6 / 35
第四話
☆☆
しおりを挟む「──怜様?」
「あ、あぁ、昨日も一昨日も先輩に捕まってたんだっけ」
一寸も浸れなかった初恋に思いを馳せていた俺を、真琴が下から覗き込んでくる。
黒目がちなどんぐり眼を見つめ返すと、ポッとほっぺたを染めて視線を逸らされた。
「そうなんだよー。 講義は仕方ないとして、それ以外の時間はぜーんぶ怜様と居たいのに。 世知辛い世の中ですなぁ」
「……世知辛いねぇ」
ニュアンス違うけど、雰囲気で受け取ってあげるか。
三限の講義は別校舎。
昼に食堂で落ち合う約束をさせられた俺は、「世知辛い、世知辛い」と呟く傍目にはひどく不審な真琴の背中を見送った。
原色で元気を貰っている真琴は、てんとう虫柄の派手なリュックを背負っている。 存在感のあり過ぎる、もふもふした大きめのキーホルダーがチャックの摘みに二つ揺れていて、開け閉めする度にそれらが動作を阻むらしく「もう!」と憤慨している様を何度も見た。
高校時代、ブレザーの下にいつも着用していた薄手のパーカーは今も健在で、まるで季節感がない。 春夏秋冬をパーカーで過ごす真琴は、構内でもすっかり変人扱いだ。
見た目はそう悪くなく、人懐っこい。 学部内で仲の良い友人も居るようだけれど、そう見せかけて俺と由宇にしか尻尾を振らない。
誰の目にも変わっている、真琴。
約三年の付き合いで、さらに体の関係まで持っている俺でも真琴の本性を見極められていないのではと思う。
家族構成と、ひとり暮らしの住まい、血液型、性感帯くらいしか知っている情報がないのはどうなんだろう。
「……何考えてんのかな、俺も真琴も……」
そうは言いつつ、俺が回想に耽っても一分で現実へと引き戻してくれる真琴に、以前から多少なりとも救われているのは事実だ。
失恋による傷心も、家庭のゴタゴタで沈みそうな不安心も、うるさい真琴が現れてからはよく分からないうちに悩まなくなった。
何しろ相手は真琴だ。
毎日告白してくるタフな真琴の好意につけ込んで、売り言葉に買い言葉で手を出した俺は若かったとしか言いようがない。
『いいから抱けって言ってんだろ!』
『嫌だよ! なんで俺が君を抱かなきゃいけないの! 嫌いだって言ってるでしょ!』
『ビビってんじゃないよ! 男だったら据え膳食いやがれ!』
『はぁ!? 君、ほんとに俺の事好きなの!?』
『怜様大好き、怜様大好き、怜様大好き、怜様大好き!!』
『うるさいよ! 呪文唱えないで!』
『あっ! あう……っ』
『そんなに言うなら据え膳食ってやるさ!』
『怜様……っ、どんとこいです!』
──こんな流れで勢い余って真琴を抱こうとして、……失敗した。
あの時はヤケクソにも違いなく、傷付いた心を癒やしてもらおうとかそういう希望的な意味合いは皆無だった。
俺も真琴も初めてで、しかも初体験が男同士。
普通に挿れようとしたって入らない、濡らしたくてもモノが無い、……唾液じゃ何の役にも立たず、先端をあてがって真琴が悲鳴を上げたのを機に無理だと判断し、その日は諦めた。
出来なかった事が悔しかった俺達は、翌週無事にリベンジを果たしたのだが……あの若気の至りがマズかった。
今になって後悔している。 何もかも俺が悪かった。
けれど、──。
〝君の事は好きにならない〟
本人にも散々言ってきたこの台詞が、共に過ごす時間が増えていくにつれ、己に言い聞かせているように思えてならない。
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
迅雷上等♡
須藤慎弥
BL
両耳に二つずつのピアス、中一の時から染めてるサラサラ金髪がトレードマークの俺、水上 雷 は、
引っ越した先でダチになった 藤堂 迅 と
やらしい事をする間柄。
ヤリチンで、意地悪で、すぐ揶揄ってくる迅だけど、二人で一緒に過ごす時間は結構好きだった。
いつものように抜きっこしようとしたその日。
キスしてみる?
と、迅が言った。
※fujossy様にて行われました「新生活コンテスト」用に出品した短編作です。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
有馬先輩
須藤慎弥
BL
『──動物界において同性愛行為ってのは珍しいことじゃないんだぜ』
《あらすじ》
ツヤサラな黒髪だけが取り柄の俺、田中琉兎(たなかると)は平凡地味な新卒サラリーマン。
医療機器メーカーに就職が決まり、やっと研修が終わって気ままな外回りが始まると喜んでいたら、なんと二年先輩の有馬結弦(ありまゆづる)とペアで行動する事に!
有馬先輩は爽やかで優しげなイメージとはかけ離れたお喋りな性格のせいで、社内で若干浮いている。
何を語るのかと言えば、大好きな生き物の知識。
一年以上、ほぼ毎日同じ時を過ごして鬱陶しいはずなのに、彼を憎めない。
そんな得な才能を持つ有馬先輩に、俺はとうとうとんでもない提案をしてしまう。
※2022年fujossy様にて行われました
「5分で感じる『初恋』BL」コンテスト出品作
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした
月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。
人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。
高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。
一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。
はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。
次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。
――僕は、敦貴が好きなんだ。
自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。
エブリスタ様にも掲載しています(完結済)
エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位
◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。
応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。
ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。
『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる