恋というものは

須藤慎弥

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◆ 運命?の出会い ◆

第八話

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 結論から言うと、天の眼鏡は交番に届けられていた。 けれど何やら説明されたがよく分からなかった決まりがあるらしく、明日警察署まで行って手続きを踏み、受け取りをしなくてはならないという。

 決して特徴的な眼鏡ではないが、落としたであろう場所やその物の色、形、ケースの形状などから恐らく天の物だ。

 その場で返ってくる事はなかったが、ライトを照らして探すだけでなく、まず交番に行って尋ねてみれば良かったと心底思った。


「───ありがとう。 君が教えてくれなかったら、これからさらに違う場所に探しに行くところだったよ」
「見つかって良かったね。 僕、役に立った?」
「うん、かなり。 もし良かったらお礼に今度一杯奢らせてよ」


 探しものが見つかって晴れ晴れとしているので、十五分も監視されていた事は現金にも水に流してやった。

 天の凝り固まった考えでは、交番に赴くという発想に至らなかったため彼には素直に感謝を伝える。

 成人していそうな雰囲気もあって天は当然の礼のつもりで誘ってみたが、駅へと向かう最中、男はキョトン顔でふと立ち止まった。

 振り返った天に首を傾げて見せた動作まで、何となく優雅に見える。


「一杯って、お酒?」
「え? そりゃもちろん」
「あなた未成年じゃないの?」
「はっ!? 違うし!」


 キッと無遠慮に男を睨み上げる。

 しかしながら、天は見てくれが幼い。

 明らかに一つ二つ年下であろう男の口調がやたらと馴れ馴れしかった意味を悟り、妙に納得がいった。

 スーツを着ていると学生と間違えられる事も多く、その度に「成人越えてます」が常套句だった。

 あっさりと未成年認知されていた事に憤慨はしたが、もはや天にとっては日常茶飯事なのでそれほど声を荒らげる事もない。


「あ、そうなんだ……てっきり僕と同い年くらいかと」
「それはないって。 君は大学生だろ? いくつ?」
「え、違うよ。 大学生じゃない」
「えぇ? 社会人だったのか」
「それも違う。 僕、高二」
「………………えぇっ!?」


 サイドにかかった髪を耳にかけながら、何でもない事のように言い放った男に天は驚きの声を上げた。

 何しろ、天が予想していたよりもはるかに年齢が下回っている。

 誰がどう見ても大学生な風体、風貌なのだ。

 この時間に外を出歩いている事もそうだが、こうして並んでいると幼い見てくれである天の方が補導されかねない。

 先程の交番でのやり取りもおかしかった。

 長身の男に向かって、「あぁ、弟さんの落とし物ですね?」と決め付けた警察官に罪はないが、それを「はい」と否定もせず頷いた男の言動も本心であったなら、少しばかり切ない。

 駅目前で、大袈裟に驚いた天は苦笑する男を見上げた。

 高校二年生という事は、十七になる歳だろうか。

 天とは間もなく四つも下となる年齢差にも関わらず、この落ち着きは尋常ではない。


「驚き過ぎだよ……僕そんなに老けてる?」
「いや、老けてるっていうか大人っぽい」
「ちなみにあなたはいくつなの?」
「俺は二十一歳。 十二月で二十二になる」
「えぇっ!?」


 天に負けじと大袈裟に驚いた男は、綺麗な二重の瞳を見開いて天を凝視した。

 相当意外だったらしい。

 あまり自分で言いたくはないけれど、天は不満そうに瞳を細め、唇を尖らせた。


「……チビの童顔で悪かったな」
「あ、そんなつもりじゃないよ。 えーっと……可愛らしいね。 たしかに小さいけど、僕が大きいからそう見えるだけだよ、きっとね。 可愛い顔してるし、男女問わずモテるでしょ? あとは……」


 両手を体の前で振りながら、天の不機嫌を察知した男が分かりやすくフォローに入った。

 ようやく年相応な反応が見られて、膨れていた天の頬が次第に緩む。

 見てくれは抜群だが、何分も人の行動を監視していた男に少々の気味悪さを覚えていたけれど、いい人そうなのは何となく分かった。



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