恋というものは

須藤慎弥

文字の大きさ
上 下
102 / 139
◆ 初体験 ◆※

第百二話※

しおりを挟む



 自宅へ帰ろうとした天の腕を取った潤に熱く見詰められた時から、覚悟は決めていた。

 まさか会社で潤に出くわすとは思わず、豊と兄弟だったという驚きの事実まで判明して困惑したが、会いたくてたまらなかった潤を目にした瞬間のあのときめきは、尋常ではなかった。

 嬉しかった。

 照れくさい気持ちより、抱き付きたい衝動の方が強かった。

 潤になら、支配されても構わない。

 潤になら、恐怖さえ感じていた自身の体を拓かれても喜びが勝るだろう。

  現に今、この状況でも逃げ出したいなどとは少しも思わない。


「ぅ、っ……ぅぅ……っ」


 だが潤のそれは、そのまま貫くと天の華奢な体を半分に引き裂いてしまいそうなほどの代物だった。

 先端をあてがわれ、くぷっと亀頭が侵入しようとしてきたその時、これは指とは大違いだと全身に力が入った。


「天くん、天くんっ、痛いんじゃない? 大丈夫っ?」
「ふぇ……っ」
「まだ先っぽも入ってないんだっ、抜こうか? 痛そうだよっ?」


 無意識に、涙声で何度も潤の名前を呼んでいた。

 僅かに入っている性器の先端の丸みが、たっぷりと解された内側に隙間なく埋まっている。

 情けない顔で涙目になった天を見下ろして焦った潤が、すぐに自身を握って早々と抜こうとした。

 天は縋るように腕を伸ばし、「そうじゃない」と頭を振る。


「ち、ちが……っ、痛くはない……。 すごいからっ。 なんか、ぶわって、迫ってくるかんじ……んぁっ」


 想像以上の圧迫感があったのだ。

 肉壁を拓かれる感覚も、挿入ってきた性器の熱さも思っていたのと違った。

 潤の指で念入りに解されて腰を揺らした、天の内部の潤滑は問題ない。

 心配されるような痛みもないので、とにかくこれが貫かれるという事なのかと驚いていただけだ。

 天が伸ばしたその腕を取り、ちゅ、ちゅ、と二の腕に口付けてくる潤は困り果てていた。


「ねぇ……どうしてそういうこと言うの?」
「えっ? ご、ごめん……」
「……可愛いよね、天くん。 ほんと、年上とは思えない」
「あ、うっ、ちょっと……待っ……」


 困ったように笑う潤に見惚れていた隙をつかれた。

 ぐぷぷっと愛液を散らして先端を突き入れられ、潤に掴まれた腰が浮く。

 どこが失言だったのか分からない。

 ゆっくりゆっくり、ほんの少しずつ性器を埋められていた天は、天井を向いた自らの両足を見て思わず目を背ける。


「はぁ、……やば……」
「あ、っ潤、くん……っ」


 潤のセクシーな吐息が、以前よりも天の耳を犯した。

 ただでさえ潤のフェロモンが濃くなっているというのに、片目を細めた恐ろしいほどの扇情的な表情で目もやられた。

 瞳を瞑ると、入り口をじわじわと往復して慣らそうとする性器の感覚がとてもよく分かる。

 どうしたらいいか、天は考えようとした。

 少しだけ体を起こし、もっと潤に近付けばいいのか。 否、勝手に動くと潤の好きにさせてやれないかもしれない。

 性器が襞を擦る、くちゅくちゅという卑猥な音が耳に入らないようにすれば、この羞恥が少しは無くなるのか。 否、耳を塞いでしまうと天の大好きな潤の声と吐息までも聞こえなくなる。

 痛くはないが怖くはあるので、本当は抱き締めていてほしい。 しかし挿入の時は離れているのが一般的で、あまり強請ると鬱陶しがられそうで出来ない。

 舌を絡ませるあのいやらしいキスをもう少ししてみたいけれど、潤も余裕が無さそうなので我儘は言えない。

 天は様々、正解の分からない事を考えては腰をビクつかせていた。

 ひたすら慎重に、今もなお彼は本来の欲を殺しているかの如く、優しく天の体を拓こうとしている。

 そんな潤に見詰められると、どうしようもない熱い想いが本能を揺さぶった。

 様々考えていた事が、一気に真っさらになった。


「天くん、……気持ちいいって顔してる」
「あっ……あぅ……っ……うぅぅ……っ」
「………………っ」
「潤くんっ、匂い、らめ……、」
「それを言うなら天くんもでしょ。 こんなの、もう無理だよ……僕はとっくに理性なんか無いのに」
「んぁぁっ……っ……ふぁ、っ……」
「力抜いて、天くん。 奥までいけない」
「ひぁっ、いや、……そんなの、むぃ……」


 ずぶ、ずぶ、と少しずつ確かに進んできている。

 フェロモンのせいなのか、貫かれているせいなのか、潤の声に興奮するからなのか、思考があやふやになってきた天の呂律が怪しい。

 潤の言う "奥" が分からない天は、シーツをくしゃっと握って背中を反らせた。

 脳が機能しない。

 圧迫感によって苦しいと嘆きたくとも、襲ってくるのはそれだけではないのだ。


「天くん、泣かないで。 痛いんじゃない?」
「ん、っ……んっ……らい、じょぶ。 でも、くるしい……っ」
「まだ半分だよ。 ここで擦ったらイイとこあたるかな? ……どう?」
「あっ……あっ……ちょっ、……潤くん……っ」
「う、……っ、天くん、……締めちゃダメだよ。 抜けちゃう」
「ぅあっ……んっ……」


 腰から腹をさらりと撫でられ、先端で器用に前立腺を擦られると知らず後ろに力が入る。

 快感が全身を突き抜けた。

 勃ち上がった自身の性器が、先走りを滲ませながらぷるぷると小さく揺れ動くのを感じる。 ベッドに手をついた潤が、それを見て何やら嬉しそうに微笑んだ。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)

藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!? 手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭

オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜

トマトふぁ之助
BL
 某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。  そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。  聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。

処理中です...