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前進
6※
しおりを挟む俺の性器に触れようとする手のひらが、その新たな扉を無理やりこじ開けようとしていた。
知らない快感を体に覚えさせて、我を忘れるなんて俺にはまだ早い。そんなの恐怖すら感じる。
この体位でお腹いっぱい貫かれて、和彦からの口付けを受けるのでさえ必死で、頭の中が真っ白になるんだ。
これ以上のものが襲いかかるなんて恐怖が、俺に耐えられるはずない。
ぶるっと腰を震わせながら、俺は慌てて和彦の鎖骨に噛み付いて待ったをかけた。
「狂っ……? ……ま、待てっ! 今日は勘弁して……っ、まだ俺には、むり……っ! 絶対むり……!」
「……七海さんがそう言うなら。まぁそうですね。あまり刺激的な事をすると朝まで頑張れないかもしれない……七海さんが」
「朝までなんて……、そもそも、許してない……! あっ、待っ……回すの、ダメ……っ、うぅっ……!」
俺の腰を掴んで軽々と持ち上げて、下から円を描くように内壁を擦られると一気に熱に浮かされた。
貫かれた最奥が、到達した和彦の先端に突かれて喜んでいる。
もっともっと中を抉ってと、無意識に和彦の首に腕を回して嬌声を上げてしまう。
「七海さんが噛んでくれたなんて……嬉しいです。噛むのもいいんですが、キスマーク、付けてみませんか」
「噛……っ? なに……? あぁっ……んんーっ、ん……っ、話すか、動くか、どっちかに……しろっ!」
ど、どうしよう……、何も頭に入って来ない……。気持ちいい……っ。
揺さぶられて突き上げられて、ぐちゅぐちゅと音を立てるそこはすでに和彦の独壇場だ。
潮吹きは勘弁だけど、この調子だと落ちずに朝までいけちゃうかもしれない。
何もかも忘れて、ずっとこうしてたい。
じっとりと汗ばんだ肌を密着させて昂ぶるなんて、これも知らなかった未知の扉だ。
こんな本音を言ってしまえば、和彦は朝までどころか昼夜関係なくニコニコで狼に変身したまんまだろうから、絶対に言わないけど……。
「でも……止まったら七海さん、悲しいでしょう? もっと気持ち良くなりたいって、体は正直に僕に伝えてきていますよ」
「……んっ、んん……っ! ふ、ぁっ……やば、また……出そ……っ」
「その前にキスマークを」
「あっ……? キスマーク……? そんなのどうやって……!」
突き上げをやめた和彦に瞳を覗き込まれると、あの苦しいほどの動悸がやって来る。
俺の体のあちこちにあるそれがキスマークだって事は知ってるけど……漫画の中でもそれはいつの間にか描かれていて、やり方なんて載ってなかった。
こっそり憧れてた、体の至る所にある恋人からの愛の証を見付けた時は、何とも言えないふわふわとした気分になったのを覚えてる。
その赤い鬱血のやり方が分からないと瞳を揺らしていると、和彦がそっと俺の後ろ髪を手の甲で持ち上げた。
「……こうやって……」
強く吸うんです、と、ギリギリ髪で隠せそうな首筋の位置に、和彦は実際に吸い付いてきた。
愛撫ではなく、僅かな痛みを伴った所有物だという証が刻まれる。
それは思った以上にチリッと痛くて、とても平静ではいられなかった。
「痛……っ!」
「……七海さんの体にはたくさんあります。僕のものだという証がいくつも」
「こ、こんな痛いの……? 知らなかった……」
「夢中で僕を感じてくれていた証拠です。七海さんにも付けてほしい。強く吸って、足りなかったら噛んでも構いません」
狼狽える俺の唇を舐めた和彦は、どうぞと言わんばかりに繋がったまま動かない。
俺が体中に散らばった痕に幸せを感じてしまったように、ちょっと噛み痕を残しただけで嬉しそうな和彦も同じ気持ちなのかもしれないと思うと、うるさい動悸が後押ししてくれた。
いつ鍛えてんのってくらい、無駄な脂肪のない引き締まった肉体に触れてみる。
常に長袖のシャツを着て、明らかなインドア派の和彦は俺より色白だ。
どこに吸いつこうかと肌を撫でていると、小ぶりな乳首の上辺りに目が止まる。
「……ここ……ここでいい?」
「どこでもいいですよ」
和彦、すごく嬉しそう。
俺がキスマークを付けるってだけで、こんなに喜んでもらえるんならいつでも付けてあげたいけど、まずはやり方を覚えなきゃ。
たった今、和彦が俺の首筋にしてくれたのを思い出しながら、肌に唇を押し当てて吸ってみた。
……案外、難しい。
吸って離れてみたけど、浅い切り傷みたいな小さな鬱血痕にしかならなかった。
もっと丸っこくて赤みを帯びていて、かつ大きくないとキスマークには見えないから、もう一度同じ場所に吸い付いて、和彦のアドバイス通りに噛んだ。
その瞬間、和彦がくくっと喉の奥で笑い始める。
「……ふふっ、ふふふふっ……!」
「なんで笑うんだよ! 痛くない……?」
「痛いです。最後のガブッが効きました」
「えっ! ご、ごめん……っ、初めてやったから……っ! わわわ、血が出て……!」
「いいんですよ。これだけ強く痕を残された方が僕は嬉しいです。七海さんから二つも印を貰った……これだけで生きる力が漲ります」
「それは大袈裟だって……。あぁっ、おいっ、ちょっ、人の話を……! んぁぁっ」
ぷく、と血の滲むそこが、俺の想像以上に真っ赤になって存在感を示していた。
キスマークと鎖骨の噛み跡を順に触れて、俺をベッドに押し倒した和彦の表情は温かかった。
襞を分け入って奥まで到達した熱いものに支配されて、視界がぼやけてゆく。
「僕の短所の一つでしたね。でもセックスにおいてはそれは忘れて下さい。僕に主導権を握らせてほしい。大好きな七海さんが落ちないように、大切に、大切に、愛しますから」
耳元で囁く和彦の声で、全身に熱が広がる。顔の火照りと同様、まるで長風呂した後みたいにのぼせ上がった。
けれどそれはとても甘やかな熱で、打ち付けられる和彦の「愛」が脳をも容赦なく揺さぶる。
我慢をしない狼の瞳に、ほんとに食い尽くされてしまいそうだ。
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