永遠のクロッカス

須藤慎弥

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✦ 後悔の果て ✦

✧*。124※

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「それじゃ、ベッド行こ」
「えっ!? いや、海翔戻らなきゃだろ!」
「三十分あれば一回できるよ」
「………………っ!」
「ふふっ……おいで!」


 満面の笑みで手を握ってきた海翔に小走りで寝室へと連行され、あれよあれよという間にトンと肩を押されてベッドに沈む。
 唐突な欲情に喜んでしまいそうになる反面、仕事中の海翔の外聞が気になって乃蒼は上体を起こした。


「ちょっ、海翔……っ、マジで……っ?」
「うん。 大急ぎでやるから覚悟して」
「……っ、かっこいいっ」
「ふふ……っ、乃蒼それ、毎日言ってくれるよね。 どうせなら白衣着てた方が良かったのかな?」
「わぁぁっ……それはヤバいやつ! 直視できないやつ!」


 乃蒼を裸に剥きながら上品に笑う海翔の笑顔に見惚れ、白衣姿で押し倒された想像をリアルに頭に思い描いたせいで、盛大に照れてしまった。 


「あはは……! 可愛いなぁ、乃蒼。 素直だね。 酔ってないのに甘えてくるの最高過ぎるよ。 ……大好き」


 全裸の乃蒼をきゅっと抱き締めた海翔に、耳たぶを甘噛みされた。
 ピリッとした微かな痛みが、快感の波となって全身に広がる。
 数秒間だけ瞳を閉じた乃蒼は、鼻にかかったような上擦った声を小さく漏らして、落ち着かない膝を立てた。


「……ん……」
「ムードも何もないけど……ごめんね?」
「……ん、……いい、……いいよ」


 ───ムードなんかいらない。 必死で嫉妬を隠してるんだろ海翔……。 そんなの、たまんないよ。


 カッターシャツの胸ポケットにはボールペンが三本、医療用のペンライトが一本入っていたが、それを一気に抜き取ってサイドテーブルに置いた様さえ格好良くて、見ているだけで初恋のようにときめいた。
 本来は白衣の胸ポケットにあるはずのものが今ここにある……それだけ海翔は大急ぎで、大慌てで帰ってきたという事だ。

 月光とのこれまでをくまなく知られているからこそ、仕事が手に付かなくなるほど海翔の不安を誘ってしまい、帰宅してからもまだそこに不安の種が居たのだから、乃蒼の自覚が足りなかったと反省せざるを得ない。

 ぎゅっと抱き締めてきた男らしい腕に応えるように、心苦しい胸中と謝罪の意味を込めて海翔の首元に腕を巻き付けた。
 少しでも安心してもらえるならと、乃蒼自ら口付けをせがむ。


「……海翔……ごめんな、ごめん……好き……好きだよ、海翔……。 キスして、……っ……」


 恥ずかしいと思う間も、せがむまでもなかった。
 顔を傾けた海翔の唇が降ってきたと同時に、熱い舌が絡み合う。
 性急な手のひらが乃蒼のきめ細かな肌を這い、胸元をさらさらと撫でられると途端にキスに集中出来なくなった。
 乳首への柔らかな刺激が気持ち良くて、それは微弱電流のように全身を穏やかに回っていく。

 なかなか上達しない、乃蒼のたどたどしいキスを海翔は大層気に入ってくれていて、息苦しくなるまで舌を絡ませられた。
 舌先を甘噛みされてビクッと体を揺らすと、その反応に気を良くした海翔の唇が乃蒼の舌を根元から吸い上げる。
 激しい口腔内のセックスに、少しだけ意識が飛びそうになった。


「───良かった。 乃蒼を失うかもしれないって、本当に怖かった……」
「…………失うって……」
「だって……月光だよ。 乃蒼と、月光……」
「……んぁっ……あっ、……っ」


 時間がないはずの海翔は、まるで焦った様子もなく乃蒼を抱き締める。
 ここに居られるのもあと二十分。
 その僅かな時間を一秒たりとも無駄にしたくない……、そんな海翔の思いをひしひしと感じた。

 月光の事など考えなくていい。
 乃蒼はもう、悩まない。  迷わない。

 海翔の濡れた指先が後孔の内側で蠢いていたが、乃蒼はゆっくりと、欲に濡れた綺麗な瞳に視線を向けた。
 『愛してる』とその視線に乗せて、瞬きもせずにジッと見た。
 同じ熱量で見詰め返してくる海翔の指先が、熱く、激しくなる。
 普段は乃蒼に悪戯めいた事まで仕掛けてくる海翔の指が、今は一刻も早く繋がりたいとでも言うように性急だった。


「俺の事好き? 乃蒼、俺の事……好き?」
「好きっ……海翔……っ、好き……。 海翔じゃないとダメなんだよ、俺はもう……海翔じゃなきゃ……っ」
「───俺もだよ。 愛してる、乃蒼」
「……っ、あ、ぁぁぁっ……っ」


 海翔の色っぽく低い声に、ゾクッと甘やかな痺れが背中から膝に伝わる。 徐々に力が抜けていき、意図せずそこがプルプルと震えた。
 小刻みに揺れる乃蒼の膝裏を抱え上げた海翔の性器が、ぐちゅ…と内へ侵入してくる。
 顎をのけ反らせ、逞しい肩にしがみついた乃蒼の指先が青くなるほど力が入った。


 ───海翔……俺はもう、海翔のことしか見えてないよ。 告げられない想いを胸に秘めて、海翔はずっと、ずっと、傷付くばっかりのバカな俺を温かく見守ってくれてた。 密かに心を救ってくれてた。 愛してもいいんだって、教えてくれた。


 愛されたい乃蒼が愛すべき者はこの人だと、この人しか居ないと、胸が締め付けられるような甘やかな心境で海翔の愛を受け取った。

 苦しい。  重たい愛が心を潤し、全身に感じる海翔からの熱に乃蒼は今までになく声を上げた。
 最奥を貫かれ、前立腺を抉られ、乃蒼の汗ばむ肌のあちこちに唇が降ってくる。

 その間、乃蒼は何度も「キスして」と催促した。
 あんなにも嫌いだったキスを、海翔にはいくつもねだった。
 下手くそなりに舌を動かしてみるも、海翔の方が一枚も二枚も上手ですぐに主導権を握られる。
 舌を吸い、上顎を舐めて腰を振る海翔の視線が色っぽくていやらしく、最高にドキドキした。


「……っ、あっ、でる、……っ、海翔……っ、でそ……っ」
「いいよ。 一緒にいこう。 ……タイムリミットだ」
「ん、んっ……んあぁっっ……───っ!」


 鼓膜を震わせた海翔の声に、乃蒼はギュッと瞳を瞑った。
 射精と同時に締め上げたせいで、激しい挿抜を繰り返していた海翔の眉間に皺が寄る。 
 しかし熱く滾った海翔のそれは、締め付けに抗うようにさらに奥を抉り、その時を迎えた。
 





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