149 / 206
清算
4
しおりを挟む「あぁ、そうだ。お父さんはずーっと社内に居るわけじゃないからね。結子と日本各地の支店やグループ会社を回り、海外へも度々出張しているんだ。お父さんが居ない間は副社長と専務、常務にそれぞれ本社業務は任せてあるが、正確にはその者らに密告があった」
「……どのような?」
「占部昭一による汚職だ」
ピク、と和彦の指先が動揺を示した。
同じく俺も、一緒のタイミングで目を見開く。
一方、目の前のイチャイチャ夫婦は優雅にコーヒーを啜り、「美味しいわね」と言い合っていた。
やっぱり、友彦お父さんだけじゃく結子お母さんも知ってたんだ。
俺が見付けるかなり前から知っていたのに、占部のお父さんを野放しにしていたなんて信じられない。
おかげでやりたい放題してるよ。
汚職がバレてないと思ってるから、立場の弱い女性社員にセクハラまで行っている。
「四年も前からご存知だったという事ですか? どうして動かなかったんですか。被害は確実に広がっています。知った直後から動くべきでしょう?」
そうだよ。和彦、もっと言ってやれ。
イチャイチャしてる暇があったら、会社のためにも社員のためにも「早急に」動くべきだっただろ。
完全な部外者である俺が同席してていい話題ではなかったけど、もう今さらあとには引けない。
闇を見付けてしまって、証拠も取って、ここに座って話を聞いて、何よりこれからの和彦のそばに居るために、盛大に巻き込まれたからには解決まで見届けたい。
真摯な和彦の問いに、友彦お父さんはこの状況下でニヤリと笑った。
「和彦に託したかったからだよーん」
「…………」
「ほら、つい何ヶ月か前まで、和彦は死んだ魚のような目をしていただろう? 頭が良くて、顔もお父さんと結子に似てとびっきり美形で、スマートな体躯と身のこなしは佐倉家の息子!って感じであっぱれなのにさぁ? 生気がまったく感じられなかったんだよね。何やってんだコイツ、だったわけ~」
「うふっ、そんなハッキリ言っちゃっていいの?」
「いいんだ。だって見てごらん、結子。二人はずっとテーブルの下でこっそりお手手を繋いでいる。七海君が現れたおかげで、和彦の目が生きている魚の目になった!」
き、気付かれてたのか……!
友彦お父さんにニヤニヤされて、咄嗟に振りほどこうとした俺の手を、和彦がギュッと握って離さなかった。
その上、バレてるならいいでしょってくらいの勢いで、繋いでいる手をテーブル上に置く。
恋人繋ぎした俺達の手が明るみになって、両親の視線がそっちに集まった。
気付かれてたからって見せびらかす必要はないと思うんだけど……。
「……僕は魚ではありません」
「例えだよ、例え!」
「ぷっ……」
真面目に答えた和彦に、羞恥よりも可笑しさが上回った。
吹き出した俺を見て和彦は目を蕩けさせるし、両親も微笑ましく見てくるしで、穴があったら入りたい気分だ。
ただ、友彦お父さんが確実なる意思を持って和彦の尻を叩いていた事だけはハッキリした。
生気を宿さない息子に痺れをきらしたと言った方が正しい。
「と、いう事は……僕を食事会に連れ出していた本当の目的は、占部昭一の悪事を見抜け、……そういう事だった」
「いかにも。インターン制度を導入して和彦を社内に潜入させたのもそういう訳だ。死んだ魚だった和彦はなかなか気付いてくれなかったがな」
「……申し訳ありません……」
「結子と話していたんだよ。和彦はいつ、どのタイミングで気付いてくれるのだろうかと。占部の件だけではないぞ? 自身の置かれた立場や人間味を取り戻すという点でだ」
「お父さんもお母さんも、和彦には私達 親の愛情を与えてあげられなかったじゃない? だからあまり他人を寄せ付けないのかしらって反省しているの」
「…………」
「かつてのお父さん達が和彦を内気な性格にしてしまったのだとしたら、いくら今からそれらを積もうとしても無駄だろう。ゴマすりのようにもしたくなかったしな~」
「本当は和彦自らが見付けてほしかったのよ。けれど七海君が派遣社員として業務外勤務に入ると聞いて、これはすぐに事態が動くと予感したの。案の定ね」
「…………」
和彦は言葉を失っていた。
また「僕のせいで……」なんて思い詰めてないといいんだけど。
回りくどい両親は、そんな方法で和彦を目覚めさせようとしてたのか……。
気付くはずないじゃん。マジで和彦は「変」な奴だったんだから。
自分の事だけで精一杯の、ただのボンボン。
食事会に行って接触させようが、気付かせるために社内に潜入させて仕向けようが、和彦には原動力が皆無だった。
俺も知らなかったけど、和彦はこれまでハラスメントについては度々目撃していたみたいだ。
でも、動かなかった。
色々と理由を付けて、最後には「まぁ会社という組織にはよくある事だ」と結論付けていたのかもしれない。
自分が動いたところで何の解決にもならないだろうと、はなから諦めていた可能性だってある。
俺と出会う事であらゆる面で前向きになって、両親の言う人間味が少しでも戻ってきてるからこそ、二人は同性である俺を認めてくれたのかな。
……となると、……一体いつから後藤さんのお節介が始まってたんだか。
0
お気に入りに追加
661
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる