恋というものは

須藤慎弥

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◆ 運命?の出会い ◆

第九話

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 歳下である事が確定し、しかも初対面の人間に向かって仏頂面をし続けるのはあまりにも大人げない。

 えっと、えっと……と、知り合って間もない天の良いところを探そうと慌てる男に、そろそろ許してやるかと笑顔を見せた。


「もう大丈夫。 一生懸命褒めてくれようとしてるのは伝わった。 てか未成年だったら飲みには行けないな。 何かお礼したいんだけど、欲しいものとかある?」
「そんな、お礼なんていいよ。 ……あ、じゃあ週末の夜、ご飯行かない? 奢りとかそんなのは気にしなくていいから」
「え? それだと意味ないよ?」


 食事に行くのは何ら問題ないのだが、お礼だと言っているのにそう先手を打たれては返答に困る。

 戸惑う天の前で、男はスマホを取り出した。


「あなたとご飯行きたいなって思ったの。 ダメ?」
「だ、だめじゃない、けど……」
「番号教えてほしい。 これも何かの縁だよ」
「え、あぁ……うん」


 それもそうか。

 年齢を知っても天より落ち着き払った男に促され、何かの縁だと言われると無下に断る事が出来なかった。

 番号を告げ、その場で天のスマホが震えて彼の電話番号が表示される。

 ほんの一時間前に出会った高校生と、あれよあれよという間に何故か番号交換までしてしまった。


「そうだ。 実はさっき交番で名前書いてるの見ちゃったんだけど、あれ何て読むの?」
「名前って、俺の名前?」
「うん。 名前のところしか見えなかったんだけどね……そら? てん? それとも他に読み方あるのかな?」
「あぁ、名前ね。 てん、だよ」
「天ね。 素敵な名前。 天くんって呼んでいい?」
「………………っ」


 人懐っこいにも程がある。

 にこ、と微笑んでお伺いを立ててきた男に、とりあえず頷く事しか出来ないのはどうしても彼の美しさに気を取られてしまうからだ。

 最初から敬語を使わないところも憎めず、ましてやこの微笑みは初対面の見ず知らずの男に向けていいものではない。

 見下ろしてくる視線が優しくて、幼さなどまったく無い色気漂う笑みに不覚にもドキッとした。


「……き、君の名前は、なんていうの?」
「僕は、潤」
「潤くんね」
「え、嬉しい。 くん付け、嬉しい」


 初対面なのだからいきなり呼び捨てになどするはずがない。

 天はそこまで馴れ馴れしくはなれず、そう呼んでスマホにも ″潤くん″ と登録しておいた。

 番号交換も済んだ事だし、と天が切り出して別れを告げるのも躊躇うほど、目の前でニコニコと綺麗な笑顔を続行されていては帰るに帰れない。


「……こんな遅くまで出歩いてたら、ご両親心配するんじゃない?」
「バイト終わりだから大丈夫だよ。 今日はちょっと……あ、ほんとだ。 さすがにもう帰らなきゃ」


 時計を見た潤は、時間を確認するとようやく駅までの道を歩き始めた。

 身長差のある天の歩幅に合わせて歩いてくれて、歳のわりには気の利いた男である。

 二人とも定期を持っていたのでするりと改札を通過し、同時に時刻表へと目をやった。


「バイトだったんだ。 この近く?」
「そう。 大通りにある遅くまでやってるカフェ」
「カフェかぁ。 潤くんは制服とかお洒落なカップとか似合いそうだ」
「…………嬉しい」
「いやいや、そんなの店でしょっちゅう言われてるだろ? それだけ綺麗な顔してて、羨ましいくらい背も高いんだ。 噂の看板店員ってやつだよな、多分」
「そんな事ないよ」


 天が乗る予定の電車の到着は反対側のホーム、五分後着だった。

 褒められて無邪気に照れている潤が乗る電車はというと、こちら側のホームで七分後着との事。

 自販機に寄って行った天は商品を見回し、後ろを付いてくる潤の味の好みを想像した。

 チラと振り返ると、潤はまだ嬉しそうに微笑んだまま天を見下ろしている。

 カフェ店員に自販機のコーヒーはナンセンスかと思いつつ、この時間まで付き合わせてしまったせめてものお詫びとして、厳選したそれを買って渡した。


「はい、バイトお疲れ様のコーヒー。 微糖苦手だったらお母さんにでもあげてね。 もしご両親に遅くなった事怒られたら、俺に電話して。 説明するから」
「ううん、大丈夫。 怒られはしないよ」
「もしもだよ、もしも。 じゃ、またな」
「えっ、あ、っ……! 天くんっ」


 天が乗る電車の到着を告げるアナウンスが流れたので、急いで潤にバイバイと手を振って駆ける。

 反対側のホームに辿り着くと、向こうから潤が大きく手を振っているのが見えた。


「……人懐っこいなぁ」


 残業で疲れ果てたOLさん達の視線を一心に集める潤の姿は、天が手を振り返す前にやって来た電車車両によって遮られた。



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