恋というものは

須藤慎弥

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はじめての巣作り

10※

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◆ 天 ◆



 やわらかな色の中を、ただふわふわとたゆたうだけの夢を見ていた。

 薬の効果が切れて悶えてしまう前に、眠りにつくが一番。

 正気に戻って潤に詫びのメッセージを打ったあと、そそくさとシャワーを浴びた天はおとなしくベッドに横たわった。

 それからの記憶は、ふわふわ、ふわふわ。

 心が満たされているおかげで、発情期中にも関わらず睡眠の質がとても良い。

 天は今、どういうわけか効き目の弱い抑制剤の効果が切れると、ほんの少し潤がそばを離れただけで耐えられなくなってしまう。

 「鬱陶しい」と突き放されてもおかしくない行動を取っている記憶が朧気にあり、正気に戻るとどうしようもない気持ちになる。


 少しも離れないで。

 どこにも行かないで。

 お願いだから、そばに居て……。


 涙を流しながら懇願する時、天の意識はあるようで無い。本能のままに行動し、口が勝手に潤を困らせるような言葉を紡ぐ。

 しかし天は、それがたまらなく可愛いと言って頭を撫でてくれる潤の存在に救われていた。

 だから、こんなにも気持ちよく眠れる。

 これが抑制剤の副作用だとしても、今までと違ってまったく問題無いと思えるほど、心穏やかでいられる。

 行かないでと駄々をこねても、二人の将来のために天を置いて登校して行った潤は、「寝て起きたら僕は帰ってきている」と言っていた。

 それならば潤が帰ってくるまでの辛抱だと、彼の言う通りにしていれば間違いないと、横たわった天は脳裏に潤を思い浮かべてすぐ、深い眠りについた──。





「……っ、……」


 ひと際静かな空間を、そよ風になってふわふわと浮いていたところに、何やら先程から淫靡な音が聞こえていた。

 ぴちゃ、くちゅ、という粘液の擦れる音と共に、まるで大事なところを舐め回されているかのような興奮を覚える。

 じわ……と奥から湧き出す愛液を舐め取られ、何かでまたそこへ押し戻されてはくちゅくちゅと温かいもので柔くかき回される。


「……ん、はぁ……っ」



 下腹部がじんわりと熱くなる感覚も、自身の唇から漏れる吐息も、夢を見ているにしてはやけにリアルだ。

 やわらかな空間を漂っていた天は、ふと瞳を開いた。

 枕にしがみつき、ぼんやりと見えたのは新しい住まいとなって間もない部屋の、まだ傷一つ無いクリーム色の壁。

 夢から現実世界に戻ってきた天は、うつ伏せ状態でおとなしく一人寝していたにもかかわらず、呼吸が荒くなっている事にようやく気付いた。


「あ、っ……なにっ……? 潤くん、何して……っ?」


 臀部に触れた大きな手のひら。

 その間に顔を埋め、ひっきりなしに舌を動かし後孔を舐めている潤を発見するや、天の心臓は面白いようにぴょんと跳ねた。


「おはよ、天くん。ぐっすり眠ってたね」


 僅かに上体をお越し振り返った天の頭を、「いい子」と撫でる潤の微笑みにさらに心臓がドクンと鳴った。

 それからまた、し足りないとばかりに不埒な行為に戻る。

 天が覚醒し遠慮の必要が無くなったからなのか、ぴちゃっ、ぴちゃっと秘部を舐める舌が大胆になってきた。


「ひぁっ……!」


 ぐにゅんと舌根ギリギリまで入れ、中を舌でぐにぐに犯されると、さすがに腰が浮く。


「潤、くんっ……! なんで、……っ? なんで舐めてるのっ?」


 問うても、内壁への愛撫に忙しい潤は目線さえこちらに向けてくれない。

 鷲掴まれた膨らみに痛みを覚えるほど、それは執拗で淫らだった。


「んっ……は、ぁっ……っ、潤くん……っ」


 起きて早々に味わっていい刺激ではない。

 長い指で掻き回され、熱く太い性器で貫かれるならまだしも、舌を使って解されるのは初めてだ。

 潤滑液がなみなみと湧く天にその必要が無いというのもあるが、若い潤はそれほど長く前戯に時間を使わない。

 それはその時、天が潤の理性を打ち砕く台詞を口走ってしまうせいなのだが、それは都合よく天の知らぬところである。


「眠ってたのに、天くんってばエッチな匂いプンプンさせて……」
「あっ……っ、やだっ……! もう舐めない、で……っ!」


 顔を上げてくれたと思いきや、天にはどうしようもない恨み節を切なげに吐かれ、唾液混じりの愛液をジュルっと吸われると浮いた腰がガクガクと打ち震えた。


「どうして。僕の天くんなんだから、舐めようが噛み付こうがいいでしょ?」
「…………っ」


 頭を支えていられず、枕に突っ伏した天の耳に潤のくぐもった声が届く。


「よくないっ! あ、あぁ……っ! は、恥ずかしいんだよっ! 恥ずかしいから、やめ……っ」
「うーん。そんなの理由にならないなぁ」
「潤、くんっ」
「天くんが誘うからいけないんだからね。可愛くお昼寝してる姿だけで僕を誘惑しておきながら、よく言うよ。食べたくなっちゃうに決まってるでしょ」
「あっ……ぁあっ……」


 とろとろになったそこへ、ぐちゅりと指が挿入された。しかしその感覚が鈍く思えるほど天の後孔は濡れそぼり、指先で内壁を掻かれると次第に思考は奪われていく。

 気持ちよく眠っていた天は、潤を惑わす甘やかなフェロモンを放っていたかもしれない。だが、「こんなに濡らして……」といやらしく言葉で攻められるほど、当然欲情などしていなかった。

 天は潤の言いつけ通り、すやすやふわふわと寝ていただけだ。


 ──どうしよう……! 潤くん、もう意地悪モードになってる……!


 発情期中の恋人に悪戯を仕掛けた潤は、すでに理性を失っている。

 普段は意識的に封印している様子のα性特有の視線でチラと天を見やった潤から、芳しい匂いがした。

 天を意地悪に攻め立てる、隠しきれないΩ性への支配欲を本能から見せつけてくる今の彼に、何を言っても無駄である事は経験済みだ。

 そうなると天も、潤だけを責められなくなる。大好きでたまらない彼の視線と匂いに、脆い理性が崩されてしまう。


「天くん、腰動いてるよ」
「ひぁっ……! だっ、て……潤くんの指、きもちい……からっ……!」
「……ほらね。すぐそうやって僕を誘う……」


 フッと困ったように微笑んだ潤が、天の中から指を引き抜き、張り詰めた性器にコンドームを装着した。

 天はそれを待ち構えるように腰を浮かせ、恥ずかしいと呟いていた数分前の自身から嘲笑されるような台詞を、フェロモンと共に潤へと放つ。


「潤くん、いれて……っ、潤くん……っ! 潤くんがほしいっ……」



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