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強制同居
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「僕の自宅は一般的とは言い難いので、無闇に出歩くと迷子になりますから気を付けてくださいね」
「え……? ……これ……家?」
「はい。僕の自宅です」
到着した和彦の自宅は、まるでお城みたいだった。
広大な敷地に建つ大きな西洋風の邸宅は、見るからに金持ちが住んでそうだ。
敷地内には森のように生い茂った、けれどきちんと手入れされている植物園のような庭もある。
そこは昼間、番犬のドーベルマン三匹と小型犬三匹が走り回っててもおかしくない(勝手なイメージだ)。
「すご……」
「僕の部屋は三階にあります。僕しか住んでいないフロアだから、七海さんもゆっくり出来ると思います」
「……家でフロアとか聞いた事ない」
「一般的ではない、と言ったでしょう」
「度を越してる。……また熱上がりそ……」
後藤さんの運転する車は豪奢な玄関前で停車し、お姫様抱っこされた俺は咄嗟に和彦の首にしがみついた。
この状態で家を出て来たから、靴を履いてないって事に今さら気付いた愚かな俺だ。
家なのかお城なのかホテルなのか分からない、立派過ぎる佇まいに盛大に引いている。
後藤さんが俺達を「様」付けで呼んでたのは、和彦が本物の金持ちだったからなんだ。
教育係だのお目付け役だの、そんなの本気で言ってんのかよって半笑いだったけど、……これはどうやらガチみたい……。
「あぁ、忘れてました。座薬の出番が近いですね。朝食に合わせて深夜に入れましょう。夜中は僕が付きっきりで看病を続けますからね」
「いっ!? 座薬は嫌だってば! もし入れる事になっても自分で……」
「何を言ってるんですか、自分で入れるなんて。……それも見てみたいですね」
うっ……怖い。
優しげな和彦の笑顔が今は企みのそれで、ひたすら怖い。
しがみつかなきゃいけない状況なのがただでさえムカついてしょうがないのに、和彦の言う通り「おとなしく」してる自分がまた嫌だ。
……いい、もういいよ。
油断してたら突然狼に噛まれてしまった、って事で昨日の事は忘れてやるから、俺に関わらないでよ金持ち和彦……。
「和彦様、どうか粗相は致しませんよう」
「粗相って。信用ないなぁ」
「和彦に信用なんてあるか!」
「……七海様もこう仰っております。 和彦様は責任を……取らなければなりませんね」
「そうでしょ。こんなに早く後藤さんの理解を得られるなんて思わなかったな」
「和彦様が人を愛でる姿を見られるとは、後藤も想像だにしておりませんでした」
「ふふっ、素晴らしい事だよね」
ねぇちょっと、後藤さん。何やってんの。和彦を止めてよ。
和彦を叱咤していた、唯一まともそうだった後藤さんは何やら感慨深げに玄関の戸を開けて、「どうぞ」と頭を下げた。
「おかえりなさいませ、和彦様」
……っうわ、メイドさんみたいな人がいる……!
帰宅した和彦へ一斉に恭しく頭を下げてきたのは、揃いの制服を着た四人の女性達だ。
歳は若い人から年輩の方まで様々で、テレビの中でしか見た事がない光景を前に俺の頭はさらに働かなくなった。
このままだと、俺の脳ミソどうにかなっちゃうよ。
「ただいま。今日からこの子が僕のフロアに住むからね、よろしく頼みます」
「かしこまりました」
「明日の朝食は六時、胃に優しいものを」
「かしこまりました」
しれっと告げる和彦に、何の疑問も抱いてない素振りで頭を下げるメイドさん達。
和彦の腕に抱かれてる俺には一瞥もくれない、挨拶する隙もない彼女達はただただ職務を全うしようとしている。
和彦と対峙していた後藤さんとは少しだけ、……様相が違う。
「な、なぁ、俺マジでここに住む……っ」
「その話はベッドの上でね、七海さん」
俺の台詞を遮った和彦に、人差し指を唇に押し当てられて微笑まれた。
そんな意味深に言うなよ、メイドさん達絶対聞いてるよ。
「それでは和彦様、七海様、おやすみなさいませ」
「うん、おやすみ。後藤さん、呼び付けてごめんね。ゆっくり休んで」
「はい。……粗相はしませんように」
「しつこいよ」
メイドさん達と後藤さんの手前、和彦に「しつこいのはお前だ!」と言いたい気持ちをグッとこらえて、俺は後藤さんにペコ、と頭を下げた。
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