永遠のクロッカス

須藤慎弥

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 海翔は、潮風でベタつくと言った乃蒼の肌を満遍なく唇で愛撫してくれた。
 柔らかな刺激に、近頃触れる気にもならなかった己は恥ずかしげもなく反り勃って雫を漏らしている。
 体を反転させられて、背中をもくまなく舌が這う。  乃蒼は、そうしている最中も話をやめない海翔の言葉を枕にしがみついて聞いていた。


「ん、っ……っ……」
「突然サングリアを飲みたくなるんだよね、乃蒼は。 例えば嫌な夢見ちゃったとか、思い出したくない事を思い出してヤケ酒してたとか」
「……っ? ……っ?」


 海翔がお尻を揉みしだき始めた。
 すでに潤滑ゼリーを手元に仕込んでいたらしく、それの蓋の開閉音にドギマギする暇もなくドロッとした液体がたっぷりと臀部に落とされた。


「……っっ……!」


 手のひらでドロドロとした粘り気のあるゼリーを馴染ませた海翔は、乃蒼の臀部へくまなく塗り広げている。


「たまにね、乃蒼ってば俺とエッチしてるのにアイツの名前を呼ぶんだよ。 そういう時は、我慢できなくてちょっと強めに突いちゃってたな……」
「かい、と……っ? さっきから何を……」
「いつ言おうかなぁってタイミングを見てたけど、結局言い出せなかった。 俺は本当に臆病者で、弱虫だから」
「海翔……! ん、んん───っ」


 分からない話はいい加減やめろと言いかけた乃蒼の体に、力が入った。
 さわさわと淡く撫ぜられて油断していて、ぐぷ、と孔に指先が入れられた事で喉がヒクつく。
 一瞬だけ目を見開いたあと、すぐに固く瞑った。
 じわ、じわ、と侵入する指先。  孔を拡げられていく海翔からの愛撫が、たまらなく気持ち良くて何も考えられない。
 濡れた指先にはきちんとコンドームが嵌められていて、用意周到さに驚く間もなかった。


「乃蒼の体にアイツの痕跡なんか残したくなかったのに……。 ここ、皮膚移植しちゃおうか?」
「んんっ……んっ……あ、痕……っ?」
「うん、背中。 肩甲骨の上辺り。 忌々しいよ、本当」


 後孔でグチグチと音を立てながら、背中に何度もキスを落とす海翔の声音が少しだけ怖かった。
 振り返って乃蒼が腕を伸ばしても、その手を取る海翔の嫉妬は止まらない。
 乃蒼の二の腕を掴み、反応を見て、「形成に手術予約入れとこうかな……」と呟くそれは本気のトーンだった。

 未だ訳が分かっていない乃蒼は、膝を立てて海翔の指先を感じていたがいよいよ全身が震えてくる。
 蠢く指先が乃蒼のポイントを何度もグリグリと擦り上げ、苦し紛れに枕を抱いても何の意味もない。


「あっ……! そ、そこだめ、気持ちい……っ」
「乃蒼、最近一人エッチもしてなかったんだね。 中が……いつもと同じだ。 狭い」
「……っ、や、やっ──、だめ、そこばっかり……っ」
「聞いて、乃蒼。 俺はずっと乃蒼だけを想ってる。 乃蒼が誰の事を好きでも、俺の気持ちはずっと変わらなかった。 アイツを追う乃蒼の横顔に、俺は惚れたんだよ。 この一途な瞳に俺が映る日が来るといいのに……って、毎回乃蒼を抱く度に思ってた」


 中を蠢いて乃蒼を犯していた指先が、ぷちゅ……と粘膜音を立てて離れていく。
 海翔の囁きも相まって、腰が疼いた。
 どうしようもなく、疼いた。


「海翔……っ、……っ……海翔……っ」


 未だかつて、こんなに誰かを求めた事はない。
 今まで乃蒼がしてきたセックスは、性欲を満たし、流されるままに注がれる欲望をただ受け取っていただけに過ぎなかった。
 下腹部から心臓へ、心臓から脳天まで、得体の知れない温かいものが絶えず流動し、乃蒼の全身を真っ赤に染め上げる。

 心が落ち着かない。
 涙を流して開放の時を待つ己も、海翔の指先で犯された孔も、その時を心底待ちわびてヒクヒクしている。
 唇が空いてるならキスしてよ、そう言いたくても乃蒼は呼吸するのでやっとだった。

 下腹部と心がたまらなくウズウズして、何だかやけに息苦しくて、悶え啼く毎に海翔の手のひらを恨む事になった。
 海翔の指先がほんの少しでも肌に触れてくるだけで、体中に微電流が流れ続ける。
 ……知らなかった。 今までのセックスはセックスじゃないと、海翔の手のひらから与えられる熱を感じてからずっと、乃蒼はぼんやりそう思っていた。

 まだ挿入されてもいないのだ。
 乃蒼にとっては挿入こそがセックスだと認識していたので、その前にこれほど我を忘れる事があるなど信じられなかった。
 甘えるように啼いてしまうのも、縋るように腕を伸ばしてしまうのも、下手くそなキスをずっとしていたいと思ってしまう事も、今までにない。
 ひっきりなしに湧き上がる心と体へのムズムズが、意図せず乃蒼の眦に涙を生む。


「欲しい? 乃蒼、……俺が欲しい?」
「ん、……っ!  ほし、い……っ……欲しいっ」


 体を捩って両腕を伸ばすと、海翔は乃蒼の体を抱き抱えて仰向けにした。
 懇願するほど欲していた乃蒼は、自ら脚を広げて背中に腕を回し、海翔の首筋を何度も啄む。


 ───挿れて……お願い。 早く、早く、海翔を感じさせてよ……。


 しがみつき過ぎて見えなかったが、海翔が薄っすらと笑んだ気配がして猛烈に嬉しかった。



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