優しい狼に初めてを奪われました

須藤慎弥

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七海さんは魔性の男 ─和彦─

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 寝ている七海さんを組み敷くのは容易い。

 無防備で、小柄で、万が一目が覚めて暴れられても押さえ込める。それだけ体格と力の差が歴然だからだ。

 ただ、僕にもやり口の悪辣さの自覚があるから、これからどうするべきかをすごくすごく迷っていた。

 華奢な体をぎゅっと抱き締めて、頭の中で葛藤しつつ何十分も飽きずに七海さんの寝顔を見詰めていて、それだけで僕は勃起した。

 可愛い子リスみたいな寝顔だけで昂ってしまい、閉じられている瞳が開いて儚く笑い掛けてくれるところを想像しただけで、イきそうになる。

 柔らかなほっぺたに触れると、寝ているはずなのに手のひらに頬を寄せられて、あまりの可愛さに我慢出来ずに下唇を食んだ。

 可愛くて可愛くて、いつまでも見ていられる。

 七海さんは、家で飼ってるシマリスにそっくりだ。

 起きてる時の七海さんの瞳は大きくて少し目尻が上がり気味。

 鼻も口も小ぶりで、僕が目一杯口を開けたら一緒くたに収まりそうなくらい。


「どうして無理して笑うのかなぁ……」


 ほっぺたに手のひらを置いたまま、親指で七海さんの唇をなぞる。

 あの合コンの場で満面の笑みでずっとニコニコしてても不気味だけど、七海さんは誰よりも楽しくなさそうだった。

 はしゃいでるみんなとは距離を取って、終始裏方に徹していた七海さんを僕はずっと目で追っていた。

 幾多の男達をメロメロにしてきたという秘密の策の全容を知らないまま、僕はこうして犯罪紛いな事に手を染めて困惑するなんて……七海さんの「魔性の男」の異名だけは正しい。


「もう……何なの、さっきから……」


 うるさいなぁ、と呟いた僕は、ベッドから下りて七海さんのジーパンのポケットからスマホを取り出す。

 何度も何度もLINEメッセージの受信音が聞こえてきていて、その度に葛藤から気を逸らされてイラッとしていた。


「「七海どうしたんだ?」「七海もう帰るぞー」「七海また連絡して」……って、あぁ……もしかして今日の男なのかな。七海七海ってしつこいよ」


 すかさずその男をブロックして、七海さんのスマホに僕の番号を登録しておいた。

 ついでに位置検索アプリをダウンロードし、僕のスマホから七海さんが今どこに居るかが特定出来るように設定した。

 こういう生々しいやり取り見ちゃうとダメだな。

 一刻も早く七海さんを僕のものにしないと。

 グズグズ葛藤してたら、あっという間に夜が明けてしまう。


 ──七海さん、僕……ちゃんと責任は取りますからね。


 スマホをポケットの中に戻した僕は、洗面所で見付けたボディローションを手にベッドへと戻る。 嫉妬心から駆り立てられた、行為に及ぶために。

 後ろを解すのは初めてじゃないけど、何だか合コンに来る前以上に緊張した。

 やり慣れた……って言い方はよくないからしたくない。

 でも、初体験の時ですら緊張なんてしなかったのに、七海さんの足裏を持ち上げただけで心臓がバクバクし始めて倒れそうだった。


「ふぅ……」


 一度深呼吸し、ローションを指先に取ってとろとろと綺麗な色した穴に塗りたくる。

 じわっと中指を入れてみると、物凄い抵抗にあった。

 この挿れ始めのキツさは想定内だ。

 問題はここからで、括約筋を解す時間と指先の感覚で七海さんのこれまでが分かる。

 僕はその瞬間まで、諦めきれずに信じていた。

 あんなメッセージがきてたとしても七海さんは男漁りなんてしない、悪魔なんてとんでもない、大人しく優しい見た目と中身そのまま、純粋そのものな七海さんであってほしい──あわよくば初めてだといいな、なんて。


「……あぁ……」


 ……けれど、七海さんのそこは指先を増やして慣らしていくと、解れてくのにそう時間は掛からなかった。

 来る前にシャワーを浴びてたからか中も綺麗で、日頃から慣らしてるなってそれだけでもよく分かる。

 人差し指と中指をくにくにと動かして襞を擦ると、七海さんは虚ろに啼いていてそれも腹立たしかった。

 こんなに可愛い声を上げて、お尻をモソモソと動かして無意識に僕の指をいいところに当てようともがくなんて、……絶対初めてじゃない。

 イライラする。

 本当に、僕はどうしちゃったのってくらい、怒りと嫉妬で胸が苦しかった。

 僕達は初対面。

 七海さんの事は、今日良からぬ噂と共に数時間前にその存在を知った。

 それなのにどうしてこんなに胸が苦しいの。痛いの。

 僕にどんな策を仕掛けたっていうの、七海さん……。


「……っ、……っ……ふっ……んあっ……!」


 たっぷりほぐしたそこへ、いきり立つ自身をゆっくりと挿入していく。

 ピンク色の乳首が赤く腫れてしまうくらい舐めて、吸って、甘噛みした。


 ──もう起きていいよ、七海さん。ううん、起きて僕の事を見なきゃダメ。今あなたを抱いてるのは僕だからね。他の誰でもなく、僕なんだからね。


 目を覚ましてほしいと願いながら腰を回して揺さぶってみると、七海さんの瞳が薄っすらと開いてゆく。

 あー……なんて可愛いの。

 僕のものにしたい。

 もう誰とも寝てほしくない。

 これから先この体を味わうのは、僕だけでいい……。

 七海さんが覚醒する間際、僕は上体を密着させて赤い玉ピアスの光る耳たぶを少しだけ強めに噛んだ。

 僕の理性を簡単に地に落とした甘い啼き声が間近に聞こえて、驚いた形相の七海さんに意地悪に囁く。


「七海さんは本当に初なフリがうまい」
「……あっ、いや、っやめて……、……やっやだっ……!」
「こんなに簡単に解せるだなんて、すごいな。今までたくさんの人と交わってきた証拠ですね」


 グイ、と中を突き上げると、七海さんの喉が仰け反って背中まで大きくしなった。

 こんなにセックスが気持ちいいと思った事はない。

 最中にこれだけ苛めたいと思った事も。

 肩口に強く吸い付いてみれば、「痛い、何してんだ」って初な台詞を吐いてくる唇がひどく……憎らしかった。







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