恋というものは

須藤慎弥

文字の大きさ
上 下
113 / 139
クリスマスSS『ビックリ箱』

─1─

しおりを挟む
side潤



 陽の短くなった真冬の夜道。

 勉強に差し支えない程度にはなってしまったが、潤は相変わらずBriseの看板店員の座を守っている。

 年が明ける度にアルバイトリーダーの打診をされるけれど、お世話になった店で働くのは残り僅かなので毎年返事は決まっていた。

 潤はひたむきに天との番関係を夢見ていて、院には進まない事を決意している。

 それは両親とも天とも話し合い、潤の人生だからと初めて通った自らの主張だった。

 あと一年頑張れば、天のもとへ行ける。

 親孝行な天は未だ恐縮している、彼の母からプレゼントとして贈られた2LDKのマンション。

 潤の事をいたく気に入ってくれている天の母との仲は良好だが、我が身内に関しては目を瞑っていたくなる。

 大学進学を機に本宅へ戻れという両親の言いつけを突っぱね、いつ天が訪れてもいいように鍵を変えてそこに住み続けている潤は、大人になりきれていない自覚があった。

 毎年クリスマスシーズンは混み合うため、閉店まで勤務しなければならないので天と過ごす事が叶わない。

 店内でイチャつくカップルを見ては羨ましい気持ちでいっぱいになり、家路に着くまでムッとしてしまうのも大人げない事柄の一つ。

 天の誕生日にかこつけて、年末年始を共に過ごせる事だけを楽しみにしているけれど……我儘を言えばやはり会いたい。

 スマートとはとても言えなかった当初のデートを振り返り、心に懐かしさと甘酸っぱさが広がる感覚でようやく平静を保つ。


 ──今日は一段と冷え込むから、ちゃんとお布団掛けて眠ってね。


 変わらず日課となっている就寝前の電話をしようと、台詞を口ずさみながらスマホと別宅の鍵を取り出す。

 その時だった。


「あ、──!?」


 ふわりと香った、天の甘い匂い。

 鍵を鍵穴に差し込み、思わずフリーズしてしまうほど衝撃的に舞い上がった。

 潤と天しか持ち得ないこの別宅の鍵。

 明らかに漂ってくる、αである潤にしか嗅ぎ分けられない天の香り。


 ──天くんが来てる……!?


 差し込んだ鍵をゆっくりと回し、扉を開く。

 〝潤くん、おかえり~〟という天の和みの声を期待した潤だったが、真っ暗な玄関先に足を踏み入れて再度フリーズした。


「え……?」


 薄暗い中でも一際目を引く、どデカい箱。

 靴を脱ぎ、カチッと電気を付け、念のため天の姿を視線だけで探してみた。

 しかし、どう考えても天のフェロモンはこの白い箱内から漂ってくる。

 付き合って約三年だろうか。

 天がイタズラ好きだとは知らなかったが、間違いなくこの中に居る事だけは分かる。

 潤を驚かそうと身を潜めている天を想像すると、嫌でも口元がニヤついてしまった。

 目の前にこんなものがあれば驚く方が不自然かもしれないけれど、天のイタズラに付き合うのも恋人の役目であると判断した。


「う、うわ~これ何だろ~? 何が入ってるのかなぁ?」
「………………」


 わざとらしいかと思いつつ、箱に向かって声を張る。

 しかしまだ出てくるつもりは無いらしい。


 ──あっ、でも匂い濃くなった。 ドキドキしてるんだ……♡





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

【完結】嘘はBLの始まり

紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。 突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった! 衝撃のBLドラマと現実が同時進行! 俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡ ※番外編を追加しました!(1/3)  4話追加しますのでよろしくお願いします。

【完】三度目の死に戻りで、アーネスト・ストレリッツは生き残りを図る

112
BL
ダジュール王国の第一王子アーネストは既に二度、処刑されては、その三日前に戻るというのを繰り返している。三度目の今回こそ、処刑を免れたいと、見張りの兵士に声をかけると、その兵士も同じように三度目の人生を歩んでいた。 ★本編で出てこない世界観  男同士でも結婚でき、子供を産めます。その為、血統が重視されています。

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

偽物の僕は本物にはなれない。

15
BL
「僕は君を好きだけど、君は僕じゃない人が好きなんだね」 ネガティブ主人公。最後は分岐ルート有りのハピエン。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

処理中です...