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クリスマスSS『ビックリ箱』
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しおりを挟む「わぁ、この中、閉塞感スゴイですね! 秘密基地みたいだ!」
「和彦……なんでお前まで入って来た?」
うわぁ、うわぁ、とはしゃいでいるスーツ姿の次期社長。
狭い。一回り以上デカい和彦が入ってきたら、フタ開いてんのにまだ密閉されてる気がする。
これ組み立てるのも大変だったもんな……。
それなのに登場のタイミング逃して、先に料理も見つかってしまうし、俺をギュッと抱きしめてくれる和彦には爆弾か犬扱いされて……何にもうまくいかなかった。
「七海さん……! なんて素敵で破廉恥な格好を……!」
「話聞いてる?」
「聞いてますとも! あなたの恋人、ただいま帰ってまいりました」
「……おかえり」
話が通じない和彦は、俺がミニスカサンタの格好をしてる事にやっと気付いた。
あーあ。こんな変人相手じゃ、どんだけ練った作戦も通用しないって事かぁ。
まぁいいけど。
脱出するどころか腰を落ち着けた和彦の膝に乗せられて、俺はその胸に寄りかかって呼吸を整えた。
ミニスカサンタより、手作り料理やクリスマス風の飾り付けで装飾したリビングより、和彦は何だかこの巨大な箱がお気に召してるみたい。
「七海さん、何だか顔が……」
指先で顎をクイっとされて、和彦の方を向かされる。
本当の二人だけの空間でジッと見詰められると、めちゃくちゃ照れた。
「な、なに?」
「いえ。あの……一つ聞いても?」
「うん?」
「これはどういう遊びだったんですか?」
「…………」
遊び……。
俺は和彦と秘密基地ごっこをするために色々用意したんじゃないんだけど。
マジのマジで、今日が何の日か分かってないのかな?
いくら飛び抜けたお坊ちゃまでも、それはちょっととぼけ過ぎじゃない?
「和彦、今日何日?」
「二十五日です。クリスマスですよね」
「知ってるじゃんー!!」
「もちろん知ってますよ。毎年七海さんに腕時計を贈る日ですし」
「あ、あぁ……」
そうでした、そうでしたね、お坊ちゃま。
俺が肌見放さず付けてる、今も左手首に光ってる腕時計は、付き合って最初のクリスマスの時に貰ったもの。
まだ金持ちな恋人の感覚についていけてない俺は、今まで計五本の腕時計を貰ってるけど、残り四本はしっかり箱の中だ。
今装着してるのが壊れでもしない限り、それらの出番はない。
毎年欠かさず何故か時計を贈ってくれる和彦に、お返しがしたいと思っても不思議じゃないだろ?
二十五日がクリスマスだって知ってて、今まで腕時計をくれてたんだって事実には驚いたけど。
「和彦にサプライズしようと思ってたんだよ、俺」
「えっ?」
「何もかもうまくいかなかったけど……」
「え、えっ? そんな事ないですよ! ビックリしましたよ、こんな大きな箱が僕のベッドルームを占拠してるんですもん!」
「爆弾だと思ってたじゃん」
「そりゃあ……不審には思いますよ。あと、七海さんが居ないという事にも驚いてました」
「隠れてたからな」
「ふふっ……。七海さん、一体いつから、その格好でこの中に居たんでしょう?」
「……二時間前」
俺の顔色を見た和彦は、心配そっちのけで何だか嬉しそうだ。
ギュッと抱きしめてきては離して、俺のおでこにチュッとキスを落とす。微笑みながら。
「辛抱強いというか健気というか……七海さんの僕への愛はすごく伝わりました。ありがとうございます」
「……ん。俺、……がんばった」
「そうですね。有給を取っても文句を言われないようにたくさん働いて、今日という日を彩るためにリビングをデコレーションして、あのお料理は……もしかして七海さんの手作りですか?」
「……そう」
「感激です。僕に喜んでもらおうと、時間をかけて色々準備してくださった気持ちが何より嬉しいです。ミニスカートサンタさんが霞みます」
「……これも一応喜んでくれてる?」
「はい。でも今日は、セクハラを交えた美味しいお酒と料理を楽しむことにします」
「ぷはっ……セクハラって! 恋人なのに」
「恋人だから、出来ることです」
俺がこの格好だと気付いても、あんまりいやらしい視線を感じなかったのは素直に喜んでくれてたからだったのか。
予想外に箱そのものまで気に入ってくれて、なかなか出ようとしない和彦は「これ、このままここに置いておきません?」と真顔で言ってのけ、俺を笑わせてくれた。
サプライズはうまくいかなかったけど、俺達らしいクリスマスを過ごせそうな予感に胸が踊った。
相手は規格外のお坊っちゃまだ。
そう簡単に俺の策が通用するはずないよな。
2020/12/25掲載
*".✩:*☆ Merry Christmas ☆*:✩."*
和彦♡七海
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こんにちは。いつも楽しく読ませて頂いてます。2人が似た者同士で出会いが必然な感じがとても好きです。番外編も楽しみにしてます。できたらその後の世界を飛び回る2人も見てみたいです。
凛 様 こんにちは\(^o^)/
似た者同士な二人を最後まで見届けていただき、ありがとうございました!
番外編は短編となりますので少々短く感じられるかと思いますが、本編中よりも二人がイチャイチャしていて微笑ましく読んでいただけるものになっています。
お楽しみいただけると幸いです。
その後の二人のエピソードも、細々と短編にて書いてみようと思いますので、公開した暁にはお時間ある時にまた和彦と七海に会いに来てくださると嬉しいです(*^_^*)
コメント本当にありがとうございました!
最終話?本編終了?お疲れ様でした。ずっと見守ってきた2人なので会えなくなるのは淋しいです。是非、数年後のバリバリ幹部和彦と、更に魔性を振り撒く、小悪魔セクレタリー七海のお話を気が向いたら書いていただきたいです。九条にもお相手できて幸せになっててほしいなぁ
taka 様
連載当初から追いかけてくださり、ありがとうございました!
続編を書く予定は無いのですが、イベント時期に合わせて完結作品の短編を書きたくなるお祭り事大好き作者なので、そちらを楽しみにしていただければと思います(*^^*)
数年後の二人の姿は確かに気になるところですよね(*˘˘*)←
短編とはなりますが、読了いただいた感謝を込めていつか描いてみたいと思います。
コメント本当にありがとうございました\(^o^)/
taka 様
またまたコメントありがとうございます\(^o^)/
モダモダゆえにハイスピード更新にも関わらず、更新回まで読んでいただけて嬉しいです(*^^*)
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