優しい狼に初めてを奪われました

須藤慎弥

文字の大きさ
上 下
22 / 206
初めての看病 ─和彦─

しおりを挟む



 その後、七海さんとの電話で体調を崩してると知った僕は、いても立ってもいられなかった。

 後藤さんの運転で七海さんの住むアパートへ行くと、そこには知らない男が居て体中の血の気が引いた。


 頭が痛いって言いながら、男を家に上げるなんてどういう事なの。
 昨夜、それこそ数時間前に僕と寝たばかりだよ?
 もしかしてこの男とも体の関係があるの?


 僕はイライラし過ぎていて、我を忘れていた。

 相手の睨みに応えて口頭での言い合いも過熱したその時、七海さんは「頭が痛い」と呻いた直後、全身から力が抜け気を失ってしまった。


「七海さん!!」
「七海!!」


 僕と男が両腕を掴んでたから倒れさせはしなかったものの、だらんとなった七海さんの呼吸は荒く、ツラそうに眉を顰めていた。


「七海! ……おい、お前手離せよ」
「そっちが離してください」
「お前七海に嫌われてんだから、さっさと帰れよ」
「帰らないです。七海さんが目覚めるまでここに居ます」
「うぜぇ。そういうの逆効果だって知らねぇの?」
「逆効果って意味が分かりません。とにかくベッドに寝かせてあげましょう、僕達の言い合いに付き合わせては可哀想です」


 男から七海さんを強引に引き離して抱き上げ、ベッドに横たえて布団をかけてみる。

 触れてみたおでこやほっぺたが熱くて、瞼にかかる前髪をかき上げても眉はずっと険しいままだった。


「七海さん……頭が痛いって風邪引いてたからなんだ……」


 僕が無理やり抱いたせいで病状を悪化させてしまったのかもしれないと思うと、罪悪感でいっぱいだった。

 こんな事になるなら、目覚めるまであのまま寝かせてあげればよかった。

 嫉妬に駆られて、七海さんを僕のものにするんだって唐突に湧いた独占欲に負けた僕の理性の無さは……罪深い。


「ごめんなさい、七海さん……」
 

 僕の気持ちを七海さんに伝える前に、謝らないといけない。

 謝って済む事じゃないけど、七海さんが目覚めたらたくさん謝って、僕の気持ちをちゃんと伝えなきゃ。

 もしかしたら昨日から体調が悪くて、それなのに襲われた七海さんが僕に「帰れ」って言うのも当然だと思った。


「お前マジで七海とヤったの?」


 背後から七海さんに触れようとしてきた黒髪の男の手を、即座に払い除ける。

 僕の七海さんに気安く触らないで。


「はい。僕は友達以上を目指しています」
「なんだよ友達以上を目指すって。てか「友達」ならヤるなよ」
「そう言われましても、七海さんはそういうお友達が多いようですから。昨夜も僕と過ごさなければ違う「友達」と会っていたみたいですし」
「昨日約束してたのは俺」
「え……?」


 男の言葉に、ゆっくり振り返ってその飄々とした面を睨み上げた。

 聞きたくない。

 この男も「友達」だなんて。

 七海さんの体を知る男は全員、一人残らず滅びればいいのに。


「昨日ドタキャンされたんだよ。誰かさんと寝てたらしくてな。嫌いな相手と寝る羽目になるなんて、お前よっぽど強引に迫ったんじゃねぇの」


 目を細めて睨んできた男の真似をして、僕も瞳を細めて睨み返した。

 なんなの、さっきから。

 僕にずっと対抗意識を燃やしてくる男にどこか余裕の無さを感じ、「七海に嫌われてる」を常套句として振りかざしている。


「でも良かったわ。たとえセックスしたのが本当でも、お前七海に嫌われてるみたいだからな。それ以上に発展する事はないだろ」
「……それは分からないじゃないですか」
「そういうの、うぜぇって言ったろ? 追い掛け回すと人間は逃げるように脳内構造がそうなってんだよ」
「そんなの信じません。僕の感性が七海さんを欲してる。それに向き合うまでです」
「そうやって追い掛け回してもっと七海に嫌われたらいいよ。俺はそっちのが好都合」


 嫌な言い方だ。僕が七海さんを求めている事実を嘲笑するなんて、それほどこの男に余裕がない証拠だ。

 ……焦ってるのかな。

 この男も七海さんに「友達以上」を望んでいるから、恋敵となる僕にひたすら牽制をかけたいだけに見える。


「……あなたも「友達以上」を求めているのですか」
「知らね。……チッ、誰だよ」


 知らないって、やっぱりそういう事なんじゃない。

 舌打ちした男が鳴り響くスマホを取り出して、会話のために向こうへ言ったのを見てから僕は七海さんの熱い手を握った。

 布団を掛けてから汗をかき始めていて、部屋中の引き出しを開けて探し出してきたタオルでそっと拭ってあげた。

 苦しそう……でも可愛い……。

 僕はおかしいのかもしれない。

 熱にうなされて苦しんでる寝姿すら、ちょっと油断したら興奮しそうになる。

 そうだ、七海さんは魔性の男だった。

 意図しない今も、僕を狂わせ続ける本当の意味での魔性を、七海さんは放っているんだ。


「おい、助教に呼ばれたからここ出るけど、用が終わったら俺は戻ってくるからな。お前絶対七海に手出すなよ。弱ってる相手に……」
「分かっています。どうぞ行かれてください」
「……七海、一時間くらい前に頭痛薬飲んでっから」
「分かりました」


 行ってらっしゃい。もう戻ってこなくていいよ。

 恋敵なんていらない。

 僕の七海さんに、他の誰も、恋する事すら許さないよ。



しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

続きは第一図書室で

蒼キるり
BL
高校生になったばかりの佐武直斗は図書室で出会った同級生の東原浩也とひょんなことからキスの練習をする仲になる。 友人と恋の狭間で揺れる青春ラブストーリー。

処理中です...