96 / 206
疑惑 ─和彦─
1※
しおりを挟む僕は嫉妬の鬼だ。
初めてをやり直すなんて言いながら、内部から沸々と湧き上がる黒くて重たいものがどうしても拭えない。
僕と出会う前の事なんだから仕方ないのに。
七海さんは、キラキラした「恋」を探し求めていただけなのに。
見事なまでに男達は口を揃えて言っていた、「好きかどうか分からないけど頭から離れない」。
僕もそうだった。
目を引く明るい髪色のせいなのか、女性のように小柄で華奢だから興味本位で追ってしまうのか、なぜ七海さんから目が離せないのか分からなくて、はじめはあの飲みの席で葛藤していた。
男の子だ。彼は、こんなに可愛くて気が利くけれど男の子なんだ。
そう分かっているのに、「頭から離れない」。
男達の台詞に激しく苛付きはしたが、分かる分かると頷いてしまいそうになったのも事実で、僕は七海さんの無意識の魔性が本当に怖くなった。
僕に恋してくれた七海さんが、これから先、その魔性で僕よりももっと素敵な人を落としてしまうんじゃないかって。
僕は変で、優しくないから、いつ七海さんに愛想を尽かされてもおかしくない。
七海さんを手に入れてしまうと、僕から離れていってしまうかもしれない恐怖と新たな嫉妬が、脆い心を呆気なく揺らした。
「和彦……っ、ほどい、て……っ、ぎゅってしたい……、から……っ」
こんな事を言ってる今だって、縛り上げた手首を解放したら一目散に僕から逃げるつもりなんでしょ。
甘えた口調が僕の鼓膜を震わせて犯し、七海さんの内に在る性器がずくずくと疼いて貫くのを止められない。
僕の事をぎゅってしたいの? それとも、僕から逃げたくてそう言ってるの?
責め立てるように何度も腰を打ち付けると、中から溢れ出てくるドロドロとした液体があちこちに弾け飛んで七海さんの下腹部をたくさん汚した。
「……んぁっ……ん、んっ……んっ……!」
──嫉妬に支配された僕を許して。
……でも、謝りたくない。
七海さんは僕のものなのに、七海さんに恋心を寄せる男があんなに大勢居たら、僕は心配で心配で気が狂いそうになるよ。
僕の心を初めて奪って行った七海さんは、僕のものだ。僕だけのものだ。
逃げても追う。捕らえて、閉じ込める。
僕が居なくて「寂しかった」と拗ねていた七海さんなら、僕の気持ち、分かってくれるよね……?
「……七海さん、あと少し。あと少しです」
「嫌だ……っ、なんで、……なんで俺の話、っ、聞いてくれないんだよ……っ! こんなの、……こんなの、っ、恋人同士のエッチじゃないよ……っ!」
「…………」
「おねがい……っ、ほどいて、……? 俺どこにも、んっ……、行かないっ! 怒ってるなら、謝るっ……約束も、ちゃんと守る……っから……!」
……七海さんが、いっぱい泣いている。
最初は気持ちよくて泣いてたはずなのに、今たくさん流れてる涙はそれとは別物な気がする。
これは恋人同士のエッチじゃないって、どうしてそんな事を言うの?
僕が手首を拘束したから?
すぐにこんな手を使う優しくない僕を、七海さんは許さない……?
「……七海さん……?」
グリグリと最奥をつついて一度動きを止めた僕は、七海さんの唇を舐めようとしたのに顔を背けて拒否された。
「ほどいてくれないなら、もう知らない!! 俺、優しい人が好き! 俺のこと好きって思ってくれる人が好き!」
「七海さんを好きな気持ちは誰にも負けませんよ! どうしてそんな事を言うんですか。恋人同士のエッチじゃないって、どういう意味なんですか」
顔を真っ赤にして叫ぶ七海さんはとっても可愛い。
けれど、僕にはない優しさを持った人が好きだなんて聞かされたら、また良からぬ不安が心を侵してゆく。
今の僕に「優しい」は無理だよ。
七海さんの事が好きで、好きで、狂おしいほどに愛しくて、でも僕なんかじゃ繋ぎとめておけないかもしれないって不安でたまらないんだよ。
僕は、七海さんが身を捩っても離れられないように、ぐちゅ、とさらに奥を抉った。
下腹部がぴたりと密着し、最奥に到達した先端の刺激に少しだけ啼いた七海さんは、僕をキッと睨み上げてくる。
「和彦にこういう趣味があるんなら、俺は頑張って覚える! 痛いのも苦しいのも、和彦がやってって言うなら耐えるよ! でも俺は初心者なんだよっ。しかも、しかも、……っ初めてのやり直しがこんなのなんて……俺……嫌だ……!」
「…………っ」
「和彦が何に怒ってるのか、俺は分かってるつもりだよ? 全部は分からないけど、大体は分かる。だから、……ぎゅって、……させて……?」
ちょっと誤解されてしまったけれど、怒った顔で僕にこう言ってくれた七海さんの言葉は、優しさに溢れていた。
縛って嫉妬をぶつけても真には怒らない七海さんの器量は、僕を好きでいてくれているが故だって……そう思っていいのかな。
これを外したら、本当に、ぎゅって抱き締めてくれるのかな。
よがって必死にしがみついてくるのではなく、愛情を持って大事に抱き締めてくれるのかな。
──逃げたり、しないかな。
「僕がおかしいのは、七海さん知ってますよね」
「知ってる……! こんな事するしっ」
「……ほどいたら、ぎゅってしてくれるんですか? 本当ですか? 暴れても罵倒しても構いませんが、逃げる事だけは許しませんよ?」
「つ、繋がってるのに逃げられるはずないだろ! さっきから何回も言ってるじゃんっ……てかこれ以上言わせるなよっ、恥ずかしいんだから……!」
自分で何言ってんだと、七海さんはこの状況下にも関わらず頬を染めて一人でツッコミを入れている。
真っ直ぐな瞳を信じて、縛っていたシャツに手をかけた。
締まりが緩まった瞬間、七海さんは素早い動きでするりと腕を抜いたから、咄嗟に「逃げられる、追わなきゃ」と僕は臨戦態勢をとった。
「…………!」
0
お気に入りに追加
661
あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる