8 / 206
初めてを奪われました
3
しおりを挟む夜中にひとり暮らしの自宅に到着すると、シャワーを念入りに浴びて着替えもそこそこにベッドに入った。
タクシーもなかなか捕まらなかったし、体にまとまりついた体液は時間が経つとパリパリになってにおいが濃くなるって知らなかったから、それを落とそうと躍起になってシャワーだけで一時間は入ってたんじゃないかな。
どうでもいい事をどうでもいい男に知らされる羽目になって、苛立ちが治まらない。
いや、──とにかくもう忘れよう。
こんな初エッチの思い出なんか、夢だったって事にして記憶から消してしまうのが一番だ。
「うぅ……だるい……」
ベッドに横になっても、居酒屋で意識を飛ばす前のだるさをまだ引き摺っていて、変な感じだった。
初めてのセックスの後にちょっと走り回ってしまったから、そのせいもあるのかもしれない。
普段はあの程度の酒量じゃ酔わないっていうのに、今日は一体どうしちゃったんだろ……。
和彦の言っていた「噂」というのも気になるし、……って、もういいや。
忘れるったら忘れるんだ。
目を閉じてもしばらく眠れずコロコロと体勢を変えていた俺は、疲労困憊も手伝っていつの間にか眠りに堕ちていた。
翌日、授業に出てこない俺を心配する山本からの着信で飛び起きた俺の目覚めは、最悪だった。
だるさが継続中で上体を起こせなくて、しかも頭がズキズキと痛い。
正直にそう山本にも伝えると、『大丈夫か?』とさらに心配された。
「大丈夫。それより昨日はごめんね、最後まで居てあげられなくて」
『七海が酔い潰れるのなんて初めてだから焦ったぜ? マジで大丈夫?』
「大丈夫、大丈夫。でもちょっと頭痛いのはしんどいから、今日は大学休むね」
『おぅ、分かった。そういや、あれから和彦とはどうなったんだ? 七海酔い潰れたんならいつもの諭しは出来なかったんじゃね?』
「……い、いや、何も覚えてない。気付いたら家に居たよ」
そうか……昨日は酔い潰れた俺を和彦が送ったっていう体になってるんだな。
俺の性癖を知る数少ない友人である山本も、昨日の悪ノリに申し訳無さを覚えてるらしい。
でもあの王様ゲームという建前が無くても、昨日はあぁなってたと思う。
和彦の粘着と勘違いはちょっと尋常じゃなかったからな。
だからって、和彦から初めてを奪われた…なんて山本に言ったら、それこそ気にして気まずくなってしまう。
余計な事は言わないに限ると、俺は何もなかったフリをした。
『そうなんだ? まぁ俺は昨日収穫あったから、和彦連れ出してくれた七海にはマジで大感謝! ありがとな!』
「そ、そう、良かったね。その話は明日ゆっくり聞かせて」
引くくらいギラギラしていた山本がうまくいったんなら、それだけでも良かった。
通話を終えてスマホを枕元に置くと、我慢できない尿意には逆らえず無理矢理体を起こす。
トイレを済ませてその流れで歯磨きして顔を洗っても、頭痛は解消されない。
仕方ないから今日は一日ベッドの住人を決め込んで、温もった布団に包まるとちょっとだけ気が休まる。
昨日の和彦とのセックスは考えないようにして、再び目を閉じた。
「はぁ……」
腰の鈍痛や穴の違和感が拭えないから、自然と溜め息が漏れる。
でもまぁ、山本が彼女を作ってくれさえすれば、俺への合コンの誘いもほとんど無くなるからな。
声がやたらと明るかったとこを見ると、一晩だけの相手ってわけでもなさそうでそこも安心だ。
何だか俺の妙な噂が流れてるみたいで怖いし、誘われても近々は行ってあげられないなと思ってたからほんとに良かった。
「それにしても……悪魔とか魔性の男とか……誰だよ、そんな事言ってんの……」
和彦が聞いたという俺の噂は、決していいものではなさそうだ。
合コンで知り合って誘われたと言っても、俺は誰にも体を許してないし、知らない人とはキスすらした事ない。
一次会で抜けてホテルに直行しようとした男にですら、「飲み直そ」と言って居酒屋やBarに無理やり連れて行く。
そこでするのは、「諭し」という名の盲目解除だ。
めぼしい収穫が無さそうな場合、小さくて華奢で、容姿だけは女の子に負けない(と、自負する)俺がその場に居るとどうしても狙いにやってくる。
ゲイの立場からすると、ノンケが男を好きになる可能性なんてゼロに等しいと思ってるから、ホテルで俺の体を見せる前に目を覚まさせてあげるんだよ。
やる気満々で合コンに参加して、酒も入り、薄暗い店内で気分も盛り上がって、「男でもいい」と鼻息荒くしてる奴は絶対、俺の裸を見た瞬間……後悔するに決まってる。
だって、俺が女の子に勝てるものなんて何一つないもん。
男にしてはちょっと華奢で中性的な顔してるってだけで、体はちゃんと男なんだから。
それが分かってていざとなった時ガッカリさせたくないし、されたくもない。
酔っ払ってても、しっかり目を見て真剣に諭してあげるとみんな分かってくれた。
だから、そんな悪い噂立てられるなんて心外もいいとこだ。
毎回毎回、面倒でも俺はそうやって自分の貞操を守ってきた。
それなのに……人を遊び人のように吹聴するなんて、誰だか知らないけどマジでヒドイ。
1
お気に入りに追加
661
あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる