恋というものは

須藤慎弥

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ハロウィンSS 『警察官×ハムスター』

─2─

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 天は下着に一枚黄色い布を纏えば終わりなのに対し、潤は紺色のスラックス、ブルーのカッターシャツ、濃紺のネクタイを締めなければならなかった。

 二人はお互いを見ないようにしながら着替えを済ませ、声を掛け合って同時に振り返る。


「う、うわ……!」
「わぁぁ~~♡ 天くん……可愛い♡ ハムスターになるだけで僕の怒りを中和するなんて! その可愛さ卑怯だぞー!」
「えっ、ちょっ……潤くんのもよく見せてよ!」


 振り返った瞬間、一回り以上大きなイケメン警官から飛び付かれた天は、受け止めきれずに派手にベッドに転げた。

 見惚れて二秒後には押し倒されてしまい、堪能する時間をくれとハムスターは牙を剥く。


「ん? はい、どーぞ」
「かっこいいね……潤くん。 とても俺より四つも下とは思えな……」
「イーヤーだー、もうっ、それやめて? そんな事言う子には意地悪しちゃうからね、天くん。 僕だって意地悪出来るんだよ?」
「なんで意地悪するんだ! 褒めてるのにっ」
「だって僕というものがありながら、今さらあのときの警官が好きとか言うんだもん……。 思い出しちゃったの? フェロモンすごいよ?」
「いや、それは違……っっ」
「今日は首輪、しないでね」
「…………っ!」


 そういう意味で言ったのではないと、潤の勘違いにヒヤリとした天にまさかの言葉がかけられた。

 「天くんを傷付けたくない」と未だにしょんぼりと項垂れるわりに、α性としての本能が疼くのか発情期でない時にごく稀ではあるがその提案をされる事がある。


「潤くん……噛む気だな?」
「えへ、バレた? ていうか、警察官とハムスターってチグハグだけど僕たちらしいよね」
「うん……っ、あ……っ」


 ちゅっ、と頬にキスされ、照れた天の表情を見逃さなかった潤から唇を舐められる。

 ベッド脇に溢れた足を抱えられ、正式に押し倒された天は見上げた先の警官をやはり直視出来なかった。

 まじまじと見たいのに、あまりに似合い過ぎていてドキドキとうるさい心臓が壊れそうなのである。


「可愛い、天くん。 すごくよく似合ってるよ」
「潤くん、こそ……!」
「僕ヘンタイなのかなぁ……」
「な、んで……? んっ」
「こんな可愛いハムスターに欲情しちゃってるから」


 量販店で簡単に購入出来るものではなく、あえてハムスターを選んだ理由は何なのだろうか。

 キスの合間に何度も「可愛い」と呟く潤が、スラックス越しに膨らんだ性器を天の太ももに擦り付ける。

 自身のハムスターよりも、潤の方が何倍も素敵だと思うのだが……。


「潤くんのも、……っ、似合ってるよ……! かっこいいよ!」
「えー、天くん、思い出しちゃわない? あのとき右側にいた人のこと……」
「ん? なんで右側の人?」
「あの人αだよ」
「えっ!? 分かるの!?」
「同性は大体ね。 天くんと出会うまでは、自分の性別意識したくなかったからあんまり分かんなかったけど。 ……天くん、あの人がα性だから誘われちゃったのかな?」
「……っ、それは違うって言ってんのに!」


 その勘違いを口に出される度に、背中がヒヤッとする。

 天は、あの時の警察官の名前はおろか顔すら覚えていないというのに、どうやって思い出せるだろう。

 嫉妬を顕にした年下の恋人がヤケを起こし、今日はうなじを噛むとまで言い出している。

 説明するのは何とも恥ずかしいが、誤解されたままなのはうなじに牙を向けられるよりも嫌だ。


「あ、あのさ……俺、潤くんに初めて会った時、綺麗な男の人だなって思ったんだ。 だから……潤くんがあの制服着たら似合うだろうなって……俺は思っただけなんだよ……」
「えぇ……天くん……っ。 それほんと?♡」
「別に、顔も覚えない人のことをどうこう思ってるわけじゃないよ? ほんとだぞ?」


 頬を真っ赤に染めて白状した天の胸元を、黄色い布の隙間から撫で回していた潤が破顔した。


「……ん、分かった。 意地悪言ってごめんね、天くん」


 真意を知った潤は嫉妬から解放され、二人で目一杯買い込んだお菓子を食べることなくベッドでゴロゴロとイチャついた。



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