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✧*。 110※
しおりを挟む思い返せば、乃蒼はフェラチオなるものをした事がない。
青春時代に月光に「舐めて」と要求された事は何度もあったが、そんな気になれずに未経験なままだ。
海翔と初めて交わった時もそんな余裕など無く、酔っ払っての行為だったこの七年間も海翔は一度もそれを要求してこなかった。(……と、思う。)
「乃蒼。 やっぱりいいよ、無理しなくて……」
「無理じゃない。 海翔のおっきくて美味しそう」
「お、美味しそうって……っ」
「どうやればいい? 俺やり方全然知らない。 ……てか何で逃げるんだよ、逃げないでよ」
「逃げてるっていうか何ていうか……。 その……、初めてなら、舐めるだけにしよっか。 それ以上されると俺にも刺激が強いから」
「うん」
咥える気満々の乃蒼がジリジリと海翔に接近していくと、何故か後退りされて腹が立った。
しかも、海翔はそれをされる事が初めてではない口振りだ。
乃蒼が両手で海翔の性器を握ってみると、ぬるぬるとしていて温かい。 色も形も、やはり乃蒼の性器とは比べものにならなかった。
ペロ、と舌を出し、躊躇なく美味しそうな先端を舐めようとしたのだが、海翔におでこを押さえられ待ったをかけられる。
「ちょっと待って、乃蒼……っ。 初めてってほんと? 一回もした事ないの?」
「うん。 した事ない。 したいって思ったの海翔だけ」
「そうなんだ……」
「海翔はあるのか? 俺に一途だって言ってたのに、まさか浮気してた?」
「してないよ。 経験あったとしても、乃蒼を好きになる前の話」
「………………」
海翔が言った事を、頭の中では理解しようと頑張ってみた。
しかし、湧き上がる嫉妬は止められずに乃蒼の眉間に濃い皺を生んだ。
そうだ。 乃蒼にも月光との過去があるように、海翔にも当然それはある。
ましてやこんなにいい男を、誰も放っておくはずがない。
それは分かっている。
誰にでも過去がある事くらい、……。
「ちょっと乃蒼、どうしたの、そんな怖い顔して……」
「ムカつく。 ……海翔、俺の事好きになる前はヤリまくってたんだ。 誰かと」
「えっ!? そ、そんな事ないよ。 ヤリまくってはない。 ……ちょっとだけだよ、ちょっとだけ」
「…………!! ムカつく!」
その「ちょっとだけ」が、乃蒼の心を嫉妬の闇で侵している。
理性的になどなれなかった。
性器を握って怒りを顕にしてくる乃蒼に、海翔も黙っていられない。
「えぇっ……! ゆ、許してよ、もう十年以上も前の話だよ!」
「はぁ!? 十年以上前からヤリまくってたのか!」
「あ、違っ……!」
「俺だけにしてよ……っ、俺だけに一途だって言ってたのに……っ」
「乃蒼……甘えっ子な上にヤキモチ焼きなの? 困った人だなぁ。 十年以上も前の事にヤキモチ焼くなんて可愛過ぎるんだけど」
「………………っ」
乃蒼を好きになってからは乃蒼一筋だよ、と微笑みを携えて言われてしまうと、ムッと尖っていた唇もつい緩んでしまう。
こんなにも激しく気持ちが昂ぶり、しかも大袈裟に声を荒げて他人に何かを伝えたいと思った事がないためか、自分で自分の制御が出来なかった。
海翔なら、何に怒っているか分かってくれる。
海翔なら、乃蒼が子どものように感情を荒げても許してくれる。
気を許した相手……海翔にしか、乃蒼はこの様にはならない。
乃蒼が複雑な表情を浮かべているのをしばらく見詰めていた海翔が、ふと微笑みを消した。
「ねぇ、……俺の方がキツいと思わない? アイツとヤッた翌日に俺は乃蒼の体を舐め回したんだよ。 現場見た事もあるし、二人並んだ姿なんか何度も見てる」
「うっ……」
「俺がヤキモチ焼いてないとでも思ってたの? ……焼いてるに決まってる。 背中の皮膚移植は本気で考えといてね。 予約滑り込ませるから。 一部分だからすぐだよ」
「……ひっ……そ、そんなのしたくない……! 皮膚移植なんて怖いよ……!」
「でもバックする時に嫌でも俺の視界に入るんだよ。 この部分だけ噛みちぎって食べたいくらい憎い」
「た、食べ……っ?」
「冗談だよ。 ちょっとお腹空いてるからそんな思考になるのかな。 ……ヤキモチ焼きな乃蒼、俺はフェラされるより生でここに入ってみたいんだけど、どう?」
「…………っっ!」
「いい?」
海翔は、乃蒼が月光を見詰めている横顔に惚れたと言っていた。
それは乃蒼が今感じた嫉妬よりも、格段に大きくて深いものだと思わざるを得ない。
穏やかではなくなった海翔の瞳が、それを如実に表していた。
視線を外すと、顎を取られて強引に口付けられる。
「……っ……」
「乃蒼がおとなしくなっちゃった。 ほっぺたも真っ赤にしちゃって。 フェラはどうするの? しなくていい?」
「い、いい…っ! 今日はやめとく。 今度にする!」
「そう。 じゃあゼリー足すからお尻こっちに向けて。 仰向けね。 背中見たくないから」
「海翔……っ、海翔、俺のことほんとに好きなのっ!? こ、怖いお兄ちゃん出て来てるよ……!」
卑猥なゼリーを塗りたくる海翔に向かってそう言うと、くぷっと先端を挿入しながら海翔は笑った。
生の熱さが、性器のリアルな感触が、乃蒼の指先と下腹部を震わせる。
「乃蒼のお兄ちゃんになった覚えはないってば。 恋人、でしょ」
どうやら乃蒼は地雷を踏んでしまったようだと、海翔の美しく狂気的な笑顔を見て背中をしならせ、ようやく気付いた。
───その日、乃蒼は深夜まで食事にありつく事は出来なかった。
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