優しい狼に初めてを奪われました

須藤慎弥

文字の大きさ
上 下
131 / 206
前進

6※

しおりを挟む



 俺の性器に触れようとする手のひらが、その新たな扉を無理やりこじ開けようとしていた。

 知らない快感を体に覚えさせて、我を忘れるなんて俺にはまだ早い。そんなの恐怖すら感じる。

 この体位でお腹いっぱい貫かれて、和彦からの口付けを受けるのでさえ必死で、頭の中が真っ白になるんだ。

 これ以上のものが襲いかかるなんて恐怖が、俺に耐えられるはずない。

 ぶるっと腰を震わせながら、俺は慌てて和彦の鎖骨に噛み付いて待ったをかけた。


「狂っ……? ……ま、待てっ! 今日は勘弁して……っ、まだ俺には、むり……っ! 絶対むり……!」
「……七海さんがそう言うなら。まぁそうですね。あまり刺激的な事をすると朝まで頑張れないかもしれない……七海さんが」
「朝までなんて……、そもそも、許してない……! あっ、待っ……回すの、ダメ……っ、うぅっ……!」


 俺の腰を掴んで軽々と持ち上げて、下から円を描くように内壁を擦られると一気に熱に浮かされた。

 貫かれた最奥が、到達した和彦の先端に突かれて喜んでいる。

 もっともっと中を抉ってと、無意識に和彦の首に腕を回して嬌声を上げてしまう。


「七海さんが噛んでくれたなんて……嬉しいです。噛むのもいいんですが、キスマーク、付けてみませんか」
「噛……っ? なに……? あぁっ……んんーっ、ん……っ、話すか、動くか、どっちかに……しろっ!」


 ど、どうしよう……、何も頭に入って来ない……。気持ちいい……っ。

 揺さぶられて突き上げられて、ぐちゅぐちゅと音を立てるそこはすでに和彦の独壇場だ。

 潮吹きは勘弁だけど、この調子だと落ちずに朝までいけちゃうかもしれない。

 何もかも忘れて、ずっとこうしてたい。

 じっとりと汗ばんだ肌を密着させて昂ぶるなんて、これも知らなかった未知の扉だ。

 こんな本音を言ってしまえば、和彦は朝までどころか昼夜関係なくニコニコで狼に変身したまんまだろうから、絶対に言わないけど……。


「でも……止まったら七海さん、悲しいでしょう? もっと気持ち良くなりたいって、体は正直に僕に伝えてきていますよ」
「……んっ、んん……っ! ふ、ぁっ……やば、また……出そ……っ」
「その前にキスマークを」
「あっ……? キスマーク……? そんなのどうやって……!」


 突き上げをやめた和彦に瞳を覗き込まれると、あの苦しいほどの動悸がやって来る。

 俺の体のあちこちにあるそれがキスマークだって事は知ってるけど……漫画の中でもそれはいつの間にか描かれていて、やり方なんて載ってなかった。

 こっそり憧れてた、体の至る所にある恋人からの愛の証を見付けた時は、何とも言えないふわふわとした気分になったのを覚えてる。

 その赤い鬱血のやり方が分からないと瞳を揺らしていると、和彦がそっと俺の後ろ髪を手の甲で持ち上げた。


「……こうやって……」


 強く吸うんです、と、ギリギリ髪で隠せそうな首筋の位置に、和彦は実際に吸い付いてきた。

 愛撫ではなく、僅かな痛みを伴った所有物だという証が刻まれる。

 それは思った以上にチリッと痛くて、とても平静ではいられなかった。


「痛……っ!」
「……七海さんの体にはたくさんあります。僕のものだという証がいくつも」
「こ、こんな痛いの……? 知らなかった……」
「夢中で僕を感じてくれていた証拠です。七海さんにも付けてほしい。強く吸って、足りなかったら噛んでも構いません」


 狼狽える俺の唇を舐めた和彦は、どうぞと言わんばかりに繋がったまま動かない。

 俺が体中に散らばった痕に幸せを感じてしまったように、ちょっと噛み痕を残しただけで嬉しそうな和彦も同じ気持ちなのかもしれないと思うと、うるさい動悸が後押ししてくれた。

 いつ鍛えてんのってくらい、無駄な脂肪のない引き締まった肉体に触れてみる。

 常に長袖のシャツを着て、明らかなインドア派の和彦は俺より色白だ。

 どこに吸いつこうかと肌を撫でていると、小ぶりな乳首の上辺りに目が止まる。


「……ここ……ここでいい?」
「どこでもいいですよ」


 和彦、すごく嬉しそう。

 俺がキスマークを付けるってだけで、こんなに喜んでもらえるんならいつでも付けてあげたいけど、まずはやり方を覚えなきゃ。

 たった今、和彦が俺の首筋にしてくれたのを思い出しながら、肌に唇を押し当てて吸ってみた。

 ……案外、難しい。

 吸って離れてみたけど、浅い切り傷みたいな小さな鬱血痕にしかならなかった。

 もっと丸っこくて赤みを帯びていて、かつ大きくないとキスマークには見えないから、もう一度同じ場所に吸い付いて、和彦のアドバイス通りに噛んだ。

 その瞬間、和彦がくくっと喉の奥で笑い始める。


「……ふふっ、ふふふふっ……!」
「なんで笑うんだよ! 痛くない……?」
「痛いです。最後のガブッが効きました」
「えっ! ご、ごめん……っ、初めてやったから……っ! わわわ、血が出て……!」
「いいんですよ。これだけ強く痕を残された方が僕は嬉しいです。七海さんから二つも印を貰った……これだけで生きる力が漲ります」
「それは大袈裟だって……。あぁっ、おいっ、ちょっ、人の話を……! んぁぁっ」


 ぷく、と血の滲むそこが、俺の想像以上に真っ赤になって存在感を示していた。

 キスマークと鎖骨の噛み跡を順に触れて、俺をベッドに押し倒した和彦の表情は温かかった。

 襞を分け入って奥まで到達した熱いものに支配されて、視界がぼやけてゆく。


「僕の短所の一つでしたね。でもセックスにおいてはそれは忘れて下さい。僕に主導権を握らせてほしい。大好きな七海さんが落ちないように、大切に、大切に、愛しますから」


 耳元で囁く和彦の声で、全身に熱が広がる。顔の火照りと同様、まるで長風呂した後みたいにのぼせ上がった。

 けれどそれはとても甘やかな熱で、打ち付けられる和彦の「愛」が脳をも容赦なく揺さぶる。

 我慢をしない狼の瞳に、ほんとに食い尽くされてしまいそうだ。





しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

続きは第一図書室で

蒼キるり
BL
高校生になったばかりの佐武直斗は図書室で出会った同級生の東原浩也とひょんなことからキスの練習をする仲になる。 友人と恋の狭間で揺れる青春ラブストーリー。

処理中です...