優しい狼に初めてを奪われました

須藤慎弥

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優しい狼に初めてを奪われました

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 真っ裸で、馴染みのないベッドの上でスパダリ攻めと凡人受けの漫画をスマホで一緒に読むという、よく分からない辱めを受けた。

 何となしにクラスメイト達を羨んでいたこの場所で、俺の理想とするものを共感したいと言ってくれて嬉しかったのは本当だ。

 恋なんて、いや恋人とこのホテルに泊まるなんて、夢のまた夢だろうって諦めてたから。

 理想は理想だし、漫画や小説の世界はひたすらに甘く、萌えがたっぷり詰め込まれてはいるけど現実的じゃない。

 恋ってどんなだろう。
 セックスってほんとに気持ちいいの?

 多感な時期に妄想しまくった俺の理想は膨らみに膨らんで、一周まわって諦めかけていた俺の「恋」が三カ月前、いきなり形となった。

 良からぬ噂と誤解が結んだ唐突な「恋」は、皮肉にも真実の一端となってるような気がしなくもない。

 腰を持ち、めまぐるしく突き上げながら「壊してしまいそうだからもう少し太りましょうね」と、バスルームでと同じ事を囁くハイスペックな恋人は、快感で悶える虚ろな俺に永遠の愛を誓った。


「ずっとこうしてたい……」
「ちょっ……ん、和彦……っ」
「ここ、あと三十分で出なきゃいけないらしいですよ」
「あ、あっ? そ、そうなん……んんっ……」
「七海さんがこのホテルを気に入ったと言うなら、買い上げましょうか」
「なに……っ!? あっ、ん、っ……!」


 腰を打ち付けられる度にベッドについた両腕が力なく沈み、ついには枕に突っ伏して振り返る事も出来なくなる。

 ギリギリまで引き抜かれた性器が一気に襞を擦り上げ、前立腺と最奥をほぼ同時に攻め立てられると呼吸さえままならないほど気持ちいい。

 漫画を音読しようとした和彦を必死で止めて、無言で画面に向かったその後……興奮した和彦からおまけの一回戦を仕掛けられた俺は、こうしてまた枕に顔を埋めて啼いている。

 ぐちゅぐちゅと中を掻き回すいやらしい腰付きと、背中にいくつも走るピリッとした痛みが巧妙に交わって、もはや自分でも何が出てんのか分かんないくらい何度も射精した。

 和彦の独占欲と愛は比例している。  口付けだけでは足りないとばかりに犯された俺の背中は、多分鬱血だらけで見れたもんじゃないと思う。


「自分で動いてみます?」
「……えっ……? そん、なの……できな……」


 ピタと動きを止めた和彦が、俺の腰から手を離した。

 絶え間なく全身を駆け巡っていた快感も同時に止まり、ずちゅっ、と性器を引き抜かれて思わず振り返る。


「ゆっくりでいいので、お尻をこちらへ」
「え、……っ……え……っ? こ、こう……?」


 和彦にお尻を突き出して上体を沈めた姿は、何というか女豹っぽくてすごく恥ずかしかった。

 けれど振り返った先で和彦がどこまでも穏やかに微笑むから、照れながらも俺は引き抜かれた性器の先端に自身の体を寄せていく。

 ぐちゅ、と音がした。

 疼く孔が性器の先端を難なく受け入れて、微かな抵抗感を伴いつつ挿入ってくるのが分かる。

 俺自身に挿入の経験が無いから分からないけど、受け入れたい立場の俺はこの感覚しか知らなくていいと改めて思った。

 だって、めちゃくちゃ気持ちいいんだもん。

 じわじわと腰を動かして、自ら和彦を受け入れようとしてる今でこそ目隠しが必要だ。

 あまりに拙過ぎて笑われてもおかしくないのに、和彦は優しく俺の背中を撫でてくれた。


「……そうです、上手ですよ。少しだけ腰を落としてみてください」
「うん……っ、……あっ」
「いいところにあたるでしょう? 僕のを半分挿入して、こうしてあげると……」
「あぁぁっ……だめ、っ……」


 言われた通りにしただけで、全身にビリビリっと電気が走る。

 和彦の性器をギュッと締め付けて顎を反らせると、「我慢出来ない」と呟いた恋人から怒涛のように最奥を目指された。


「可愛い……七海さん、可愛いです」
「んやっ……も、出ない……っ、和彦っ……俺、もう……!」
「愛しています、七海さん」
「……あ、っ……や、やぁぁっ……!!」


 夜中からずっと疼きっぱなしの性器が、和彦が動く度に中から悦が溢れて止まらない。

 ベッドの軋む音が早くなり、襞の摩擦もより一層激しさを増す。

 和彦が俺に触れたところすべてが熱を持ってるみたいに熱くて、最奥に放たれたものも熱くて、想いのこもった言葉なんかもっともっと熱くて、何も考えられなかった。


「……っ、……はぁっ……っ」


 火照った体はすぐには冷めず、性器を引き抜かれてもわずかに腰を落とすくらいしか出来ない。

 ぼんやりとした意識の中、乱れた呼吸と昂ぶった興奮を落ち着かせていると、意図せず繋がった場所が名残惜しげにヒクヒクしていた。

 重力に負けて溢れ出てくる和彦の迸りに、なかなか引かない熱が呼び覚まされそうで、縋るように首を撚る。


「……和、彦……」
「続きは帰ってからにしましょう。足りないのは僕も同じです」
「違う……そうじゃなくて……」


 振り返った俺に覆い被さり、ちゅっと唇にキスをしてきた和彦は悪戯に先端で孔を刺激してくる。

 ……何を勘違いしてるんだ。

 俺は和彦が出したものが溢れて恥ずかしいから、バスルーム連れてけって意味で呼んだんだよ。

 続きは帰ってからにしましょう? ……まだするの?

 我慢がきかないと言っていた和彦の台詞を裏付けるように、彼の欲望は止まらないらしい。

 それに俺がついていけるかなんて事は、分かりきった話だ。


「ラブホテル、いかがでした?」
「……和彦の気持ちはよく分かったし、俺も夢が叶って嬉しかった。だから今日はもう満足。眠たくてたまんない」
「えっ? そんな、……っ、お家に帰ってからも愛していいでしょう?」
「俺寝ててもいいなら」
「嫌ですよ、起きててください」
「俺もヤダ。無理。精液タンクも体力もゼロ」
「えぇぇっ……そんなぁ……」


 和彦はそれから、分かりやすく拗ねていた。

 バスルームでお尻を洗ってくれてる最中も、ずっと「いいでしょ?」とお伺いを立ててくる和彦の機嫌は、俺の一言で治ってしまうと知っている。

 でも今日はどれだけ甘えられても無理。  寝かせて。

 スマホを手に、エッチなシーンでふむふむと真剣に頷いてた和彦に何やら胸騒ぎを覚えた俺の予感は的中したってわけだ。

 今日のはそう……確か、『スパダリ攻めは絶倫でした』と銘打ってあったっけ。



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