優しい狼に初めてを奪われました

須藤慎弥

文字の大きさ
上 下
188 / 206
優しい狼に初めてを奪われました

3※

しおりを挟む



「……え?」


 和彦の表情が見えない分、どんな心境でその戸惑いの声を発したのか伺い知る事が出来なかった。

 互いの動きがぴたと止まり、俺と和彦の吐息の投げ合いも薄れる。

 少しの間沈黙が続いた。

 まるで時が止まったかのような静けさにいたたまれず、挿れられたままの三本の指をきゅっと締め付ける。


「あ、いや……ア、アレ、使いたいなら使ってもいいよ? 和彦には我慢してほしくない。もし、俺とのエッチが実は退屈だって思ってたんなら、正直に言っ……」
「七海さん、やめてください。そんな事言わないで」
「んっ……!」


 見えないんだから、いきなり唇を塞がれるとビックリしちゃうじゃん……!

 動きを再開した指先が、ぐちゅ、と前触れもなく前立腺を擦る。

 声無き声は和彦の舌に吸い取られ、逞しい二の腕を心許なく握った俺は下半身をぶるっと震わせて身を捩った。


「ちなみに……アレってアレですよね?」
「ぷはっ……っ、アレはアレだ!」
「さっきのローターじゃなくて、媚薬をって事ですよね?」
「そ、そう……」


 まさにそのやらしい単語一つで、いくら和彦が宥めてくれようとも俺の不安は解消されない。

 ローターは、和彦も俺も要らないって事で話はついてベッドの下で寂しく転がってるんだろ。

 問題は和彦の過去のセックス事情で、これからの俺達にとってはちゃんと話し合わないといけない案件だと思う。

 今まで何夜か過ごしてきたけど、それも全部我慢してたんだとしたら悲しい。

 めちゃくちゃ悲し過ぎる。

 中を優しく解してくれて孔がきゅんきゅんしてるのに、キスで誤魔化そうとはしなかった和彦が「でも……」と声を上げた。

 どっちにも集中しなきゃならない俺は、忙しく和彦の声に耳を傾ける。


「僕はもう、持っていないんですよ。アレ」
「え、……んっ、なくなったの?」
「捨てたんです。七海さんと出会う直前に」
「捨てた!? なんで……っ、あっ……」
「そんなに使いたかったんですか? あんまり良いものではありませんよ?」
「違う! 俺が使いたかったっていうか、ぁあ……っ、か、和彦が満足してないんじゃないかって……! 過去の事ほじくり返したくないし、っ、んんっ……和彦もイヤかもしれないけど、俺、経験無いから……っ、物足りない、だろ?」


 うまく喋れない。

 俺の乳首を摘んで弄び、後孔をぐちゅぐちゅと音を立てながら解し続け、会話までこなす和彦は経験値の差なのかムカつくくらい器用だ。

 俺にはない、過去。

 枕やローターに嫉妬する和彦の事を窘められない。

 だってこんなにヤキモチ焼いてる。

 媚薬を使ったエッチを経験してる和彦が、童貞処女だった俺との行為にそこまでの快感が得られてるのか、甚だ疑問なんだよ。

 不安と嫉妬で、おかしくなりそうだ。

 暗闇が嫌になってきた。

 和彦の姿を見たい。見て、安心したい。

 いまどんな表情してるんだ。

 溜め息を吐いて、孔から指を引き抜いた和彦の体が俺から離れていく。

 どこ行くんだって声を荒げそうになってすぐ、和彦の体温が俺を包み込んだ。


「逆ですよ、七海さん。今までが物足りなかったんです。 七海さんとだと、我慢がきかない。優しく出来ないと言ったじゃないですか。あんなもの使わなくても、こんなに気持ちいいんだと知った。それは相手が七海さんだから、ですよ」
「……ほんとか? ……気使ってない?」
「これで僕の秘密は全部七海さんに打ち明けました。気など使う理由がありません」
「…………」


 ほんとかなぁ……と黙っていると、射精寸前まで追い込まれていた性器をきゅっと握られた。

 そのまま数回上下に擦り、亀頭を絞って先走りを舐めた和彦は「美味しい」と笑った気配がした。

 そのやらしいイケボと、先端に感じた舌の感触にピクッと体を揺らす。


「僕の過去がそんなに不安を与えてしまったんですね。ごめんなさい、七海さん。けれど僕は、七海さんとのセックスを知ってから、淡白で遅漏だというコンプレックスも無くなってしまいましたよ」
「えっ……それがコンプレックス?」
「そうですよ。皆さん媚薬なんて使わないんでしょう? 僕はことごとくみんなと違うんだなって落ち込みました」


 和彦が人と違うところなんていっぱいあり過ぎるけど、それ以上の会話を俺は続けられなかった。

 熱くぬめった和彦のものが、孔にあてがわれたと同時にぐちゅ、と挿入されたからだ。


「あっ……か、和彦……っ、ゆ、ゆっくり……!」
「分かっていますが、宣言通り我慢がききませんので……痛いときだけ教えてください」
「……え、あ、っ……んんん──っ」


 たっぷり解したという自負からなのか、容赦なく先端を挿入した和彦は、休みなく己のもので奥を目指している。

 襞が拡がっていく。

 明らかに並ではない和彦の性器が、前立腺を擦り上げて最奥に到達した。

 お腹を押すと手のひらに和彦のものを感じてしまいそうなほど、ぴたりと嵌った性器と襞は少しの隙間もない。


「……動いていいですか?」
「も、もう……っ? あ、っ……ちょっ……俺いいって言ってな……っ」
「我慢出来ないって言いました」


 俺にお伺いを立てといて、駄々っ子を発揮するなと叱りとばしてやりたかった。

 でも俺は、暗闇の中で動き始めた和彦の熱をいつも以上に体感していた。

 卑猥な音も、吐息も、触れられた感触も、密着したそこが汗ばんでいく様も、まざまざと。


「あっ……っ、……あぁっ……」


 両足を抱え上げられて、ベッドに密着した背中がシーツと擦れてぐちゃぐちゃになっていく。

 皺と、二人の体液も、それ相応に。



しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

続きは第一図書室で

蒼キるり
BL
高校生になったばかりの佐武直斗は図書室で出会った同級生の東原浩也とひょんなことからキスの練習をする仲になる。 友人と恋の狭間で揺れる青春ラブストーリー。

処理中です...