怜様は不調法でして

須藤慎弥

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第二話

☆☆※

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 一度指を引き抜いて、今度は少し多めにローションを足す。 右肩を下に横になっている真琴は、自分から背中を丸めてお尻を突き出した。

 中指がスムーズに抜き差し出来るようになったら、指を二本に増やして重点的に前立腺を刺激する。 ぷ、と僅かに膨らんだそこをくにくにと押すと、次第に真琴はおとなしくなった。

 弱い箇所を執拗に擦られ、ビクンビクンと小刻みに体を震わせて快感を知らせてはくるけれど、俺との約束を守ろうと必死な真琴は両手で自身の性器を握って耐えている。

 〝俺が挿れて動くまでは、自分で扱いちゃダメ〟

 放っておくと五分も保たずに射精し、全力疾走直後のように体が言うことをきかなくなる真琴の一発目は、睡姦の真似事をしたくない俺の管理下にある。


「ふっ、……あっ……」


 喋らなくなる代わりに、らしくない吐息を小さな嬌声と共に漏らす真琴の顎がのけ反った。 不覚にも毎度それに煽られる俺の手付きが、途端に優しさを失う。

 真琴も、俺が理性を失くすタイミングを分かっていると思う。 だからといって、これが意図的だったら質が悪い。

 俺の指を捉えて離さない内側の締め付けも、二重のどんぐり眼がセックスの最中だけはあまり俺を見ないのも、意図的じゃないよね。

 少しも想いを返さない俺に、真琴なりの仕返しをしているわけじゃないよね。

 疑いだしたらキリがない。

 俺を買い被り過ぎている真琴の言葉が信じられないから、ついつい心無い問い掛けをしてしまう。


「俺は真琴の恋人でも何でもない、よね?」
「あっ……あぁっ……怜様……っ」


 ぐぷっと先端を挿入しながら、いつからか降って湧いた疑念に突き動かされていく。

 向こうを向いたままなので表情は計れないけれど、性器越しに真琴の体が緊張したのは伝わった。

 その問い掛けが、どれだけ真琴と自身を傷付けているかなど分かりきっているのに、試すように幼稚に繰り返しては真琴を遠ざける。


「ん、あっ……怜、様……っ」


 ゆっくりゆっくり、ローションの滑りを借りて狭い内側を進んでいく。 挿入の喜びが両者に伝わる毎に、ただでさえ窮屈なそこがグニュグニュと蠢いて射精を促してくる。

 少々熱いと感じるほどの内壁が、俺の性器をすっぽりと包み込んで離さない。 上体を起こして真琴の肩を抱き、グンと根元まで挿れただけで果てしない高揚感に見舞われた。

 何か別の事を考えるか、息を詰めている真琴と同じくジッと堪えるか、いつも迷う。

 気を逸らさないと、真琴のアベレージを鼻で笑えない。


「はぅっ……ん、っ……怜様……っ」
「せめてセックスの時くらい普通に呼んでくれない?」
「だって……っ、だって、おれにとっては、怜様は怜様だから……っ」
「……あ、そう」


 この語彙力で、どうやって難関大学合格を決めたの。

 〝怜様〟と〝大好き〟でうるさい唇は、塞いでしまうに限る。

 細い顎を取って、無理やり舌を絡ませた。 互いの呼吸が熱い。 舌が溶けてしまいそう。


「ふ、んっ……んっ……」


 真琴の腕が、微かに動き始めた。

 俺はまだ中に埋めただけで動いていないのに、とろけるようなキスで我慢出来なくなったらしい。 何してるの、と咎められない俺も人の事は言えなかった。


「……動くよ」
「ん、……うん、っ」


 内壁が俺の性器に馴染むまで、はじめはジワジワともどかしいほどゆっくり引いては突く。 強引に抜き差ししていい場所ではないから、崩れそうな理性を保って慎重にコトを進めた。

 真琴はこれを俺の優しさだと勘違いしているが、我を忘れて貫くと黒歴史の二の舞になるので避けたいだけだ。


「怜、様……っ、きもちぃ……っ! だいすきっ、怜様……っ」
「…………」


 前戯もピロートークも薄い俺達は、あまり視線の合わない行為の最中であっても互いの姿勢は崩さない。

 〝大好き〟過多な真琴も、そうじゃない俺も。


 君に欲情しているわけじゃないよ。
 ここに君が居て、俺の事が大好きな君が抱いてほしいと言うから、抱いているだけ。


 三年前から、言い訳ばかり一丁前。

 汗ばんだ膝裏を抱え上げ、深く貫いて啼かせておきながら、俺は真琴が欲しがる言葉を一つも言ってあげられない。

 なぜなら俺は、好きじゃないから。

 視界にチラつくカラフルなカーテンが鬱陶しい。

 原色は元気を貰えるからって、真琴にそれは必要ないでしょ。




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