優しい狼に初めてを奪われました

須藤慎弥

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究明

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 中が、全身が、燃えてるんじゃないかと思った。

 待ってと言ってるのに、聞く耳を持ってくれないまま、絶妙な強弱をつけて内を擦られて背中がビクビクと震える。

 質量と熱に浮かされて喉が塞がってしまい、顎が痛むほど奥歯を噛んで続けざまに与えられる快感を堪えた。

 和彦の背中にしがみつけないのがツラい。  指跡も爪跡も、想いさえ残せない。

 いくら揺さぶられても、縛られた手首はほんとに解ける様子がなく、和彦が腰を動かす毎に縄と化したシャツがピンと張って締め付けてくる。


「んんんっ……っ、やっ……! ほどいて、おねが……っ、これ、ほどいて……っ」
「……もう少しだけ」


 力強く腰を抱く和彦に涙目で訴えても、許してくれる気配がない。

 熱過ぎて感覚がなくなった下腹部は、俺の精液とローションでドロドロだった。

 和彦は最奥を突くタイミングで俺の性器を前触れなく扱いて、幾度となく射精を促してくる。

 何度も降ってくる唇が、呼吸さえも奪い去ってくみたいで息も絶え絶えだ。

 苦しくて、痛くて、それでも狂いそうなくらい気持ちよくて、和彦の巧妙な腰使いに頭が朦朧としてきた。

 謙遜が嫌味に思えるほど和彦の立派な性器が、幾度となく内壁をぐちゅぐちゅと犯す。

 広い背中を抱き締められない腕と手のひらを恨んで、握り拳を作った俺は瞼を閉じた。


「七海さん、あなたを忘れられないと言っている男の数を知っていますか?」


 眠かったわけでも、意識が飛びそうになったわけでもなかったのに、ググッと奥を貫いた和彦はそのまま動きを止めて俺に覆い被さった。

 唐突な質問に、まったく働いていなかった脳は思考停止からなかなか回復しない。

 しかも、そんな事を急に聞かれても知るわけがない。


「んんっ? ……なに……っ? そん、なの……っ、知らな……っ」
「四十九人です」
「は、っ? やっ、うそ、……待って……っ、また……! あぁぁっっ──!」


 正解を言われても「嘘だろ」としか思えず、うつろに和彦を見上げると優しくない笑顔でジッと俺を見ていた。

 そして、腰を引く。

 襞を擦る粘膜音を聞かされて、両足首を持ち上げられた。

 全部丸見えの恥ずかしい格好をさせられて瞬きを繰り返すと、ずちゅ、ずちゅ、と柔らかく浅く、中を抉られる。

 先程とは角度が変わったせいで、ダイレクトに和彦の亀頭が前立腺を擦り上げた。


「んんん……っっ!」


 性器の先端から、ぽたぽたとお腹に先走りが零れ落ちるのが分かった。

 無論、俺のだ。

 何度目か分からない射精にはほんの少し足りない刺激に涙を流す俺を見て、和彦は嬉しそうに微笑む。


「僕入れて、五十人。キリ良く僕と出会えて良かったですね」
「へっっ? あっ……っ……うん、うんっ」


 「良かったですね」の意味は分からなかったけど、和彦がそう言うならと頷いた俺は迂闊だった。

 微笑みを消した冷たい瞳で俺を射抜いた和彦は、ベッドに両手を付いて容赦なく最奥を犯す。


「……っ……、や、っ、……─っっ!」


 一気に挿入されて、顎と背中が仰け反った。

 濡れきった孔からローションが弾けて腿を汚し、俺の体にはピリピリと小さな電流が走り抜ける。

 ──頷いちゃいけなかったんだ。

 明らかに怒っている顔で、二分の一を外した俺のほっぺたに口付けた和彦が、縛られた手首に視線を移す。


「……なんて言うと思いましたか。初めてを守り通した事はたくさん褒めてあげます。でも男達をメロメロにしてきたのは許せない。あの男達一人一人の大脳皮質から七海さんの記憶を消し去りたい。そういう事が出来る機関を今探しています」


 働かない意識の中、必死で和彦の言葉の意味を探っていた俺は、やっと、和彦が何の事を言っているのか分かった。

 四十九人って、過去の合コンで俺が口説かれた男達の数なんだ。

 でも、酔っ払って声を掛けられたとしても、和彦に奪われるまで「初めて」を守り通した俺だ。

 俺を忘れられないなんて、何かの間違いじゃないの……?


「そ、……そんな奴、っ……居ないだろ……っ? 俺、ちゃんと……、断ってきた、よ……っ?」
「説得が成功している人は誰一人居ません。皆さん、七海さんの事を密かに想い続けていたんですよ」
「え……っ?」
「恋を知りたい、恋をしてみたいと純粋だった七海さんは、知らない間に何人もの男達から恋心を向けられていたんです。……罪な人だ」
「知らな……っ、知らない……! そんなの、知らなかっ、た……!」


 苦しげに笑う和彦は腰を回し、熱を持った脈打つ性器でぐちゅ……と中を掻き回される。

 弾け飛ぶ威力もなくなった精液が、陰茎を伝って先端から流れ落ちた。

 もう、俺の下腹部はびしょびしょだ。

 お構いなしに突き上げてくる和彦は、怒りと一緒に別の感情も伝えてくるから怒るに怒れない。

 うわ言のように「好きです」と言葉にされ、触れてくる手のひらからは確かな深い愛情を感じ取った。

 責められてると分かっていても、俺が和彦に返してあげられる手段を奪われている今、どうする事も出来なかった。


「七海さん、自覚を持ってください。あなたは魔性の男なんです。二度と飲みの席には行かないと約束してください」
「……んっ、……っ、んっ……、んん……!」
「不安で仕方ないですよ。究明した事実が僕の予想を遥かに上回っていたんですもん……。もうどこへも行かせたくない……他の人間の目に晒しておきたくない……」


 知らなかったとはいえ、俺が無防備に「理想の恋」を求めていた後ろめたさと事実は変えられない。

 俺はもう、俺の事しか見えてない純白な愛を持った恋人が居るんだから、不安になんてならないでほしかった。

 照れくさくて、それを言葉にするのはめちゃくちゃ難しいけど、俺なりの愛情表現を和彦はもう知ってるはずだ。


「……和彦、っ……これ、ほどい、て……ぎゅってしたい……っ!」
「約束、してくれますか? 他の男に魔性は出さない、飲みには行かない、出来れば他の人と目を合わさない、それから……」
「多いよ……! 約束、覚えらん、ない……! あぁっ……っ、も、分かった、言う通りにするっ、だから……お願いっ、ほどいて……! ぎゅって、させて……!」


 軋むベッドの音が激しくなるにつれて、和彦の体温を感じられない事が歯痒くて仕方なかった。

 ──恥ずかしげもなく甘えを口にした事で、俺の「恋」の自覚が唐突に芽生えた。




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