優しい狼に初めてを奪われました

須藤慎弥

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本心 ─和彦─

2※

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 先端を挿れる直前に最大の魔性を向けられた僕は、七海さんの潤んだ目尻にキスを落として覗き込んだ。


「痛くしないです。たくさんぐちゅぐちゅしましたから。それに、僕のはそんなに大きくないので大丈夫」


 あんまり見詰め過ぎたら吸い込まれてしまう。

 初めての挿入の際、七海さんはよく眠っていたからこの感覚を知らないんだ。

 完全に怖じ気付いていて、僕が腰を持っていないと逃げてしまいかねない。

 怖いなら、七海さんの心が落ち着くまで待つ。

 そう思っていたのに、待ち望む魅惑の場所に入りたくてたまらない僕の分身が、思考を無視して勝手に侵入を開始した。


「へっ!? や、待っ……待っ、……おねが、待って……っんんん──っ!」
「……っ、……七海さん、……少し力抜きましょう」


 挿入してはみたものの、亀頭が押し潰されそうなほどの締め付けにあった。

 あの時よりも丁寧に念入りにほぐしたのに、狭過ぎてなかなか先が入らない。

 強引に押し入って七海さんを泣かせたくないから、中が僕の存在に慣れるのをひたすら待つことにした。

 先端を挿れてから動かなくなった僕を見上げて、七海さんは早くも荒く呼吸しながら怒っている。


「大きく、……ないって嘘、っ吐いた……!」
「ふふっ……嘘になるのかな? 他を知らないので分かりませんね」
「ぜ、ぜんぶじゃ……ないんだろ、? ……なんで、動かない……の……っ?」
「七海さんを無理に犯したくないから」
「……っっ……!」


 分かってほしかった。

 あの時の僕とは違う。

 張り詰めて、締め付けられて、温かい中は誘惑が強過ぎる。思う存分腰を動かしたいよ、僕も。

 でもそれじゃダメだから。

 七海さんは「ドキドキする」とは言ったけれど、「好き」とはまだ言ってくれていない。

 視線の迷いはまさしくそれを意味していて、気付き始めたばかりの七海さんは僕との「恋」を見定めている。

 ──恋をしましょう、七海さん。

 好きだという気持ちを乗せた僕の行いが、どれだけの幸福感を与えられるのか。

 僕は今、すでに昇天しそうなくらい舞い上がっているけれど、愛し合ったその先にはさらなる幸せが待っていると確信した。

 七海さんにも伝わってほしい。

 僕の後悔と熱烈な好意を知れば、七海さんも自身の本心に気付いて本物の笑顔を見せてくれるはず──。


「和彦、……そ、そんな見ないで……」


 照れてほっぺたどころか顔中を真っ赤に染めている七海さんは、口調がたどたどしい。

 自分でいじっていたという後孔を、意識あるうちに他人に貫かれようとしているのに、その表情は憂いを含んでいた。

 もちろんすぐにでも動きたい。

 七海さんの中は程良く熱くて、しっとりとぬめっていて、僕を離すまいと締め付けて終始誘ってくる。

 あげく、潤んだ瞳で不安そうに見上げてくる迷いの視線は、男の性を無条件に駆り立ててきて危険そのものだ。


「七海さんの魔性は恐ろしいですね……。優しくしたいのに、出来ないかもしれないですよ」
「んっ……」
「少しずつ挿れますから、もし痛かったら言って下さい。すぐに止めます」
「……んぁっ……ん、ん、……っ……!」


 七海さん、……苦しそうだ。

 うるうるした瞳は固く瞑られていて、眉間にはくっきり皺が寄っている。

 僕も、こんなに挿入に時間を掛けた事がないからたっぷり汗をかいた。

 おかげで食事会で飲まされた酒はほとんど抜けたけれど、ほっぺたを撫でても唇を舐めても反応がない七海さんが、ちょっとだけ心配になってきた。

 迷いはあっても嫌がっていないし、むしろ僕の肩や腕を遠慮がちに掴んでくるから、離れがたいのかなと思う。

 上体を密着させて離れると、どこ行くのと言いたげに薄目を開けて僕の二の腕を掴む。

 こんな事されたら、僕は優しくなんて出来ない。……かもしれない。

 かなりしつこいらしい僕のセックスに、初めて同然で華奢な七海さんを付き合わせてしまうと、本当に壊しかねない。


「僕の秘密道具捨てちゃったからなぁ……。七海さんにこそ必要だったかもしれないのに……」
「……んんっ……! なに、……っ? 秘密、どうぐ……?」
「あ、いえ。なんでもありません。もう少しです、あと半分」
「は、半分……っっ? まだ半分しか……っ?」


 はい、と頷くと、驚いて開けてくれた七海さんの目がまた固く閉じられてしまう。

 僕のものを、七海さんの内襞が捕らえて離さない。

 指先に感じたいいところを擦ってあげたくても、こんなに締められていると動くに動けないから……七海さんが僕の存在に慣れてもらうしか方法が無かった。

 そのためにじわじわ挿入れている。

 首筋に痕を残したり、乳首を甘噛みするとギュッと締め付けられるけれど、その後少しだけ力が緩むと分かった。

 だから僕は繰り返した。

 七海さんの肌という肌に吸い付き、舐め上げ、赤々とした痕を残し、所有の証を見て挿入を深めていく。


「七海さん、……ぜんぶ入りましたよ。痛くないですか?」
「……痛く、ない……っ、でもくるし、い……熱いよ……っ」
「僕もです。七海さんの中は狭くて熱くて、火傷しそうだ」
「……ん、……、……はぁ……、っ」
「まだ動かないから安心してください。まずは慣れましょう、七海さんは初めてだから」


 数十分かけて竿部分まで挿入れ終えると、襞が性器に纏わり付くようにぴたりと嵌り、それだけで僕の先走りが七海さんの中を犯していると分かる。

 七海さんが苦しげに息をする度に、僕にも吐息が内から伝わって、繋がっている事を実感した。


「なに、言って……? 初めてじゃ……、ない、だろ……っ?」



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