかった。

 泣き叫んでいた全裸の真琴を置き去りにした。

 ──三年も、真琴を縛り続けていた。


「ごめん、真琴……ごめんね……」


 俺は、真琴から逃げたのだ。

 俺達は、友達でもなく恋人同士でもなかった。

 俺がずっと、真琴に想いを返さなかったから。

 このままでいいはずがないと頭では理解していたけれど、色々と言い訳をつけて決定的な〝いつか〟が先延ばしになり……そのままズルズルと都合の良い関係を保ち続けてしまった。

 一目惚れした、と俺に盲目な真琴の言葉を、常に真摯に聞かなかったのは俺の方だったのだ。

 いつどこで惚れられたのかは、聞いた事がないので知らない。 それどころか俺は、真琴について深く知ろうとしてこなかった。

 だから、……。


「……これで良かったんだ、これで……」


 真琴は、明らかに縛られている。

 そんな中でも、付き合ってはいないと断言される俺から、わずかでも恋人らしいものを受け取ろうと懸命だったのかもしれない。

 健気にも程がある。

 俺はそんな、愛情と忠誠心を向けてもらえるほどの男じゃない。

 身勝手で、傲慢で、最低で、女々しい。

 だから、これで良かった。

 真琴にだって、俺以外に目を向ける機会、権利があるのだという事を突き付けなければいけなかった。

 俺がもっと早くに解放してあげなくてはいけなかった。

 遅過ぎたけれど、正しい事をしたのだ。



 俺の不実な正義は、真琴に届いただろうか。



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