12 / 35
第七話
☆
しおりを挟む深夜、明かりもつけず静まり返った自室で項垂れて数時間。
真琴が俺を呼ぶ声が鮮明に鼓膜と脳裏に残っていて、引き返さなかった俺は自己嫌悪に押しつぶされていた。
「真琴……」
後処理をしてあげなかった。
セックスの直後に関係解消を言い渡す、極めて非情な行いをした。
真琴の言葉に耳を貸さなかった。
泣き叫んでいた全裸の真琴を置き去りにした。
──三年も、真琴を縛り続けていた。
「ごめん、真琴……ごめんね……」
俺は、真琴から逃げたのだ。
俺達は、友達でもなく恋人同士でもなかった。
俺がずっと、真琴に想いを返さなかったから。
このままでいいはずがないと頭では理解していたけれど、色々と言い訳をつけて決定的な〝いつか〟が先延ばしになり……そのままズルズルと都合の良い関係を保ち続けてしまった。
一目惚れした、と俺に盲目な真琴の言葉を、常に真摯に聞かなかったのは俺の方だったのだ。
いつどこで惚れられたのかは、聞いた事がないので知らない。 それどころか俺は、真琴について深く知ろうとしてこなかった。
だから、……。
「……これで良かったんだ、これで……」
真琴は、明らかに縛られている。
そんな中でも、付き合ってはいないと断言される俺から、わずかでも恋人らしいものを受け取ろうと懸命だったのかもしれない。
健気にも程がある。
俺はそんな、愛情と忠誠心を向けてもらえるほどの男じゃない。
身勝手で、傲慢で、最低で、女々しい。
だから、これで良かった。
真琴にだって、俺以外に目を向ける機会、権利があるのだという事を突き付けなければいけなかった。
俺がもっと早くに解放してあげなくてはいけなかった。
遅過ぎたけれど、正しい事をしたのだ。
俺の不実な正義は、真琴に届いただろうか。
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
迅雷上等♡
須藤慎弥
BL
両耳に二つずつのピアス、中一の時から染めてるサラサラ金髪がトレードマークの俺、水上 雷 は、
引っ越した先でダチになった 藤堂 迅 と
やらしい事をする間柄。
ヤリチンで、意地悪で、すぐ揶揄ってくる迅だけど、二人で一緒に過ごす時間は結構好きだった。
いつものように抜きっこしようとしたその日。
キスしてみる?
と、迅が言った。
※fujossy様にて行われました「新生活コンテスト」用に出品した短編作です。
黄色い水仙を君に贈る
えんがわ
BL
──────────
「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」
「ああ、そうだな」
「っ……ばいばい……」
俺は……ただっ……
「うわああああああああ!」
君に愛して欲しかっただけなのに……
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが
なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です
酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります
攻
井之上 勇気
まだまだ若手のサラリーマン
元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい
でも翌朝には完全に記憶がない
受
牧野・ハロルド・エリス
天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司
金髪ロング、勇気より背が高い
勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん
ユウキにオヨメサンにしてもらいたい
同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
理香は俺のカノジョじゃねえ
中屋沙鳥
BL
篠原亮は料理が得意な高校3年生。受験生なのに卒業後に兄の周と結婚する予定の遠山理香に料理を教えてやらなければならなくなった。弁当を作ってやったり一緒に帰ったり…理香が18歳になるまではなぜか兄のカノジョだということはみんなに内緒にしなければならない。そのため友だちでイケメンの櫻井和樹やチャラ男の大宮司から亮が理香と付き合ってるんじゃないかと疑われてしまうことに。そうこうしているうちに和樹の様子がおかしくなって?口の悪い高校生男子の学生ライフ/男女CPあります。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる